新しい時代の民軍協力
(財)DRC研究参事
遠 山 久 人
序 言
2002年5月7日、日本では、衆議院の有事法制特別委員会で武力攻撃事態対処関連法案の審議が始まったが、第2次大戦後の長年の懸案であった有事法制がようやく立法化の方向に動き出した。そしてこれを契機に、「民間防衛」(Civil Defense)の問題がマスメディア等でも話題として取り上げられるようになった。しかし、この場合の論議の中心テーマは、国民の生命等の保護もしくは国民生活の安全確保などのいわゆる「市民防護」(Civil Protection)におかれ、将来を見据えて国の安全保障・防衛のために、緊急事態における市民の権利の一部制限を含め、国民全体として相携えて如何に備えるべきかという視点での議論が欠けているように見受けられる。
2001年9月11日の米国における同時多発テロ以降、21世紀における新しい型の戦争、いわゆる「非対称戦争」に備えることが国家安全保障上の急務となっている。そしてこのためには、国家として関係するすべての力を組織的に運用し全体で対処するいわゆる「Total Defense」が求められ、軍と民間の緊密な協力の重要性がますます高まっている。特に、日本のように人口の都市集中化や高度の情報化が進んだ社会においては、テロを含む非対称的手段を使った挑戦や脅威が、市民生活のみならず国の安全に極めて重大な影響を与える危険があり、自衛隊をはじめとする国家的組織と地方自治体等の民間組織とが協力して、新しいタイプの戦争等の危険に備えることが強く求められている。
このよう観点から、「Civil Military Cooperation/CIMIC」(民軍協力)の先進国である欧州諸国の考え方を参考にしながら、新しい時代の民間と軍隊(以後、日本に適用する場合は「自衛隊」と読み替える)の協力のあり方について考察することは、21世紀の日本の防衛を考えるうえで有意義なことであろう。
1.民軍協力の分野と機能
民軍協力(CIMIC)の概念について、北大西洋条約機構(NATO)などではかなり広くとらえていて、同盟国軍が駐留し、宿営し或いは運用される地域における、市民或いは公的機関と軍との間の関係に係わるすべての行動及び措置を含めている。
そもそも「軍事的防衛」と「民間防衛」の間には、国家と国民を守るという共通の目標が存在し、活動の相互依存性は多岐にわたっているが、民・軍の密接な協同作業の基盤は、十分に機能を果たし得る民間防衛体制にあるといえよう。
民間防衛の一般的使命には、本源的な使命としての「市民防護」のほか、国家及び政府機能の維持、食糧及び水その他の生活必需物資やエネルギー等の補給と併せて、人的・物的支援或いは役務の提供等による軍隊に対する支援が含まれているが、更にこれにある限定された分野での軍による民間防衛活動への支援を含めて、一般的なCIMICの概念が形成されている。
ここでは、これらのCIMICに係わる分野のうち軍隊が大きく関与する3つのものについて、果たすべき主要機能及び実施事項について概観する。
(1)市民防護
市民防護の果たすべき主要な機能としては、一般に@自己防護(Self Protection)、A防災、B広域的救援活動、C防護施設建設、D警報・警告活動、E保健業務、F住民の居住規制と避難措置、G文化財保護が挙げられているが、このうち軍隊の行動に深い係わりを持つD項とF項について、主な実施事項を挙げれば次のものがある。
a.警報・警告活動
市民の自己防護、並びに防火・消防、救助・介護、回収・修理等の防災活動を円滑かつ効果的に実施するためには、市民生活に危害や被害を及ぼすような事態に関する情報を先行的に収集し、適時に警報或いは警告を発することが必要である。
この際、一般に遠距離の情報収集手段及び専門的な分析・評価能力を必要とする事前の兆候情報は、専ら軍の協力に期待している。一方、それらの兆候情報等に基づいて、該当する地域住民に適時に警報し、警告を発するため、また、併せて事態発生直後の現場の情報を組織的に収集する目的をもって、国家の計画に基づいて広域的な警報・警告組織等が構築される。
b.住民の居住規制と避難措置
武力攻撃事態等の生起に際して、住民の居住を規制し或いは避難を進めることは、住民の防護と同時に軍隊の作戦行動の自由を確保するためにも必要なことである。これらの業務は、本来地方自治体等民間機関の責任で実施されるが、特に民軍協力して進めるべきものには次の2つのことがある。
@住民の避難や移住を目的とする移動を制限するための計画を作成し、実行すること
A避難することがより大きな危険をもたらし、或いは公共の秩序維持や軍隊の道路上での移動を大きく阻害するような場合に、自宅に残留しなければならない人たちのための防護施設を建設すること
(2)民間の組織等による軍隊に対する支援
民間の組織等によって行われる軍隊の作戦行動に対する支援には、本来的に民間の責任に属する活動分野で行われる支援と、民間の支援を得て遂行される軍事的行動・措置がある。
a.民間の活動分野において行われる支援
本来的に民間の活動分野で行われる軍隊に対する支援は多岐にわたるが、継続的かつ広範囲に行われるものとしては、重要物資及び施設等の提供、並びに労務・役務の提供がある。
(a)物資・施設等の提供
住民に対する食糧及び水などの生活必需品やエネルギー等の補給は、民間防衛の主要な機能の一つであるが、一般的に軍隊に対しても同様の支援が実施されている。このほか、病院などの民間施設或いは輸送手段等の提供が期待されている。
(b)労務・役務の提供
軍が必要とする労働力を提供し、或いは人員・物資の輸送や軍用装備品の修理等の役務を提供することは、民間の軍に対する支援の重要な部分を占める。このほか、補給路の維持・補修などの役務提供もこの種支援に含まれる。
b.民間の支援を得て遂行される軍事的行動
本来軍の責任に属する業務等のうち、人的・物的補充のための動員業務、報道・広報業務、道路・橋梁等のインフラストラクチャーの整備業務、遺体処理業務等は、地方自治体など民間機関の助けを得て実施される。
また、円滑な軍事交通の維持及び部隊の運用地域への展開に係わる指揮、阻絶・拒否行動の準備及び実行、並びに隊員に係わる衛生・保健業務等は、民間の積極的参加を得て調整され、共同作業で実施される。
(3)軍隊による民間活動の支援
軍隊に対して民間側が期待する支援としては、一般的に次のものが考えられる。
@広域的に生起する緊急事態に際しての直接的救援活動
A武力攻撃事態等における民間重要施設の警備・防護
B組織的・武装蜂起的暴力行為への対処
C住民の移動・疎開の整斉たる実施に必要な技術指導
D緊急輸送のための軍用飛行場等の共同使用
このほか、民間活動による軍の作戦行動の妨害を回避するため、作戦遂行に支障のない範囲で、部隊の後方地域における行動について地方自治体の責任者等に通知することが求められる。
2.安全保障上の環境・条件の変化
近年における安全保障に係わる環境及び条件の変化は、急テンポでかつ多岐にわたっているが、中でも効果的民軍協力の実施に大きく影響するものとして、対応を要する危険・脅威の多様化、軍備のハイテク化及び高価格化、若年労働力の減少傾向、並びにマスメディアの影響力の増大が挙げられる。
(1)対応を要する危険・脅威の多様化
冷戦の終結から10年余りが経過し、世界的な流れとして、新たな国際的枠組みの中で国家間の戦争を極力回避し、紛争の平和的解決を図る方向にある。しかしその一方で、新たな危険或いは脅威として、一部の中小国や非国家的武装勢力が、テロリズムなどのいわゆる非対称的手段をもって大国や国家権力に対して挑戦し、或いは民族対立や宗教対立等に起因する武力紛争が、周辺諸国を巻き込んで拡大していくことが懸念されている。
最近におけるテロの手段や形態は、一般的な武器や破壊手段を使用した旧来型のものに加えて、核・生物・化学(NBC)兵器を使用するもの、更にはサイバー・スペースにおけるテロ活動など多様化の方向にあり、その活動も国際ネットワーク化する方向にある。特にNBCテロの恐怖は、市民に与える心理的影響が極めて大きく、対応を誤れば社会全体にパニックを引き起こす恐れさえある。また、サイバーテロが原子力発電所や大規模化学プラント、或いは航空管制及び高速鉄道統制システム等に対して行われた場合、重大事故につながる危険性がある。
(2)軍備のハイテク化及び高価格化
近年における軍事科学技術なかんずく情報技術(IT)の急速な進歩は、軍備のハイテク化を生み出し、軍の組織・管理・運用面での近代化を促している。そしてその結果として、高度な専門的知識を有し、技術的にハイレベルな能力を有する軍事要員の確保が軍の精強化に不可欠の要素となっている。また、軍備のハイテク化・近代化は、一般傾向として軍備の高価格化をもたらしており、軍事力の整備・運用に当たって、より一層の効率化と経済性の追求が強く求められている。
(3)若年労働力の減少傾向
わが国において若年年齢人口の減少が社会全体の問題として取り上げられるようになってから久しいが、十分な素質を有する自衛隊員を確保することは、将来ますます難しくなるものと見られる。
2002年1月に発表された国立社会保障・人口問題研究所の推計数値によれば、自衛官適齢(18才〜26才)人口の推移は、1994年の約890万人をピークとして急激に減少しており、2018年頃には560万人程度になると見られている。その後は、カーブが幾分緩やかにはなるが引き続き減少の方向にあり、2048年には407万人にまで減ると見積られている。これはピーク時の46%弱に相当する。
このような傾向は、いつに日本だけの問題ではなく、他の先進諸国においても似たような状況にある。例えば、英・独・仏の3カ国について、米商務省国勢調査局の推計値を基に、総人口に占める募集適齢(20才〜24才)男子人口の比率を、2014年と2034年で比較してみると、英国が6.8%から5.5%に、ドイツが6.4%から5.3%に、フランスが6.6%から5.8%にそれぞれ減少している。
(4)マスメディアの影響力の増大
2001年9月11日ニューヨークの世界貿易センタービルを襲ったテロ事件は、次々と起きる惨劇の生々しい映像がリアルタイムで世界中のお茶の間に配信され、これを見た多くの人々に計り知れない衝撃を与えた。
ますます巨大化し国際ネットワーク化したマスメディアは、様々な優れた技法を駆使して国民世論にインパクトを与え、国家の内外政策の決定に直接的な影響を与えるまでになっている。そして、それは今や、国家の存立に係わる防衛政策或いは緊急時の軍事行動の決定をも左右しかねないほどになっている。
3.将来の民軍協力において特に留意すべき事項
前項に述べたような安全保障上の環境・条件の変化は、民軍協力(CIMIC)の計画及び実施に様々な影響を与えているが、そのような中で、将来起こり得る国家の緊急事態に対して効果的に備え、適切に対処するためには、民軍協力の観点から、以下に述べるようなことに特別に留意することが必要となろう。
(1)総合防衛体制の確立
将来予想される国境横断的或いは超国家的な危険や非対称的脅威は、旧来型の戦争のように狭い意味での軍事的目標に対してのみ起こり得るものではなく、例えばテロや破壊活動のような形で、民間の人物や目標物にも及ぶものと考えるべきであろう。しかもそれらは、平・戦時の区別なく、広域的かつ突発的に起こり得るものである。また、国家間の武力紛争においては、将来とも軍隊同士の戦いが決定的な役割を果たし続けるであろうが、そのような中で、社会的・心理的要素の占める比重がますます大きくなるであろう。
このような状況の下で、万一起こり得る多様な事態に国家として適切に対応するためには、民間防衛を含め、国家として総合的な防衛体制を確立することが必要である。そして、これを効果的な民軍協力推進の観点で見れば、複雑な脅威等に対応するための協同連携を強化し、それぞれの本来的任務を整斉円滑に遂行するための相互調整システムを構築することが求められている。
a.協同連携の強化
将来予想される非対称脅威等への対応のうち、特に民軍協同連携して当たることが強く求められる分野は、テロリズムを含むサイバー戦の分野と心理戦の分野であろう。
(a)対サイバー戦
日本においても、いわゆる「電子政府」実現に向けての全国規模の実証試験が2002年度中にスタートすると報ぜられているが(2001.10.23 日経朝刊)、社会全体に情報化が進めば進むほど、サイバーテロやサイバー攻撃の脅威は増大する。特に最近では、軍及び民間の重要システムがいろいろなネットワークを通じて連接されているので、対サイバー戦は国家安全保障上の最重要課題の一つとなっている。
サイバー・スペースは、世界中どこからでもアクセスが可能で、テロや攻撃の実行者の特定が難しく、その企図を把握することも困難である。サイバー攻撃等に対しては、ネットワークへのアクセスの瞬間に発見し、排除することが望ましいが、それは技術的に非常に難しい。また、攻撃の技法も日々新たなものが生み出され適用されるようになっている。従って、このような脅威に適切に対応するためには、民軍協力して広域的かつ継続的に監視し、追跡調査し、収集データを分析・評価することはもとより、専門的技術力を結集して有効な対応策の開発に努めることが必要である。
(b)心理戦防衛
国家の危機に適切に対応するためには、政治的・経済的安定とともに心理的安定の確保が不可欠であるが、非対称的手段を多用する将来の戦争等においては、住民に対する外部からの心理的働きかけが一層増大するであろう。即ち、敵対的勢力が、時にNBC兵器を使用する攻撃やテロの実施をちらつかせながら、デマ・風評、意図的誤報道或いはプロパガンダを巧みに織り交ぜながら、住民の間に不安感を醸成し、或いは軍と住民の離反を策することが考えられる。
心理戦防衛の最高の目標は、国民の抵抗精神及び防衛意志の維持・高揚にあるが、その達成のためには、民・軍の関係機関等が緊密に協力して必要な防衛施策を実行することが必要であり、軍の報道・広報業務責任者とマスメディア代表者の間の相互信頼関係は、心理戦防衛の成功に不可欠なものと言えよう。
敵の宣伝や情報操作などの心理的攻勢に対応するのは、第一義的に政府及び地方行政機関等の使命であると考えられ、これまでは、軍人一般の傾向として、国民への情報提供や状況説明に消極的もしくは無関心であった。しかし、今やそれは平時を含め軍隊指揮官の最も重要な使命の一つになっている。
b.相互調整システムの構築
民間防衛の本来的機能を効果的に果たしつつ、軍隊の整斉円滑な行動を可能ならしめるためには、民間と軍の間で相互支援について不断に調整するシステムを構築し、国家の緊急事態対応計画に基づく訓練を実施して、この調整システムが緊急時に十分機能するようにしておくことが必要である。
特に、軍隊の作戦行動の妨害を回避するために行う民間の道路交通の規制・統制及び緊急時の通信規制、民間と軍隊の需要が競合する緊要補給物資の確保・配分或いは航空及び鉄道輸送手段の使用、軍による重要民間施設の警護並びにNBC防御を含む市民防護等については、関連する組織すべてを統合する中央レベル及び地方レベルの調整システムの構築が求められる。
(2)能力の相互活用
a.軍による民間能力の活用
社会全体のIT化や軍備の高価格化が進み、若年労働力の減少が問題視される中で、限りある国家の人的・物的資源を有効に利用し、経済性・効率性に対する要求を満たすためには、軍による民間能力の活用(いわゆる「民活」)がますます重要になってきている。とりわけ、民活分野の拡大並びに民軍の組織的活動の推進は、当面する大きな課題となっている。
(a)民活分野の拡大
世界の主要な先進諸国の軍隊では、これまでにもかなり広い分野にわたって民間力の活用が図られているが、日本の自衛隊においても、後方支援業務や駐屯地の生活支援関連業務、訓練施設等の維持・運営業務等の分野で、部分的に民間委託が進められ、更には平和維持活動(PKO)等に際して緊急の所要を満たすために、民間通信システムのリース等が行われている。
しかし、冷戦終結後の環境の変化並びに軍隊の任務の多様化は、民活分野のより一層の拡大を求める方向にある。最近の欧米諸国軍の例を見ると、これまで民間に部分的に使用が開放されてきた装備品等の研究施設や教育関連施設が、更に一歩進んで、民間の運営による民軍共同使用の方向に移りつつある。近年ドイツ連邦軍で推進されている民活の具体例を挙げれば、教育・訓練用弾薬の補給処から末端の使用部隊への補給、駐屯地給油所における燃料補給等の後方支援業務、連邦軍の行政業務支援計算センターや陸軍戦闘演習センターの運営はもとより、最近では更に一歩踏み込んで、陸軍戦車部隊学校における補給及び教育用車両の管理・運用を、包括的に民間の業者に委託するところまで進んでいる。
一方英国では、国連のPKOへの部隊派遣において、経費を節減し、より機動的な展開を可能にする目的をもって、いわゆる「雇い兵会社」と呼ばれる民間の軍事専門会社を活用することについて検討を始めたと報じられている(2002.2.15日経朝刊)。
(b)組織的活動の推進
新しい時代の厳しい環境・条件の中で、経済性及び効率性に優れた防衛体制を追求していくためには、民間と軍が共通の問題意識、共通の目標を持って協力し、組織的な活動を推進することが必要である。とりわけ、情報活動及び人材の育成・活用の分野における協力は、強力なリーダーシップの下に進めることが望まれる。
o情報活動
テロ及び破壊活動、大量避難民の越境不法入国、ゲリラ・コマンドウ攻撃などを含む多様な脅威等に、国土戦の利を生かしつつ適切に対応するためには、民軍協力し、中央と地方が連携して隙間のない情報ネットワークを構成し、継続的な活動を行うことが必要である。
特に日本のように長大な海岸線を有し、国土の大半を山林が占めるところでは、外部から隠密に不法侵入して潜伏活動を続けることが比較的容易なので、地方自治体レベルでイニシアチブを発揮して、地域の特性に合った民間の情報組織を構成し、これを自衛隊の組織と有機的に結合して、全体としてシームレスな活動に努めることが不可欠である。
o人材の育成・活用
軍隊の近代化、ハイテク化の進展に伴って、優れた素質を有する人材、スキル・レベルの高い技術者への需要が増大しているが、それは民間の経済界・産業界にも相通じるもので、一般的に言って両者は競合関係にある。
今後とも減少の一途をたどる若年労働人口の推移を考えるとき、人材の確保と後継者の育成及び活用について国家的レベルで総合的に施策し、民・軍双方が長い時間のスパンの中で有効に補完し合うような、実体的な協力を進めることが必要である。
b.軍による民間の危機対応力の育成支援
民間の危機対応力について、緊急事態発生時の初動対処及び被害局限の視点で見ると、一般に地方自治体レベル、「赤十字」などの準公共団体或いは純粋に民間の組織として、各種の危機対応能力が備わっている。また、警察においても通常のテロに対する対応能力のみならず、最近では、NBCテロ対処能力を有する特殊部隊が編成される傾向にある。しかしながら、それらの能力は、近年急速に増大しつつある、専門的技術・装備をもって対応することを必要とし、或いは大規模災害を伴うテロなどの脅威等に対応するには極めて不充分である。
米国における「9.11事件」以降、わが国でも警察の特殊部隊として「NBCテロ捜査隊」が全国の主要都道府県警察に編成され、また、大都市圏の地方自治体の一部には、テロ事件発生に備えた危機管理の対応策を定め、県庁・市役所に全庁的な対策組織を設置するところも見られた。例えば、川崎市では、関係局の長及び全区長など22人から成る「生物化学兵器等対策連絡協議会」を開催している。しかし、それらはいずれも、実効性ある活動を期待し得る実働組織を編成するまでには至っていない。
このような民間の能力に対し軍隊は、例えばNBC防御部隊や各種の情報専門部隊等を保有し、民間には無い特殊な能力を備えている。わが国の防衛庁・自衛隊でも、現有の長官直轄の第101化学防護隊のほかに、新たに対NBCテロ専門部隊の創設を検討しているといわれる。従って、軍隊には、緊急事態発生時の対処行動はもとよりのこと、民軍協力の一環として、教育・演習の実施を通じて民間の対処要員の専門的識能及び対策本部等の組織的活動能力の向上に寄与することが期待されている。
結 言
これまで、民間防衛に焦点を当てながら、新しい時代の環境・条件に適合した民軍協力(CIMIC)のあり方について考察してきたが、将来予想される厳しい状況の中で協力の実を上げるためには、単なる協力や協同の域を超えて、互いに共通の目的意識、連帯意識を持って取り組むことが必要であろう。もとより、この際たとえ軍隊に対する民間による支援が求められたとしても、それは決して一般住民を使って敵と戦わせようとするものでなく、有効に機能する民軍協力の基盤の上で、軍隊が整斉と作戦行動を遂行できるようにすることを狙うものである。
このような観点で見るとき、わが国において今後民間と自衛隊の協力を推進するに当たって、特に次の3つの事項について留意することが求められる。
@情報の共有化を進めるに当たって、保全強化策とりわけサイバー・スペースにおける秘匿及び安全施策について同時に措置すること
A武力攻撃等の緊急事態に際して国益に沿った情報及び広報活動を実施するため、平時から防衛庁・自衛隊とマスメディアの協力の枠組み及び条件を作り上げておくこと
Bテロなどの脅威・危険に迅速かつ効果的に対処するため、中央と地方が一体となって必要な危機管理組織を構成し、更に、平時において非常事態対処のための計画を作成し、自衛隊等の参加を得てこの計画に基づく訓練・演習を実施しておくこと
わが国において上記のような施策・措置を実行に移し、将来の多様な脅威や危険に対応し得る国家の危機管理体制をできる限り速やかに確立するためにも、まず、有事関連諸法案について民間防衛を含む多面的な検討に基づいて整備し、一日も早く法律として制定することを望むものである。