防衛装備品整備の基本問題
(財)DRC研究専門委員
庄 野 凱 夫
はじめに
1998年以降の防衛装備品取得・調達改革は、契約の公正性・透明性を確保しつつ競争原理を進め調達コストを低減する施策を推進して一定の成果を挙げているが、一方で過剰な低価格入札や官民の意思疎通の欠落など、企業体力の低下と良好な当事者関係の喪失による防衛力整備推進の障害をも招きつつあるようである。このため2001年年報に続いて、装備品取得・調達に係る諸問題について外国の事例を見ながら問題解決の方向を考察する。
1.防衛装備品の整備構想
(1)防衛力整備構想の設定
我が国の防衛力整備の方向は、年々の防衛白書でその一端が公表されるが、防衛計画大綱及び継続的に策定されている中期防衛力整備計画に具体化されている。これらの基本計画の下に整備される陸海空3自衛隊保有の防衛力は、機能的には欠落なく均衡のとれたものになっているとされているがはたしてそうか。
実質的には、陸海空3幕僚監部が互いの整合なしにそれぞれ独自の防衛構想を定め、年々の防衛予算を要求し、防衛庁内局の予算枠調整を受けて装備品整備を進めてきたものであって、統幕や防衛局が総合的な防衛構想によって各幕僚監部要求を統合してプライオリティを決定したり、総合調整したりするような体制にはなっていない。即ち、我が国の防衛力整備は、国家安全保障政策から始まって各自衛隊の装備品整備に至るまで、戦略環境の変化に対応しつつ一貫した思想の下で実質的に過不足なく陸海空3自衛隊の防衛力が整斉と構築されているとは言い難いのである。
(2)将来戦闘様相の予測
防衛力整備の前提条件は、当然のことながら対象国の戦力の予測推定から始まる。相手の「意図」と「戦力」がわれに対する脅威を形成するという考え方によるところである。しかし戦略・戦術を含む相手の「意図」の推定予測が常に確実であるとは言えないことから、先ず物理的な「戦力」即ち兵力、装備品の機能性能・数量・整備レベル・運用能力・機動力などの現状と将来を調査・推定・予測することが第1であり、その結果がわれの整備保有すべき戦闘能力の高さを左右することとなる。
将来の戦闘様相を推定予測し、これに対応できること即ちニーズに応えることが防衛力整備の方向を定めるスタートとなるのであるが、現実的にはニーズそのものが対象国の将来戦力推定に発していることから確実なものとはなり難い。
(3)研究開発・調達か導入か
専守防衛という政治的制約の中で、将来の有事戦闘環境において、戦って勝つもしくは敗れない防衛力を整備することが自衛隊に与えられた使命だとすれば、装備品については予測される将来戦闘様相に適合する機能性能・数量を確保することが求められる。
これを実現する方法はいくつかあるが、国内の技術開発力で実現できる見通しがあれば、必要な要求機能性能と装備化の時期を明示して研究開発するか、国内調達するかになり、国内開発の可能性がなければ、海外からの導入に依存することとなる。しかし国内開発に時間がかかると見られる場合で、優れた外国装備品が現存し導入の可能性があるときでも、単に経済原則だけではなく、防衛装備品の特殊性から国産を第1にするという取得・調達の原則を重視する姿勢がなければならない。この意味で、近年の財政事情の逼迫から安価ならば海外からの導入に依存してしまう傾向があることは、戦略的思考の停滞を示すものではないだろうか。
(4)防衛産業の維持・育成
取得改革・調達改革は「調達の基本は経済性の追及にある」という経済原則の基本認識に基づいて「財政優先」と「企業の是正」に集中し、官側に「官民協調の姿勢」がほとんど見られないまま推移して来た。即ち、国家安全保障の観点からの装備品取得・調達戦略が確立されていないため、政策としての平時における優秀な装備品の研究開発やそのための技術者の育成・確保、安定した調達・維持整備、消耗性装備品や重要素材・資材の備蓄などは十分でなく、まして有事における装備品の緊急調達機構や所要原材料の確保・配分制度、技術者を中心とした人員、生産資材・機材・施設の確保と防護などは全く考慮されていない。
国家として策定されるべき重要施策として防衛産業の生産・技術基盤維持育成施策が等閑視されているのではないかという感が深い。現在目に見えるような不具合・欠陥がないからといって所要の対策・対応を怠り続ければ、事態の急変や危機の急迫に即応することは不可能になってしまうのではないか。自国の安全保障確保の基盤となる防衛産業構造は、小なりといえども堅実強固でなければならないし、これを外国に依存することはありえないのであって、一旦基盤の崩壊があればその回復には多大な経費と長時間の努力を要することとなり、その間の態勢欠落は大きな国家危機を招かないとはいえないのである。
(5)外国の例
a.装備品整備構想の変革(イギリス)
イギリスは1980年代以降の国家経済の縮減と環境及びニーズの変化に対応するため、スマート政府化のプロジェクトとして新国家ビジネスモデル構築の運動を進めてきた。
国防省における装備品取得・調達の改革もその一環であり、1998年のSPI(スマート・プロキュアメント・イニシャティブ)構想によって明確な方向性が明示された。即ち装備品の取得・調達は、要求・開発から運用・廃棄に至る装備品のライフサイクルを通じてのビジネスプロセスであり、各段階で求める側(カスタマー)と応える側(サプライヤー)の関係で進められる。高い機動性・柔軟性・相互運用性をもつ各種の戦闘システムを用いて行われる今後の戦争行為では、陸海空3軍の区分や装備品の整備担任区分は意味がない。3軍がそれぞれ別個の装備構想から装備品整備を要求し、これを取得・調達するという従来の方式ではなく、国防という「共通の戦争目的を達成するためのニーズ」に応える抽象概念を「ケイパビリティ」として確立し、これをカスタマーとしてその実現を図るというアプローチが確立されたのである。長期的装備品のニーズとしては10〜20年後に実現できるであろうテクノロジーや国際情勢の変化を総合的に予測した軍事上の「ケイパビリティ」が国防を構成するべきだという極めて合理的な発想である。
最初に、統合遠征作戦に係る「戦略展開」「打撃」「機動」「情報優勢」の4件のケイパビリティがカスタマーとされた。そして2002年現在計画・実行中のケイパビリティは、「海上戦闘スペース」「水中戦闘スペース」「展開持久リカバー」「縦深打撃」「戦域航空管制」「戦闘支援」「NBC防御」「戦術機動」「指揮管制情報インフラ」など13件である。
国防省の科学技術研究は企業と大学に強く依存しており、研究分野でも競争性が導入されて優秀で経費効率の高い成果を参加各グループの緊密な相互連携と協調で確保する方式が確立されている。
イギリスでは10〜20年後に実現できるであろうテクノロジーを予測した将来のニーズを「ケイパビリティ」としているが、フランスでは装備研究における現状の不具合解消のニーズを30年先の装備化実現に結実する「30年予測プラン」策定を行っている。このように、ヨーロッパの先進国家はニーズオリエンテッドの極めて合理的なアプローチによって理想の取得・調達システムを探求しているのである。
英国防省では、政府自体が装備品を調達所有し運用するよりも、民活によって外注するほうが有利と判断されれば、完全アウトソーシングが採用される。例えば、人員物資輸送用のボーイングC-17輸送機や戦略海上輸送用のローロー船のリースとか、パイロット訓練のためのフライトシミュレーターの時間借りなどである。
ドイツでも、国防予算の縮減に対応する経費効率向上のため、装備品の計画整備をやめてトラブル対応型のオンコールベースへ転換すると共に、運用効率の低い装備品を民間企業へ売却することと組み合わせた大幅なアウトソーシングを行う民活が進められている。また2001年10月からドイツ陸海空3軍のすべての後方兵站部門を分離統合して統合支援コマンドに改編するという思い切った合理化施策を行うと同時に、効率的な人員物資の輸送に民間企業の輸送能力をリースするアウトソーシングが行われている。
2.装備品の取得・調達
(1)
現行取得・調達改革の問題点
わが国においては各自衛隊の実戦消耗がなく、また海外への武器輸出を行わないことによって、防衛装備品は常に多機種少量生産であり、製造価格には量産効果が少なくコスト低減の余地が少ないにもかかわらず、改革の第1目標は「コスト低減」であった。このため官は、要求性能を下げて量産型の安い民生品や部品類いわゆるCOTSを採用して製造コストを下げさせ、その上互いに競争させて更に低価格で買い上げる方策を採用している。
量産型民需品と異なり、防衛装備品においては一般にコスト低減よりも、要求性能・機能の実現を基本的な目標とするのが諸外国の通例である。実戦運用経験のない装備品では、ややもすれば要求性能・機能に余裕を持たせる傾向はあろうが、真にオ−バースペックとなっているものを除いて、安易に価格低減のためにスペックダウンを行えば将来に禍根を残すことになるのではないかと考えられる。また、防衛装備品は量産型民生品のように市場支配を狙った低価格維持のための目標コスト管理第一主義にはなじまないことに留意しなければならない。
b.適正なコスト算定
企業側の提案書作成作業や、契約に当たって提出する設計・製造等の見積価格内訳書の算定作成作業などは、多くの知的作業を必要とするが、わが国では有償化が認められていない。改革では「契約手続きに係るコスト負担の適正化を検討する」こととしているが、状況に変化はないままである。
官が自らの業務を遂行するに当たって、民の力を借りるのであれば対価を支払うのは当然であり、無償の作業を民に求めることは取得・調達改革の精神にもとるのではないか。
改革では機能・性能仕様書への移行を含む調達仕様書の見直しが必要であるとしているが、現状ではそのような機能・性能仕様書を作成することは極めて困難といわざるをえない。従って応札企業が調達仕様書だけで契約内容を十分理解することは困難であろう。要するに調達要求元の姿の見えない契約はありえないのである。装備品製造技術と製造実績及びライフサイクルを通じたフォローが可能な整備態勢などを応札企業の選定条件としていない価格優先の競争入札契約では、最良の装備品を最低価格で取得・調達することは困難であろう。
現在の装備品調達の契約方式は、一般競争契約、指名競争契約及び随意契約と減価提案制度による部分的なインセンティブシェアがあるだけで、米国のような多種類のリスクインセンティブ契約やコスト補償契約方式はない。また、企業側が一定率以上の利益を上げた場合には、利益制限条項によって当年度から、あるいは監査条項を適用して次年度から、官側がこれらを吸収し、企業のコスト低減努力が企業自身へ十分還元されない。一方欠損を生じた場合は企業側が全てを負担する。つまり企業に利益は与えないし、リスクはシェアしないという官側優先の契約方式なのである。官側が経済性の原則を言うのであれば、民側に経営原則たる利益の追求を認めなければならないのは当然ではないだろうか。
(2)
欧米諸国の取得・調達改革
a.イギリスの防衛調達改革
イギリスではスマート政府化政策による当初の防衛調達改革では一部業務の民営化と競争入札の強化によって成果をあげたといわれているが、企業は生き残りのため次第に非現実的な低価格入札を行うようになり、結果として納期遅延、予算超過、官民における意思疎通の欠落に基づく敵対的関係を生起し良好な取得・調達が出来なくなったことから、再度検討されてSPIが創出されたという。
「ケイパビリティ」に対応してサプライヤーとなる統合プロジェクトチームIPTが制度改革の中核であるが、そのリーダーは、専門知識ではなくマネジメント能力を条件に、軍人・文官・民間人から広く公募されている。IPT要員には要求・調達・契約・経理・技術・兵站の専門職員のほか主要契約企業もメンバーに参加する。このIPTは装備品納入後調達庁DPAから兵站庁DLAに移管され、装備品廃棄までのライフサイクルを通じて存続させサービスさせることとなっている。緊密なサプライヤー/カスタマー関係実現のため、官民双方向のコミットメントを表現する「パートナリング(協力者化)」概念が策定される。
研究開発については、国防省の政策策定・リスク低減・装備品仕様規定などが行われており、企業における将来装備品開発力の支援を通じての競争力強化及び資金の手当てがある。2002年計画では、全13件のケイパビリティに対応する短期の「応用研究プログラム」、10年以上の長期計画としての産官の「協同研究プログラム」及び国防省研究機関と大学との「合同研究スキーム」などの研究計画がある。防衛装備品の軍事科学技術については、国防省と国防科学技術研究所DSTLが中核であるが、産官学の協調が最も重要とされている。
b.フランスの取得・調達改革
フランス装備品予算の80%を執行している兵器調達庁DGAの1997年以来の近代化は、 防衛コストとタイムスケールの削減、DGA運営コストの削減、調達制度改革、組織改革と運用改革が中心である。調達施策の特徴は、積極的な競争原理の推進・民需品の使用・民間基準と民間サービスの使用であり、企業の生産性強化の探求と調達コスト削減である。このため積極的なアウトソーシングが進められ、官民のリスク共有契約方式も実現している。
要求性能の30年予測は、ニーズの追求で進められるものであり、現在の問題点を将来のニーズとし、その機能分析と全技術の将来予測を行って、実現の可能性と制約事項の考察を経てシステムの必要性を確定し運用構成の作成に至るのである。
防衛産業への政策としては、 装備品取得のカスタマーとして企業形態の要求を出すほか、企業への直接投資、工業機関のオーナー及びテストセンターの運用者として企業の利用を促進すると共に、法令制定権者として投資・合併・契約・価格設定・輸出等の規制を行っているという。しかし、近年の欧州における企業統合化の進展は著しいものがある。例えば、Thomson-CSFは2001年以来Thales Raytheon Systemsとなっている。これはフランスの重要な防衛産業でありながら外国資本の傘下にあるということであり、EU内のフランスの立場とも関連して、国家安全保障上の重要アイテムとしての国防産業の維持育成に複雑な関係をもたらしているのである。
c.アメリカの契約方式
国防省調達で用いられている各種の契約方式は極めて有用な参考となる。その基本的な特徴は、公開性、調達プロセスの公平性、合理性であって、手続き・根拠には一切裁量がなく、すべての作業は文書化され意思決定課程が記録されること、多様な契約形態があり詳細な手続き規定があること、調達は要求性能の達成が基本であり、正当な理由で経費の所要があれば契約履行中でも追加費用を認める契約方式があること、調達決定基準は総合評価方式であり、応札価格だけではなくBest Value(技術提案要素、管理体制、提案価格、過去の実績)によるとされていて、一般に価格の要素は小さいとされている。
連邦政府契約形態は「価格確定(Fixed-Price)契約」と「コスト補償(Cost-Reimbursement)契約」に大別されるが、その中のいずれを選択するかは官民の協議によるとされている。
「価格確定契約」には、明確な仕様書に基づいてコストと要求性能の実現に全責任を持つ「固定価格契約」、規定によって後日修正可能な「価格修正契約」、目標コスト・目標利益・支払い価格の上限等を協議して決定する「インセンティブ契約」、目標コストと利益を途中で数回修正できる「目標価格インセンティブ契約」、開発契約向けに当初シーリングで契約し後日さかのぼって価格再決定する「価格再決定契約」などがある。
「コスト補償契約」には、かかった費用は支払うが利益なしの「コスト契約」、許容範囲内で全費用と最小限利益を保証する「コスト+インセンティブ契約」、固定利益と開発期間短縮等の報奨金付きの「コスト+報奨契約」、官民双方にリスクがある時に最小限利益を保証する「コスト+固定価格契約」などがある。
更にその他の契約として、将来の納入時期や正確な納入数量が未確定な時の「納入未確定契約」、契約期間中の発注最小限と可能最大限を規定しただけの「要求契約」、「労務契約」、「緊急調達契約」などがある。また、知的作業契約としては、政府職員への「支援依頼業務契約」や「システムエンジニアリング・技術支援業務(SETA)契約」などがあるが、契約時には納入されるべき物件やサービスの納期、数量が決められないが知的作業プロジェクトをともかく開始したい場合に、最小発注量と将来予想最大限(金額)を指定するだけの「納入・数量未確定IDIQ契約」がある。また、標準のサービス契約でアウトソーシングを実施し(たり)、フルタイムの技術的助言・支援を得る契約方式もある。
更に、知的作業のコストを公正に評価するため、国防省は多くの職種について内容(レベル)を定義し、それぞれに妥当な購入価格を決めている。即ち、チーフサイエンティストを筆頭に、プログラムマネージャー・アナリスト・プログラマーなど70ものカテゴリーに区分して時間あたり単金(標準経費率)を定めている。
3.問題解決の方向
官民の意思疎通を図る対話の実施や苦情処理の制度化などは一定の意義を有するが、特に調達関係職員の公務員としての意識改革が重要である。即ち、取得・調達の最終カスタマーは国民であること、健全な防衛産業の存在なしに装備品の取得・調達は不可能なこと、などの自覚が官民の上下意識の解消につながるであろう。更に、官民協調には取得・調達制度及び契約方式における官民の公平化が不可欠である。民に利益を与えない、官はリスクをとらないということが根底にあるような現行方式では真の官民協調は成立しがたい。
また官民の人材交流を進めることも有用であろう。米英で行われているように民間企業人を取得・調達組織のメンバーとして採用し(たり)、取得・調達研究教育機関で民間企業人を研究教育に参加させる方法は、官民の意思疎通に有用である。また逆に官側から企業への人材派遣も必要であろう。
(5)外部能力の活用
調達官の人数・能力の不足を補うため、調達業務の一部を支援・代行する独立機関の部外設立や、調査・研究・検査・教育訓練・整備・補給・サービス調達等のためのアウトソーシングを積極的に推進すべきである。また、大規模なシステム開発等においては高度の知的作業が求められるので、官の技術的能力を補強するSETA制度の導入が必要である。
(6)取得・調達研究機関の設立
取得・調達に係る業務の適正化を推進するため、これらを専門に研究する第三者機関を設立すると共に、この機関に強い監査権限を持つオンブヅマンを置き、官民から独立して、取得・調達関連業務実施の実態や不具合等を公正な立場で調査・監査させ、成果と対策を公表する制度を設ける必要がある。
おわりに
国家安全保障の基本である防衛力整備における装備品の整備について、陸海空3自衛隊の統合装備構想がなく、取得・調達に国産を優先し防衛産業生産基盤・技術基盤を維持育成する具体的施策がないこと、コスト低減・コスト管理、競争原理の追及、契約方式等の現行制度に柔軟性・公平性がないことなどから、欧米諸国に見られるような合理的で公正な取得・調達制度の設立が強く望まれる。
ここに示したいくつかの問題解決の方向について、防衛庁関係者主導のもと国家安全保障に万全を期すことが必要であろう。
2.DRC基本研究―英独仏研究調査結果、上田愛彦、小林貞雄、庄野凱夫、Dr.Simpson(DSTL)
and Mrs.Brooker(MOD), 2002.3.18、ほか