北東アジアにおける安全保障環境の行方

 

(財)DRC研究専門委員

吉 田  曉 路

はじめに

 北東アジアの安全保障環境は、冷戦時代から冷戦後の現在へと大きく変貌してきたが、現在の比較的安定した状況が2030年後まで継続するという保証はない。

最近仄聞するところによると、防衛当局はテロやゲリラなどの低強度の紛争(Low Intensity Conflict, LIC)は生起するかもしれないが、2030年頃を想定しても大部隊による着上陸侵攻などの高強度の紛争(High Intensity Conflict, HIC)は考えられないと判断しているらしい。この判断が、これからの自衛隊の役割はLIC、国際貢献あるいは大規模災害への対処であり、編成装備特に陸上自衛隊の軽量化を促進すべきという主張の論拠になるとすれば取り返しのつかない禍根を残すことになる。

 一般的にいえば、当該国の安全保障環境は、周辺国の軍事力の所在のみに着目するのではなく、関係国の国家戦略すなわち国益追求に当たっての外交及び軍事上のドクトリン、同盟あるいは友好条約等の国際関係、対象国の軍事行動パターンとこれまでの兆候、そして対立する紛争原因の有無などを総合的に判断する必要がある。また、少なくとも2030年後の脅威を想定する必要性は、将来脅威に備えるべく導入する装備は研究開発に10年、有効に運用する期間として10年を見込まねばならないからである。さらに、安全を確実に保障するためには、現実的かつ幾分悲観的に推測することが肝要であり、言うまでもなく楽観的な判断により国家の将来を誤ってはならない。

現在の北東アジアは、独自の外交を展開する米中露という核を保有する国連常任理事国がひしめき、また朝鮮半島と台湾という軍事的危機が現に存在している極めて不透明な安全保障環境である。2030年頃の安全保障環境が現在の延長線上にあるのか、ないとすればいかなる方向に変化し、どのような脅威が生起する可能性があるのだろうか。

 

1.米国一極支配による安定―冷戦後から現在まで― 

  冷戦後今日までの北東アジアの安全保障環境は、強大な軍事力を背景とした米国による一極支配によって辛うじて安定を維持してきたといえる。また、この間、舞台裏で果たしてきた日本の経済及び科学技術の面での貢献も著しい。その全般的な構図は図−1の通りであり、日米中露の4カ国がとりあえず安定した国際関係を保っている。米国との関係では、日本が日米安全保障条約により最も強固な関係にあり、次いで韓国が米韓相互防衛条約により軍事的に連帯している。米国と中露は、緩やかな友好関係といえる戦略的なパートナーシップを結んでいるが、最近米中関係は米国が一方的に戦略的競争者と規定するなど台湾問題を含み亀裂含みになっている。一方、中露善隣友好協力条約は、米国の一極


支配に対抗する形で01年に締結された。また、最近、首脳外交を始め中露による朝鮮半島への接近も目立ち始めてきている。こうした状況を踏まえると、このところ北東アジアの安全保障関係が比較的安定的に推移してきた理由と日本への脅威がソ連一辺倒であった冷戦時代から明らかに変化してきたことが判る。

 図−1 冷戦後から現在までの北東アジアの国際関係

(1)これまで北東アジアが安定していた理由

a 旧ソ連軍の解体的消滅?

 わが国の安全保障にとって冷戦後10年間の最大の変化は、極東からのロシアの軍事脅威を当面胸算する必要がなくなったことである。確かにこの間ロシア軍は、89年当時の兵力400万人、軍事費1,200億ドルから2000年の兵力100万人、軍事費600億ドルへと大幅な削減を見せてきた。同様に極東ロシア軍も50万人、40コ師団から、最近は11万人、10コ師団以下と大幅に減少している。当然、装備の更新遅れ、給与不払いなどによる士気・練度の低下が甚だしい。また最近までNATOの東方拡大に脅威を感じていたロシアは、二正面作戦を回避するという伝統的思想から極東での活動が掣肘されていた影響も見逃せない。

    一方わが国は、「支援委員会」を通じ、通信及びエネルギー関連プロジェクト、中小企業・民営化関連プロジェクト、核兵器解体支援として液体放射性廃棄物処理施設の建設あるいは大量破壊兵器関連の科学者・技術者の流出防止のため合計63億ドルの資金拠出を行ってきている。こうした経済支援は、経済再建を第1目標としていたこれまでのロシアにとって失いたくない援助であるといえる。

ただし、日露間は1956 年の「日ソ共同宣言」で戦争状態の終結を表明し、両国の国会はそれを批准したが、北方領土問題すなわち国境線画定の問題が未解決で正式の平和条約締結には至っていない。

b.米国による危機の抑制

    北東アジアには、軍事的に対峙している朝鮮半島と台湾海峡という2つの危機地域がある。朝鮮半島は、1953 年に結ばれた朝鮮戦争の休戦協定があるだけで、平和条約が締結されておらず、50年間法的には戦争状態が継続している。この間、韓国に対して北朝鮮からのテロ、ゲリラあるいは特殊部隊による陸海からの領域侵犯が間歇的に生起してきた。冷戦後においても、軍事的には事態の改善は見られないが、軍事力を含めて双方の国力の格差は増大してきている。また、ロシアが北朝鮮への兵器移転を控えてきたことに加え、韓国は経済成長と共に米国から最新兵器を積極的に導入してきたことの影響は大きい。さらに、最先端の兵器を装備した駐韓米軍36,000人、在日米軍38,000人の存在は、間違いなく北朝鮮をして本格的な軍事的暴挙に出ることを抑制している。また、国際的な食料援助、韓国の太陽政策そして中露が南北の両国と重複して国交を持つようになった最近の事情は、朝鮮半島を安定化の方向に向かわせている。

台湾問題は、台湾政府にとって深刻な問題であるばかりでなく、日中関係や米中関係の進展を阻む要因となっている。中国は、台湾側の一方的な独立宣言や外国の介入があれば、武力行使も辞さないとの方針を堅持している。しかし、この10年以上の間、台湾は、中国の侵略を抑止するために、近代兵器システムを獲得するなど軍近代化に努力している。たとえば、数10億ドルが、戦闘機及び防空システムのような国産プログラムの推進、米国製F-16戦闘機及びフランス製ラファイエット級フリゲート艦といった外国製装備品の購入に費やされている。この結果台湾は、2005年までに約400機の最新戦闘機、約1,500台の戦車、約30隻の主要水上艦艇を保有することになり、中国に対して質的優位を占めることになる。その上、先年中国軍のミサイル演習に際し第7艦隊を急遽派遣した米国の台湾関連法に基づく台湾への肝いりと朝鮮半島の安定化指向は、台湾問題の武力による解決を遠ざけている。

c.国力強化に専念している中国

ソ連崩壊という現実に直面した中国は、強かな外交を繰り返しながら一貫して経済と軍事力の近代化に注力し、国力の強化に専念してきている。だが、中国のナショナリズム、大国主義、そして地球上最後まで残る共産主義国家という特質は、これからも大きく変わることはなく、21世紀の超大国化が国力強化の最終目標と見て間違いないであろう。現在はその過渡期であるが、経済1つを見ても次のようにその成否は5分5分というところではないだろうか。すなわち、GDP成長率は、95年以降10%前後と飛躍的に伸びているが、2000年の1人当たりGDP850ドル(日本の40分の1)、外貨準備高1,650億ドル(日本の半分弱)程度である。最近のWTO加盟は企業の国際競争力の向上が求められ、08年のオリンピック開催は立ち遅れていたインフラ整備に多額の経費が必要になっている。また、失業問題の深刻化、経済構造のアンバランス、少数民族の圧迫などの社会不安を抱えていることも不透明感を増している。何れにしても、中国を潜在的脅威と感じる近隣国は多々あるが、史上今日のように中国の軍事脅威が少ない時期はなかったといえる。

(2)冷戦後におけるわが国への脅威の特徴

   冷戦時代の脅威は、ソ連から北日本への着上陸侵攻一辺倒であった。しかし、ソ連の脅威が消滅したため防衛計画大綱は、「我が国に対する軍事的脅威に直接対抗するよりも、自らが力の空白となって我が国周辺地域における不安定要因とならない」という「脱脅威論」と名付けられた何とも奇妙な防衛力保持の論拠を展開することになった。確かに(1)で述べたように、冷戦後のわが国の防衛環境は比較的安定しているが、それは単に脅威が間接化し、また潜在化している一時的な現象と捉えることが必要である。

a 脅威の間接化

朝鮮半島における北朝鮮からの脅威は、休戦ラインにおいて韓米両軍が臨戦態勢により防守し、かつ在日及びCONUSの米軍が至短時間にバックアップすることになっている。台湾海峡についても、質的に優位にある台湾軍に加え、第7艦隊をはじめとする米軍が直ちに応援できる態勢にある。北東アジアにおける2つの危機地域は、当該国軍と米軍という2つの防壁によって危機の突発がほぼ封じ込まれている。要するに、今日の状況は、これら2つの危機地域を経由してわが国に直接的に脅威が及ぶ状況ではないのである。こうした環境であるが故に、米国は周辺事態に際しわが国の支援を必要とし、また国際関係が変化すれば俄に脅威がわが国に直接及ぶことになる。

b 潜在化している領土・資源問題

   過去の戦争原因の60%以上は、領土、資源問題であったといわれる。わが国は、北方4島、竹島、尖閣諸島という3つの領土問題を抱えており、また海洋法に基づく漁業、海底資源問題も少なからず存在している。関係相手国は、ロシア、朝鮮半島の2国、中国及び台湾という周辺国全てが対象であり、北方4島及び竹島は現に官憲により不法占拠されており、尖閣諸島は時折中国系民族により侵犯されている。

   これらの問題は、わが国のお人好し外交、ロシアの軍事力の低減とその他の当事国が軍事的対峙の関係にあるため、現在たまたま潜在化している状況といえる。  

 

2.4極構造による不安定化―2030年頃までに想定される環境変化

  北東アジアにおける米国1極構造は、ロシアと中国の国力充実のプロセスが遅延あるいは失敗し、かつ朝鮮半島と台湾海峡という2つの危機地域特に朝鮮半島が現状のまま推移した場合比較的長期にわたって継続することになろう。ただし、これらの条件は、ロシアと中国の関係強化、両国の朝鮮半島におけるイニシャティブ、中台関係の進展の度合い、北朝鮮の政治・経済・社会状況あるいは韓国の世論によって急激に変化していく。中でも朝鮮半島が何らかの形で統一された場合の影響は大きく、またその蓋然性は中台関係の改善を遙かに上回るし、訪れる機会も意外に早いのではなかろうか。2030年頃までには、独裁者金正日の高齢化、経済の逼迫、食糧事情の悪化、亡命者の急増、韓国の太陽政策と世論、中露の積極的な介入など多くの引き金が複合的に作用するからである。


朝鮮が統一された場合、中露及び朝鮮民族の反対により在韓米軍は撤退せざるを得ないし、米国は北東アジア重視の政策から軍事力の前方プレゼンスを含みコミットメントを軽減する政策に転換することになろう。この時点で、北東アジアにおける米国1極支配は終焉し、図−2のように米中露日の4極構造が形成される。この結果域内の安全保障環境は、多国間相互において目まぐるしく協調と牽制が繰り返され、域内の勢力均衡は流動的になるなど不安定化は避けられないだろう。

図−2 2030年頃までに想定される北東アジアの国際関係

(1)2030年頃までの主要国の動向

a 北東アジア戦略から後退する米国

中国とロシアに地続きの朝鮮半島における米軍のプレゼンスは、北東アジアにおける安全保障を主体的に牛耳ることができる象徴的な存在である。穿った見方をすれば、南北対立の継続は、米国のグローバルな戦略にとって好都合な状況といえる。ブッシュ政権の「悪の枢軸」発言は、南北関係の固定化という現状維持を期待する本音の吐露という側面も否定できないのである。こうした朝鮮半島からの米軍撤退は、米国にとっては北東アジアにおける安全保障戦略を転換せざるを得ない重大な契機となる筈である。

また元来、米国民には、世界から手を引いて国力の増強を図るというモンロー主義に回帰しようとする衝動がある。このことは、01年の国防報告で「東アジアでの10万人のプレゼンス維持」の表現削除、01年のQDRに示されたホームランド・ディフェンスへの傾斜、NMD構想の推進、あるいは軍事力改革において機動性を重視―いうなれば、プレゼンスからプロジェクションへの転換―などから少なからず窺えるのである。

何れにしても、朝鮮が統一された場合韓国における米軍プレゼンスに対する反感やこれを歓迎しない態度が顕著となり、米軍駐留の継続を正当化するのは困難となろう。米国のアジア戦略は、現在の北東アジア最優先から後退することは間違いなく、危機事態に際しても選択的、部分的な関与に留まる可能性が大きい。

b ロシア、ソ連型体制に逆戻り?

最近のロシアの政治は、嘗てのソ連のように中央管理体制を徹底的に強化する方向に進んでいる。安全保障会議は、KGB出身者を中核に据えて権力中枢機関としての役割を果たすことになり、プーチン大統領による一党独裁体制とナショナリズムへの回帰が目立ってきている。また、2000年の国家安全保障構想では、国益優先と軍事的脅威の高まりを協調し、「国家の安全保障にとって危機的な状況下での大規模侵略に対抗する場合には、通常兵器による攻撃に対しても核兵器使用の権利がある」と明記した。主要な国外からの脅威の筆頭には「領土返還要求」を挙げ、日本との間の北方領土問題への強硬姿勢を示唆している。ニコライ一世の「一度ロシアの国旗が掲げられた土地では、決してそれを降ろしてはならない」という言葉は、未だに生きているのである。

中国とは01年に善隣友好協力条約を締結するとともに、中国、カザフ、キルギス、タジキスタンの5カ国による安保・経済・文化等広範な協議の場として「上海協力機構」を創設した。ロシアにとって中国は、兵器市場としても上得意先であり、今後の両国関係は益々強化されるであろう。また、ソ連時代のアジアにおける同盟国であったヴェトナムと北朝鮮とも兵器輸出、原子力技術協力など関係強化が進んでいる。

01年3月の外務省の世論調査では、「ロシアは脅威である、将来脅威になりうる」は合計61%であり、「脅威でない」21.9%を大きく上回った。こうした国民の認識には、現在ロシアの支配下にある水域での日本漁船の操業問題、核廃棄物投棄や石油流出に見られるような日本海の環境汚染、核兵器などが「ならず者分子」の手に渡る危険なども含まれているのであろう。ロシアが依然保有する膨大な通常兵器、核兵器及びそれら兵器の効率的な管理、あるいは極東ロシアでの政軍関係者の腐敗は重大な懸念事項となる。

c 中国の対外拡大指向

中国における政治、経済、社会事情は、2030年後においても現在と同様に相変わらず不透明感を払拭できないであろう。政治情勢は、経済の国際化とは裏腹に若い共産党幹部にマルクス主義の理論を叩き込んでいるように共産党による独裁体制は変わらないと思われる。その経済は、成長を継続するとしても沿岸部とその他の地域との貧富の格差を増大し、社会不安を強める虞がある。政治、経済、社会におけるこうした2面性は、中国が強大化するのか弱体化するのかを決めかねる不安定要素である。

こうした中で、軍事力近代化の政策は不変であり、ハイテク化・精鋭化の方針の下に先進的兵器を引き続き意欲的に導入するであろう。この結果、数年後には中台軍事バランスが中国優位に転換するのは明らかであり、また、空・海軍優先の近代化はその軍事戦略とともに注目した場合中国の対外拡大路線に拍車がかかることが懸念される。数年前に西沙諸島から南沙諸島に軍事基盤を推進し、現在はベンガル湾からマラッカ海峡にわたって中国海軍が常在している。中国軍事戦略では、主権問題と領土紛争については武力による解決を放棄しないことと中国海軍の活動範囲をいわゆる「第二列島線」(小笠原諸島、マリアナ諸島、グアム、パラオ)まで拡張することが着目すべき特徴といえる。中国が台湾海峡を将来掌握した場合、わが国シーレーンの大部分が彼らの覇権下に陥ることになりかねないのである。

2000年以降わが国の安全保障に直接係わる中国軍の実行動としては、@中国の中距離弾道ミサイルが日本に照準を合わせて配備されている、A情報収集艦が津軽海峡を通過し、本州、四国、九州の周辺海域を一周した、B東シナ海において海底油田調査に伴う相次ぐ越境行為を繰り返している、などが判明している。また、1999年8月の上海国際戦略学会が政府関係者に提出した論文には、近未来における中国の最大の敵は日本と記述されているという。

d 統一朝鮮の気になる行方

朝鮮半島が統一されるいくつかのシナリオが取り沙汰されているが、何らかの形で統一朝鮮が誕生した場合に安全保障上危惧されることは、次の3点に要約できる。

その第1は、統一国家の政権がいかなる体制・性格を選択するかである。すなわち、完全な統一国家か、一国二制度的なモザイク国家か、あるいはさらに別の形態になるのかである。また、民主主義と自由主義経済体制を基本とするのか、部分的にでも独裁主義的な計画経済を採用するのか、である。第2は、米国及び日本との関係と中露との接近の度合といった国際関係の行方である。第3は、いずれ低下する経済力復活の処方箋と当面存在するWMDを含む巨大な軍事力の処置である。

要するに、新しい統一国家の形態には、少なくとも8通りの選択肢が存在することになる。これらの中わが国にとって最悪の形態は、経済力が大幅にダウンした上に相当の軍事力を温存するナショナリズムの高揚した反米抗日の政権である。なぜならば、@経済力低下は過去の清算要求など莫大な経済支援の要求、A有り余る軍事力による恫喝あるいは竹島などの軍事占拠、B在日同国人によるスパイ、テロ活動の多発、など心配は枚挙にいとまがないからである。

(2)変化するわが国への脅威様相

a 直接かつ顕在化する脅威

朝鮮半島が統一され、台湾問題がある程度進展すると先に述べた2つの防壁が失われ、ロシア、朝鮮半島及び中国からの脅威が顕在化して直接わが国に指向される。これらの国とは、北方4島、竹島及び尖閣諸島という領土(資源)に係わる紛争原因を抱えており、また後者の2国とは歴史認識など過去のしこりが年中行事のように外交問題化している。

領土問題でいえば、北方領土は、海底資源や、排他的経済水域による漁業の利益の外、この地を故郷とする多くの住民が生存している。竹島は、日本が設定した排他的経済水域が領有権を主張する韓国が設定した水域と重複している豊富な漁業基地である。尖閣諸島は、1996年に日本、中国及び台湾で領有権を主張する係争海域であり、国連の調査によれば近辺海域の大陸棚には石油資源の存在が判明している。これら3島は、現在のところそれぞれの国と妥協する気配はなく、竹島と尖閣諸島は明日にでも武力占拠によって実質的に領有される虞が少なくないのである。

b 複合化する脅威様相

将来予想される脅威の様相は、いろいろな事象が複合されて生起する場合が多くなる。外交交渉と並行して軍事的な威嚇、封鎖がしやすくなり、軍事的脅威に併せて在日同胞による政治的な混乱の作為あるいは対象国における邦人救出事態など非軍事事態の突発などである。また、軍事に限った場合でもこれまで想定していた陸海空からの正規軍による直接侵攻とテロ、ゲリラ、WMDの使用など非対称の軍事脅威が同時的に生起することも考えておく必要がある。この正規軍と特殊部隊との共同作戦行為の有効性は、米国が既にパナマ(1989年)、グレナダ(1983年)進攻において実証しており、わが国の対象国は何れも特殊部隊と共に海空軍、ミサイルの質的強化に努めているのである。特に、数千の離島を持つわが国は、こうした地域限定の奇襲作戦を被りやすい地理的特性にある上に、貧弱な危機管理システムと法制上の欠落はこうした事態を招きかねないといえる。

おわりに

北東アジアの将来の安全保障環境を考える場合、いくつかの状況の変化を想定することができる。たとえば、朝鮮半島有事の勃発、米国のアジア政策の変化、中国軍事力の台頭、極東ロシアの混乱などである。ここでは最近の事情から朝鮮半島の統一が最も蓋然性があり、かつわが国の安全保障にとって最も影響の大きい状況の変化と考えたが、その他の状況が生起する可能性も否定できず、また複合的に変化することもあり得るので、全てについて総合的に思考実験を行わねばならないのだろう。

 また、北東アジアにおける多極化構造は、NATOのように多角的安全保障協力が成立しがたく、わが国としては米国との安全保障協力が引き続き基本となろう。但しこの場合、これまでのような米国依存体制から集団的自衛権を行使できる双務的体制への転換が不可欠となる。これからの計画大綱及び防衛力整備計画は、こうした状況の推移を視野に入れた上で再検討されるべきではなかろうか。

主要参考資料  

1.平成13年度 防衛白書

2.平成8年度以降に係わる防衛計画大綱

3.21世紀の国際秩序と東アジアの安全保障 平成12年度シンポジウム報告書 防衛研究所

4.東アジア戦略概観2001 防衛研究所

5.アジアの安全保障20002001 平和・安全保障研究所

6.アジア2025 米国防次官99年夏季研究最終報告 世界週報2000/12/5号など


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