曲がり角にきた北東アジア地域の平和と安定

−北朝鮮問題の跡にくるもの−

 

(財)DRC研究参事

 阿 部   博男

 

はじめに

 冷戦構造崩壊後の世界で不安定地域の一つとして朝鮮民主主義共和国(北朝鮮)と大韓民国(韓国)とが対峙している朝鮮半島がある。そこでは、1955年6月北朝鮮の韓国侵攻で始まった朝鮮戦争が57年7月27日(57.07.27と以下表示)休戦協定調印によって停止して以来、46年に渡って双方160万人といわれる兵力が日夜厳しい警戒の態勢を続けてきた。この休戦協定は国連軍、朝鮮人民軍、中国人民志願軍の三者によって署名されたものであった。韓国は休戦を認めることができないとして署名を拒否し、このことが今日まで尾を引き、北朝鮮は韓国を和平協定の相手とすることを認めず、米国との直接交渉に固執することになっている。

 2003年8月27日から中華人民共和国(中国)の斡旋で始まった六者協議は、同一のテーブルに朝鮮半島に関係のある中国、北朝鮮、ロシアそれにアメリカ合衆国(米国)、韓国、日本国(日本)の六カ国代表が参加するもので、これまででは考えられない画期的な意見交換の場である。

 この協議は、まだ始まったばかりで、これからの交渉の成り行きは予測できないが、結果はどのようなものであれ、北東アジアの平和と安定、ひいては繁栄に大きく寄与するものと考える。

 昨年は、小泉首相訪朝が実現して北朝鮮問題に大きな進展が期待されるものと予想した。その論拠として、世界中の国々が北朝鮮に対して国交を持たない韓国、米国それに日本と関係正常化を求めて話し合うよう、そして関連する諸問題を平和裏に解決するようにと行動していることを挙げた。

 これまで、北朝鮮はこの最も関係の深い、そして利害関係のある三国と関係正常化の機会があった。しかし、韓国とは一切の交渉を拒み、話し合いが始まっても直ぐに決裂させた。米国とは交渉自体は拒まなかったものの、核開発、ミサイル開発、通常戦力による脅威の削減等に関する議題設定に反対し、94年の「米朝枠組み合意」で設定された軽水炉建設の遅延を問題とし、電力補償問題の優先討議を要求し、話し合いの場すら持つことはなかった。

 このような閉塞状況に風穴を開けたのは、対北朝鮮包容政策を提唱した金大中前韓国大統領が切った最後の切り札,林東源特使の平壌訪問(02.04.)である。そこで、韓国とは懸案の改善と閣僚級会談の開催、米国については朝鮮半島和平協議担当特使並びに元駐韓大使の訪朝受け入れ、また日本には、行方不明者問題の早期解決と関係改善のため日朝赤十字会談の早期開催を約した。

 その後,日朝首脳会談(02.09.)が平壌で実現し、国交正常化交渉に道が開かれたのと同時に行方不明者の去就が明らかとなり、五人が拉致被害者として帰国することになった。十月には、米ケリー国務次官補の平壌訪問が実現し、北朝鮮が秘密裏に核開発を行ってきたことが暴露された。米国の疑念が現実の問題となったのである。

 韓国の前大統領、現大統領ともに北朝鮮の核開発を考慮せずに対北政策として食料支援、経済援助等を実施してきた。そこに核開発が明るみでたのである。

 北朝鮮は、核開発放棄を梃子に米国から金正日(金総書記)体制の保証と経済・食料援助を引き出そうとしている。米国は、そのような言質を与えることなく、核開発を放棄させようと考えており、両者の駆け引きは関係四カ国を巻き込んで地域の安全に関わる政治的・外交的な大きな問題となっている。

 六者協議の開催まで漕ぎ着けた北朝鮮の核開発問題に関係各国がどのように関わってきたかを考察し、今後の北東アジアの地域的安全について考察するものである。

 

1.この一年で地域的安全保障上現れた特記事項

 

(1)北朝鮮が核開発に手を染めていることを認め、体制の保証と経済・食料援助の取引材料としてきた。核査察を拒否し、核兵器開発に向けて動き出した。

(2)核疑惑再発で94年の「米朝枠組み合意」は破綻をきたし、電力用重油の供給が停止された。

(3)北朝鮮は独自で経済改革を始めており(02.07.)、その成果は未知数である。日本との国交正常化交渉を急いだのは、経済改革での資金を期待したのではないかとの見方がある。

(4)主要輸出品目であるミサイルは、部品の90パーセントが日本製であるとの情報で、日本の輸出管理が厳しくなり、ミサイルの輸出に制約がでるのではないかとの声がある。

(5)覚醒剤、麻薬、武器、偽札等いわゆる正常な貿易でない方法で得ていた外貨資金が判明し、国際的に対策が取られるようになってきた。

(6)日本から拉致をして北朝鮮に連れて行かれた被害者の一部が帰国し、拉致の実態が明らかになった。拉致被害者は北朝鮮に家族を残してきており、その帰国の問題と、拉致が明らかになったものの死亡とされた被害者の状況調査報告資料があまりにも杜撰であったために、再調査を求め国交正常化交渉は始まっていない。

(7)廬武鉉韓国新大統領は、選挙運動で在韓米軍撤収と北への食料支援について積極的なことを口にしており、反米的と見られている。

(8)世帯交替をした胡錦濤国家主席を筆頭とする中国指導部は、米国との協調路線を取り、北朝鮮の核開発問題でも積極的に活動して、対話による平和的な解決を実現しようと努力している。

 

2.関係各国の変化への対応

 

(1)北朝鮮

北朝鮮は冷戦終結後も孤立化と独自軍事強化路線を維持してきた。ソ連の崩壊と中国の改革・開放路線を見て、嫌悪感を覚えたに違いない。冷戦時、支援を受けた経済、軍事援助は停止し、両国が朝鮮戦争以来宿敵である韓国と国交を結んだことで北朝鮮は孤立感を増し、米国との二国間交渉に固執することになった。

北朝鮮の核開発は、米国に関心を持ってもらうためとの見方もある。物議を醸し出すことで政治大国として世界の関心を買うことができると考えている。

無関心を装ってきた韓国が経済的に成長を遂げたので、利用する事を考えた。自尊心を捨て経済格差からくる韓国民の同情を利用しようとしているのである。

米国は、朝鮮戦争で戦い、統一を妨害し、韓国の軍事力を強化している憎むべき敵である。心の底から恐ろしい国として国民を教育しており、また体制維持のため米国の力を利用しようとしている。

日本は、朝鮮半島を35年に渡って支配をした憎むべき国であり、その贖罪感からくる脇の甘さを見透かしている。長年に渡る不審船の運行や定期・不定期を利用した違法な商取引、その支援者の存在はその一例である。

金総書記は米国の先制攻撃でイラクのように体制が崩壊することを深刻に憂慮すると同時に、核査察を受けた場合、長距離ミサイル問題、生物・化学兵器の問題、通常兵器削減、麻薬や偽札問題、人権問題等と次々に圧力を掛けられ、結局は丸裸にされて体制が崩壊するのを恐れているものと思われる。

朝鮮半島エネルギー開発機構(  KEDO)は北朝鮮が「米朝枠組み合意」への重大な違反をしたとして重油供給の停止を理事会で決定(02.11.)した。これに対し、北朝鮮は核施設再稼働(02.12.)を宣言し、国際原子力機関(IAEA)査察官を追放した。核不拡散条約(NPT)からの脱退を宣言(03.01.)し、緊張が高まっている。

4月、中国の斡旋で開かれた三者協議(米、朝、中、)で、北朝鮮の李根(リグン)外務省米州副局長は米側に「核の保有」を言明し、兵器用プルトニュウム抽出を意味する使用済み核燃料の再処理に着手したことを伝えた。

7月から8月にかけて北朝鮮は、複数のチャネルを通じて、米側に核実験を仄めかしたり、核関連物質や兵器の輸出を非公式に伝えて、核開発を梃子に不可侵条約の締結と経済支援を要求している。協議再開への動きが高まる中、北朝鮮は米国が主張する韓、日に加えてロシアも含めた六者での協議を提案してきた。これは自分の理解者、代弁者を味方に付けて協議を少しでも有利に持って行きたいとの思惑からと考えられ、協議には真剣に臨もうとしている。

(2)ロシア

   ロシアの前身ソ連邦は北朝鮮を建国した国である。当初、工業立国として国造りを始め、技術援助、経済援助、軍事援助を実施した。一時期、工業立国として成功するかに見えたが、何れの旧日本領の占領地域で見られるように、日本時代に建設された工業設備の使い捨てが行われて、次第に工業立国としての能力の低下を見ることとなった。ソ連邦は再投資に熱意がなく、利用できる物は利用した。  

   ロシアのプーチン大統領は、金総書記とこれまで三回会談し、緊密さをアピールしている。にもかかわらず、従来、軍事的自動介入条項のあつた相互援助条約は親善・善隣・協力条約に改訂(00.02.)され、無償援助の停止と債務償還の督促が行われた模様である。

   ロシアはソ連邦時代に北朝鮮に黒鉛炉原子力発電施設を提供したことがあり、核開発に責任の一端を持つことになる。したがつて、北朝鮮に核開発の破棄を説得しようとしているが、有効な手だてを打つことができないでいる。

   ロシアは、北東アジアで初めて北朝鮮も含めた海難、捜索、救難演習を企画・立案し実施(03.09.)した。北朝鮮が参加するということで一時米国は準備不足を理由に不参加の意向を表明していたが、結局参加している。ロシアの地域での安全保障への関わりに配慮を示したものと考えられる。

(3)中国

   中国は、朝鮮戦争時北朝鮮に義勇軍を投入した血で結ばれた同盟国である。このため、一方への攻撃は他の一方への攻撃とみなす自動介入条項を持つ軍事条約を締結(61.07.)して、今なお有効である。

   自力更生の経済政策で国民を豊かにすることができなかった中国は、改革・開放路線を採用(78.)し、外国からの投資を積極的に受け入れ、急速な経済成長を遂げている過程にある。したがつて、中国には、何にもまして国内外の安定が必要であり、北朝鮮が核武装することで周辺諸国に不要な波紋を及ぼすことには賛同できないとしている。これを見て米国は、中国が北朝鮮に核開発を放棄するよう働き掛けることを期待している。

   中国は、北朝鮮の核開発問題で滞っている北朝鮮と米国との信頼関係を修復するため政治、軍事等のいろいろなレベルで北朝鮮との対話の機会を意図的に設定し、説得に努力してきた。その成果が先の四月に北京で行われた三者協議と、引き続き行われた今回の六者協議である。胡錦濤国家首席はブッシュ米大統領と電話で会談(03.07.30)し、「北朝鮮に核開発計画を断念させる最善の方法は、米国とともに周辺諸国が責任を負うことだ」と述べている。これは関係各国で北朝鮮の体制を保証すると同時に経済建設に助力を提供する代わりに、譲歩を迫るもので、お互いに忌憚のない意見を述べて、相互の意思の疎通を図る必要がある。このような協議は、今後も継続することになろう。

(4)米国

 米国は、冷戦後の脅威を核を含む大量破壊兵器の拡散と同運搬手段並びにその技術が拡散することとした。9・11同時多発テロ(01.09.11)は、テロの手に大量破壊兵器が渡ることは絶対に阻止をしなければならないことを教えた。

 米国は、北朝鮮の核開発に疑いを持ち、94年には、長い折衝の結果軽水炉提供を柱とする「米朝枠組み合意」の調印に成功した。しかし、再度、核開発の疑念が現実のものとなり(02.10.)、米国は、北朝鮮に対する不信を更に募らせ、違反には見返りを与えないとする立場を明確に示している。そして、対話と圧力を交渉の手段とすることとし、北朝鮮に核開発の放棄なくして生き残る道がないことを分からせる努力をしている。政権内部には「体制変換論」さえ囁かれている。米国は、北朝鮮への経済援助には否定的である。核の放棄と引き替えの食料・エネルギー支援は「悪行への褒美になる」との立場を採っている。

   人権の尊重、法の支配を普遍の原理とする米国は、北朝鮮のような個人による支配に嫌悪感を持ち、核開発を検証可能な形で放棄するのでなければ、必要があれば武力行使も辞さないとの考えを崩していない。米国が、今回北朝鮮との接触に応じたのは、米朝接触に意義を認める関係国に対する配慮からである。

 米国は,駐韓米軍の撤収を口にしたノムヒョン大統領に不信感を持っており、韓国内の反米運動が大々的になれば、韓国からの撤退をも視野に入れている。

(5)韓国

 前政権の「包容政策」を受け継いだノムヒョン新大統領は、北朝鮮への対決姿勢を顕わにする米ブッシュ政権とは異なる対北政策で選挙を戦い当選した。  

 しかし、米軍の存在を認めないとしたことは経済情勢に重くのし掛かり、外国からの投資が不安定になって不況からの脱却を遅らせているといわれて、政権就任後は米国に配慮した政策に変更している。

 在韓米軍は、反米的運動には神経を尖らせており、学生の演習場乱入(03.08.07)事件には厳重な対応を求めている。また、ラポート在韓米軍司令官は、「米国内の反韓感情の拡散が憂慮される」と発言し、北朝鮮問題を控え、米韓関係に溝が深まることを恐れている。

 北朝鮮の核開発が問題になっている中で、米軍の韓国内での再配置が実施に移されている。米軍の地球規模での再配置の一環というものの、最近の韓国内での反米運動とは無縁であると言い切れない。米軍は、対北朝鮮戦力の弱体化を防ぐため戦力の強化策を発表し、北朝鮮に誤った判断をしないよう配慮している。

(6)日本

   昨年(02.)9月、小泉首相は急遽北朝鮮を訪問し、金総書記と直接会談し、

  「日朝平壌宣言」で国交正常化への道を開いた。国交正常化を優先としていた小

  泉内閣は、金総書記が日本人の拉致を認めたことで、拉致に対する世論の怒りを背景に対北朝鮮政策を拉致家族の帰国を交渉の前提とした。その上、北朝鮮が核開発を認めたことで、その破棄を強く求めることとなった。

   一昨年(01.11月沈没した不審船を引き揚げて調査した結果、北朝鮮の日本周辺海域での不法活動がほぼ判明し、テロ活動の実態が明らかになった。

   日本は、この経験を踏まえ、大量破壊兵器の拡散、麻薬等不法商取引の阻止には海上封鎖も辞さないという拡散防止構想(PSI)に積極的に参加するとしており、このほど豪州西太平洋上で実施された11カ国が参加した演習には海上保安庁の巡視船が参加する他海上自衛隊からもオブザーバーが加わった。

 

3.主要問題点とその対応

 

(1)北朝鮮の核開発と体制存続の保証

   昨年(02.1023日訪朝したケリー米国務次官補が北朝鮮の核疑惑を問いつめた結果、それを認めたのが最初である。その後、IAEA査察官の追放(02.12.)、使用済み核燃料棒の再処理開始、北京三者協議(03.04.23)では核開発の実施と核兵器保持の公表等、疑惑としていたことが次々と事実となって明らかになった。

   米国は、中国、ロシアを始めヨーロッパ諸国を北朝鮮の核保有に反対する立場に引き込む努力を外交的に行い、日本は、それに加えて拉致問題解決に賛同を得るため関係各国、主要国に機会を捉えて状況を説明し理解を得ている。

   「米朝枠組み合意」は北朝鮮の核開発で破綻したが、合意によって始まっていたKEDOの枠組みは、今なお生きており、状況により再び息を吹き返すことも考えられる。問題は、北朝鮮が何を考えて核開発を臭わせているかである。そして,どこまで核開発が進んでいるかである。核兵器を持つことを望んでいるとすれば、実兵器としての核兵器の有効度をどのように考えているかを論議してみる必要がある。代償によっては放棄せざるを得ないことを北朝鮮に理解させる必要がある。そこまで行くことができれば、北朝鮮の体制は保証できるのである。

   北朝鮮は、麻薬、覚醒剤、偽札、武器等の不正な取引で莫大な利益をあげていたと言われている。今日、これらの事実が明らかにされ、その防止策がPSIとして、実地に生かされてきている。北朝鮮は、今までのような国の生き方では国家の生存は危ういことを知るべきである。

(2)韓国内の統一気運と人権問題

   北朝鮮は、長らく鎖国政策を執り、限られた人たちしか外国の事情を知ることはなかった。また外部から北朝鮮の内情を知る手段も限られていたし、国の中でどの様なことが行われているか知る由もなかった。特に軍事優先の秘密主義は北朝鮮を得体が知れない国として周辺・関係諸国から腫れ物に障るような扱いをしてきた。

   国内経済不振、食糧不足それに長期独裁政権が原因で、いわゆる脱北者と言われる亡命難民や政治的迫害を恐れた亡命者がぼつぼつ出るようになって国内の一般市民の困窮した状況や恐怖政治の実態が朧気ながら明らかにされてきた。

   本年(03.)4月、国連人権委員会は北朝鮮の人権問題を取り上げ、北朝鮮を非難する決議を採択した。ところが、南北交流促進を主要な政策としてきた韓国はこの決議に加わらず棄権してしまった。そして国民の顰蹙を買うことになったのである。政府に対する非難の中心は北からの脱北者であつたという。北の強制労働を経験しており、この人達の訴えを核開発問題や南北交流の進展が見られず業を煮やしていた韓国民に北朝鮮の人権問題への関心をもたらした。       

   南北朝鮮の和解、協力、平和はそれぞれに重要な政策目標である。浮ついた気持ちでそれぞれの政策に取り組むと、厳しい「先軍政治」で徹底してきた北朝鮮に対抗できないのではと憂慮される。対北朝鮮政策に取り組むとき、常に人権の尊重の目を持って北朝鮮の政策を見据え、北朝鮮民主化の芽を育むことができて初めて北朝鮮に対応できるものと思う。北朝鮮が民主化に向かえば初めて平和統一も、おそらくは北朝鮮の非核化も最終的に実現するのではなかろうか。今の韓国は、北朝鮮の苦しみを自分の苦しみとして感じていない嫌いがある。利己主義の風潮が漲り、北の痛みを共有できない。このようなことでは、相手を納得させることができる施策は取れないのである。

(3)ロシア、中国と北朝鮮の関係

   冷戦が終結し、ソ連邦が崩壊したためにロシアと代わった。ロシアは北朝鮮に対する影響力を著しく低下することになった。北朝鮮は、ロシアの最新兵器だけに関心を持つものの、ロシアは外貨でしかも現金で支払われる時だけ、提供できるとしている。北朝鮮には、高値の花である。

   ロシアは、この度の六者協議の中で、北朝鮮の体制保証を文書とする提案をすることで参加することとなった。辛うじて面目を保つことができたのである。  

   中国は、食料、原油、コークスの最大供給国で北朝鮮にとって最小限必要な生活物資を供給してきた。それでも北朝鮮は、中国を信用していないといわれている。金総書記には、中国は、社会主義理論に背いた修正主義者、大国主義者、支配主義者と映り、北朝鮮に修正主義を吹き込もうとしているとの疑いを持っているといわれている。

中国は、北朝鮮が核を持つことを認めていない。もしも北朝鮮が核武装するようなことになると日本、台湾、韓国の核武装のドミノ現象を招来しかねず、中国としては由々しき問題である。中国が北朝鮮の言い分を聞きながら、米国を始め世界の世論を背景にどの様に決着を付けることができるか、この春から政権を担当する新指導部の外交手腕の見せ所である。

北朝鮮にとつて六カ国協議は国際社会に生き残る最後のチャンスであるとの見方が大方である。もしも次の協議をボイコットするようなことがあれば、北朝鮮の核開発問題への対応は国連安全保障理事会に移すことになり、更に厳しい情勢が待ち受けることになると思われる。北朝鮮は、今回始まった六カ国協議を利用して、周辺諸国と意志の疎通を図らなければならない。

 

4.北東アジアの安定と繁栄のために

 欧州では欧州連合(EU)が地に着き、統合通貨が普及し、東欧10カ国の加盟を目前にしてEU憲章が論議されて地域的纏まりで存在価値を高めている。

一方わが国周辺の北東アジアでは冷戦が終結してから10数年を経過しているにもかかわらず、今なお朝鮮半島と台湾海峡に冷戦構造そのままの対決状態が存在し、不安定な状況にあることは残念といわなければならない。

しかしながら、80年代から始まったこの地域の経済的発展は著しく、今日では人口13億といわれる中国の急速な経済発展もあって、冷戦時代とは異なった地域的な環境になりつつある。その中で唯一得体の知れない軍事路線に固執しているのが北朝鮮である。しかしながら、北朝鮮も徐々に地域諸国に門戸を開いてきているように思われる。ただ核開発を梃子に体制の保証や経済援助を獲得しようとする姿勢は、前近代的と思われ、周辺・関係諸国が等しく困惑し、対応に手を焼いている所である。

ともあれ、北朝鮮が六者協議に応じて参加してきたことで、北朝鮮問題は紆余曲折を経ながら、落ち着く所へ落ち着くものと考える。その形は、地域の安定と平和にとって脅威となるようなことにはならないと考える。わが国として地域の平和と繁栄に貢献するために考えなければならないことは次のようなことを提案したい。

(1)地域の安定に構想を持つこと。日本は従来国連中心主義の立場で全てを処理す  ることを考えてきた。しかしながら、国連には限界があることが実体験で確認できるようになった。国連の存在意義を認め、その発展を図るとともに地域のことは地域で処理するように力を貸すことを考える必要がある。

(2)今回の北朝鮮核開発疑惑で明らかなように、米国は北朝鮮の核開発を断念させるためにどれ程の忍耐を持って北朝鮮に接してきたか、それができるためには精緻な情報活動がある。日本は第二次大戦で敗れてから、一切の情報活動を禁止され、以降独立国になってからも自前で情報を採る努力を怠ってきた。もしも日本が地域の安定に主体性を持って責任を果たそうとするならば情報能力を強化する必要がある。

(3)EUは、経済的な繋がりから発足し、今では政治的な繋がり、軍事的な繋がりに発展し、加盟地域を広げて、発言力を高め、地域の安定引いては世界の安定と繁栄に寄与しようとしている。アジア地域は、歴史的に欧州と異なる経験をしてきたが、それだけに返って相互の信頼を築くことが容易であるかもしれない。どのような構想で地域の安定を図るか考えを纏める段階に来ていると思う。日本は第二次大戦で破れから、地域の安定に寄与しようとする発想を放棄してしまった。今こそ、周辺諸国と意志の疎通を図り、相互の利益になる地域安全保障構想を確立する必要がある。

(4)周辺・地域諸国からの提案に積極的に参加するとともに、日本からも地域の安定に寄与する提案を考えて参加を求める。

・中国が提案する自由貿易圏構想の実現に日本としても積極的に検討する

   ・周辺諸国が提案してくる各種救難訓練、船舶臨検訓練等に参加する。

   ・禁止物資の輸出入や輸送の管理を厳格にして、不法取引を阻止する。

   ・域内の人の出入りを活性化するため問題のない人には出入国管理を撤廃する。

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