新防衛研究開発システムのあり方
(財)DRC研究専門委員
安全保障環境の流動化、これに伴う安全保障政策の進展、科学技術の急速な進歩等に対応して、防衛力整備の方向を妥当に見出すことが重要になってきた。
本稿では、
1.新戦力開発のための研究開発システム
(1)研究開発システム
将来時点における脅威と多様な任務に対応して、戦争、作戦及び戦闘に関する従来からの概念にとらわれることなく、また従来からの戦力構造に引きずられることなく、かつ将来時点の緊要な軍事科学技術を導入して、新しい戦力を斬新な発想で開発するためには、従来の戦力開発とまったく異なる参加者から構成される組織が必要である。
図1に、新戦力の研究開発システムのあり方、を示す。将来の国際関係や戦争様相、戦略・戦術及び科学技術予測等の分野の高度専門家が参画する組織でなければならない。参画する専門家は、従来の概念や既存の知識に拘束されない柔軟な創造力、理解力、思考力、判断力、及び協調性等を備えている必要がある。このような高度専門家が参加する組織を実現するためには、民間の高度専門家を広範に参画させる必要がある。
a.国際関係、国際情勢、戦争、政治の高度専門家の参加
わが国を取り巻く国際情勢の推移、わが国が国際紛争に直面する場合の国際紛争の背景、戦争・紛争の様相等について、従来の戦争観、戦略及び戦術等にとらわれない多角的で学究的な民間の高度専門家の参画が欠かせない。
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図1 新戦力の研究開発システムのあり方
b.科学技術予測の民間高度専門家の参加
技術は一層細分化し専門化する趨勢にある。細分化された技術分野の高度専門技術者は、民間企業において研究・製造に携わる職域にしか存在し得なくなっている。新戦力開発には民間の高度専門技術者の参画が絶対に必要である。
c.陸上自衛隊の戦略・戦術の高度専門家の参加
戦略・戦術の高度専門家は陸上自衛隊の内部にしか存在しない。
d.陸上自衛隊研究本部の役割
陸上自衛隊研究本部は新戦力開発の中核となり、舵取りを行い、妥当な戦力開発・設計を実現する場を維持し統裁する組織である。研究本部内で装備開発を担当する部門は、ユーザー側にある技術者として民間技術者との意見交換、戦略戦術の専門家と民間技術者の間の相互理解と橋渡しに重要な役割を担う。
e.その他の研究開発関連組織の参画
調査部、技術研究本部、防衛行政の分野からの参加も必要である。
(2)新システムにおける研究開発実施要領
図2 新戦力開発の実施要領と重視事項 に、新システムにおける研究開発実施要領を示した。下記事項が重要である。
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図2 新戦力開発の実施要領と重視事項
@ 最先端技術者グループと高度作戦・戦闘専門者グループの徹底した意見交換
A 研究主務者の柔軟で創造的な調整・統制・判断
B 参画する運用専門家、専門技術者の適切な人選
C 各専門知識に基づきかつ従来の常識にとらわれない柔軟な発想
D 実戦的・実証的なシミュレーション・試験・評価
E 先端技術の迅速な戦力化
2.研究開発期間の短縮
わが国の最先端の技術を迅速柔軟に戦力化するためには、研究開発期間を短縮する必要がある。
逐次段階的に研究開発する従来の研究開発システムにおいては、装備システムの運用構想の研究開始から部隊装備までに、最短に見積っても約10年の長期間を必要とする。加えて、技術開発の過程において実戦部隊が持つ運用上の意見が反映されにくい。さらに、新装備システムの運用ドクトリンの確定と運用訓練は、量産装備品の調達と部隊配置が開始された後に始めて開始される。
戦闘に有用な先端技術と最新民生品・技術を迅速柔軟に戦力化するためには、装備システム開発の部門と実戦部隊、調達機関が、同時並行して参画し、それぞれの立場からの意見を同時に反映する研究開発・取得過程が必要である。このような過程を経て、新技術や新装備システムの真の有用性が実戦的な観点から短期間のうちに評価され、最適の装備システムを取得できる。各研究開発プロジェクトが並行して短期間に推進できて、戦力開発の重点形成も可能になる。図3 研究開発期間を短縮する研究開発過程、に従来型と新型の研究開発過程を示した。
米国防省は、装備システム開発の部門と実戦部隊、調達機関が、同時並行して参画し、新技術や新装備システムの真の有用性を実戦的な観点から評価する制度として、1990年代の初期に先端技術実証制度を、1994年に先端構想技術開発制度を、統合参謀本部は1998年に統合実験計画を導入した。これらは部隊装備品の初度調達が公式に開始される以前において、実戦部隊が技術の進歩を経験し、運用上の意見を反映させる制度であり、新しい戦力を実戦配備するまでの期間を著しく短縮した。研究開発予算を適切に重点指向して優先使用できるようになった。
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図3 研究開発期間を短縮する研究開発過程
(1)先端技術実証制度
先端技術実証制度は、研究中の新技術のなかから最も有望な新技術を選定し、これに3年間にわたって約1,500万ドルを充当し、特別に短期間でその可能性を見出す制度である。新技術を適切に選定するために研究所の技術者と実戦部隊の運用者が緊密に連携する。同時に、取得計画を担当するプログラムマネージャーが参画していて、その先端技術実証が期待通りの成果を示せば、その技術を実用化する構想を立案し予算を充当する。
(2)先端構想技術開発制度
先端技術実証制度には、問題点もある。選定された先端技術の戦力化に1,500万ドルを投資する制度であるが、この制度のもとでは、1990年代のコンピュータ技術、通信、データ融合と情報処理技術の進歩をシステム化し実戦力に採りこめなかった。一方で民間は、国防省のスポンサーが不在のままで、独自にこれらを応用する新戦力システムの構想技術を成熟させた。この経験から、国防省は、成熟した新しいシステム構想技術を迅速に見出し、研究開発部門から実戦部隊に迅速に移転させるために、先端構想技術開発制度を採用した。先端構想技術開発制度においては、新技術の開発よりも成熟した技術の評価とシステム化に重点をおく。
選定された先端構想技術開発計画は、4年間継続し、約1億ドルの予算が与えられる。実戦部隊の指揮官に、新戦力を持つ先端システムのプロトタイプを提供する。つまり研究所から実戦部隊への暫定的な移行過程である。指揮官はプロトタイプにより実戦的に実証して、新システムが作戦上の要求に適合するか否かを評価し、必要な改善を見出す。
多くの先端構想技術開発計画が成功している。例えば、中高度長時間無人飛翔体・プレデターは先端構想技術開発計画の段階でボスニアに投入され、さらにアフガニスタンでの「自由の保持」作戦及びイラク戦争に広く実用され、目覚しい成果をあげた。以後最も重要なシステムになった。
(3)統合実験計画
先端構想技術開発制度においても、技術の急速な進歩に十分に対応できない。つまり、プロトタイプを作り上げ、実戦部隊に配置し、運用構想を開発し、これを用いて作戦を実行し、そののちに軍事的有効性を評価する。この全過程が完結するまでは、実証計画の途中でシステムを修正するのは困難であり経費もかかる。
統合参謀本部は、20世紀末に統合実験計画を採用した。新しい技術、運用構想及び部隊編制オプションを分離せずに同時並行して実験し、新しい戦力を発見し開発する制度である。実戦部隊の隊員は、新技術を用いた完全なシステムが完成する前にその新技術に接触できる。指揮官は、新技術の開発の初期段階から有用性を知り、修正することができる。
統合実験所(J-9)が計画を管理する。研究所が選んだ構想は、開発が完結する前に統合実験過程に持ち込まれる。研究者は、その構想が作戦上の観点から追求する価値があるかどうかを認識でき、価値があるならばどのような観点が重視されるべきかを認識できる。部隊は新構想システムが配備される以前に開発を知り、運用ドクトリンと訓練計画の開発に着手できる。作戦上の要求を研究開発計画に直接反映させることもできる。
3.COTS利用促進のための研究開発システム
(1)COTS利用促進のねらい
COTS利用を促進するねらいは、最新技術を迅速柔軟に戦力化し、装備システムの取得期間を短縮し、コストを削減して、安全保障環境の流動化、科学技術の日進月歩の進歩、防衛予算の制限に対応することである。
(2)COTS利用促進上の問題点と対策
前項のようなねらいを重視して、COTS利用上の問題点と対策を表1に示す。
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表1 COTS利用上の問題点と対策 |
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COTS利用上の問題点 |
COTS利用促進のために必要な施策 |
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○COTSトータルシステムは要求を満たさない ○COTSは民需を睨んで企業が独自の企画で製作:相互接続・相互運用性なし ○COTSの改造は、短期取得、コスト削減を達成しないことが多い |
○COTS利用促進の方法の確立 =COTS部品・サブシステムの多数利用 ○個々のCOTS部品・サブシステムの選定と集合体 であるトータルシステムの設計の最適融合 ○運用要求の柔軟な設定 |
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選定にあたって適正な試験・評価を必要とする |
COTS部品・サブシステムの試験組織・要領、 評価基準の確立 |
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COTSの細部技術情報は非公開、情報収集困難 |
COTS情報の収集体制の確立 |
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COTSのライスサイクルはバージョンアップ、製造停止等により短期、 一方で装備システムのライフサイクルは長期 |
装備システムのライフサイクルを通じて、最新COTSを柔軟に採用できるように、COTSを選定し、トータルシステムを設計 |
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COTS利用は決して容易でない |
COTS利用促進のためのシステム、活動要領の確立 |
各種の天候、明暗のもとで、野外戦闘に使用される防衛用装備システムには、COTS製品にはまったく要求されない耐環境性、耐振動・衝撃性、操用性等が要求される。トータルシステムとして購入し防衛用としてそのまま使用できるCOTSは、ごく一部の施設器材、輸送用一般車両、連絡輸送用航空機等のCOTS製品を除き、ほとんど存在しない。
一方で民需技術が高度に発達したわが国においては、弾薬、砲等の特殊材料、その他の一部の兵器専用部品やサブシステムを除いて、ほとんどのCOTS部品とCOTSサブシステムがそのまま防衛用装備システムに使用できる。
(3)COTS利用促進上の基本的な考え方
a. COTS部品・サブシステム多数採用のトータルシステム設計・製造
したがってCOTS利用を促進するためには、「COTSトータルシステム購入型」の利用促進方策ではなく、COTS部品・サブシステムを採用して防衛用トータルシステムを設計・製造するという、「COTS部品・サブシステム多数採用のトータルシステム設計・製造型」のCOTS利用促進方策でなければならない。このような考え方の確立がCOTS利用促進のためには極めて重要である。
この際、COTS利用促進のねらい、すなわち最新技術の迅速柔軟な戦力化、装備システム取得期間の短縮、コスト削減、を踏み外さないことが最も緊要である。
b. 研究開発過程
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このような研究開発過程は、従来の研究開発過程とは異なるものであり、新しい研究開発過程が必要である。図4に、COTS利用促進のための研究開発過程を示す。
図4 COTS利用促進のための研究開発過程
(4)COTS利用促進のための研究開発システムと活動要領
図4に示すような研究開発過程を遂行できる研究開発システムは、従来の研究開発システムと異なる。COTS利用促進のねらいを達成するためには、COTSの製作に直接携わっている第1線の民間技術者の参画と、迅速な業務処理による対応期間の短縮が、特に重要である。
a.COTS情報収集組織
COTS製品の種類と数量は広範かつ膨大であり、しかも新技術を採用したCOTSが日々新しく提供される。日進月歩で進歩する広範なCOTS部品、COTSサブシステムについて見落とすことなく技術情報を収集、整理、蓄積する専門の情報収集組織が必要である。
この情報収集組織は、COTS情報を恒常的に広く収集するほか、特定の装備システムの運用要求の設定に対応して、特定のCOTSについて必要な細部の情報を補足して収集することになる。運用要求設定組織との緊密な連携が必要である。現在このような情報収集専門組織は存在しない。
COTS情報収集組織を、情報(G-2)系統の組織とするか装備調達・開発(G-4)系統の組織にするかは検討を要する。米陸軍は、軍事転用可能なCOTSと民需技術の情報を収集するために、従来から「科学技術センター:STC」を東京等に設置している。STCは情報系統に属する情報部隊の一つである。
b.運用要求設定組織
トータルシステムであるCOTS製品を野戦用に改造、強化しようとすれば、多くの場合、取得期間の短縮、コスト削減というCOTS利用促進のねらいに反する結果になる。COTS利用促進のためには、装備システムに対する運用要求設定と、COTS採用により製造可能な装備システムの設計を、フィードバックさせながら節調して、運用要求を適切に決定する必要がある。一部の戦闘用装備システムについては、戦闘上最低限に必要とされる運用要求をCOTS部員・サブシステムによってはどうしても達成できない場合がある。このような戦闘用装備システムの研究開発においては、COTSの利用にこだわることなく、防衛専用の部品・サブシステムを開発せざるを得ない。
c.設計・試験・評価組織
COTS部品・サブシステムを選定、試験・評価し、これらのCOTS部品・サブシステムを使用するトータルシステムを設計、試験・評価する新組織の確立が必要である。
前述のように、トータルシステムとして防衛用に採用できるCOTSはほとんど存在しない。したがってCOTS利用を促進するためには、装備システムに対する運用要求に対応して、COTS部品・サブシステムを最大限に多く採用し、トータルシステムを防衛用として独自に設計・製造することになる。
このような選定、設計、試験・評価を実行する組織においては、適切な試験・評価と、企業のCOTS技術者の参画、が特に重要である。
(a)適切な試験・評価
決定された仕様を評価基準としてCOTS部品・サブシステムを選定することは比較的容易である。しかし、多くのCOTS部品・サブシステムを採用して最良のトータルシステムを新しく設計する過程においては、採用すべき部品・サブシステムの種類が未決定で、個々の部品・サブシステムに対する選定基準仕様も未決定であり、これらを含めて探求的に設計を進めている場合が多いであろう。
したがってCOTS利用促進のためには、決定された仕様に基づく選定・評価でなく、最適トータルシステムの設計に寄与する「形成的評価」が必要である。同時に、このような選定・評価は、個々の部品・サブシステムの個別的評価でなく、トータルシステム設計に必要な多数の部品・サブシステムを組み合わせて評価する「集合的評価」でなければならない。
COTS利用促進のねらいに反しないためには、コスト評価が重要であり「経済的評価」がなされなければならない。COTSの寿命は極めて短命であり、一方で装備システムは長寿でなければならない。したがって装備システムの長年にわたるライフサイクルを通じて、最新COTSが継続して利用できるかどうかについて、COTS製造業者の信頼性等を含み「経営的評価」が必要である。
(b)企業のCOTS技術者の参画
COTSは、企業が民需を見積もり独自の構想で製造し、市場に提供するものであり、パンフレット等には詳細な技術情報は公表されていない。COTS部品・サブシステムを防衛用に新しく設計するトータルシステムに最適に組み込むためには、COTSの選定・評価にCOTS製造業者の技術者の参画を求める必要がある。
c.ライフサイクル管理組織
長年にわたって維持する装備システムに対して、寿命の短いCOTSの利用を促進するためには、装備システムのライフサイクルを通じて、これまで述べたような研究開発活動を継続して恒常的に行う必要がある。つまり、装備システムが運用・維持の段階に入った後においても、最新のCOTS部品・サブシステムを導入して寿命を長くし、あるいは性能を向上するために、COTS採用のための研究開発組織が活動を続けることが必要である。
d.COTS利用促進専門管理者の養成
以上のように、COTSの利用を促進するためには、従来の研究開発には求められなかった新しいノーハウが要求される。COTS利用促進専門管理者の養成が必要である。
5.新研究開発システムの基軸
以上に、新戦力開発、研究開発期間の短縮及びCOTS利用の促進のため、それぞれに必要な新しい研究開発システムを個別に検討した。図5 防衛力整備に対する要求、に示すように、元来、これらの三つの要求は独立しているのではなく、将来の情勢変化に対する迅速・柔軟な対応、最新技術の迅速な戦力化、コスト削減、わが国の特性の発揮等の要求を達成するうえで相互に重なりあう要求である。
したがって、これらの要求に応じるための個々の研究開発システムに共通するような、すなわち最大公約数ともいうべき研究開発システムのあり方を見出すことができる。これらは新研究開発システムのあり方の重要な基軸になるであろう。
それらは下記の通りである。
@ 民間企業の第1線技術者、大学等の学究者が広範に参画
A 運用要求設定、装備システム設計、評価の過程のフィードバック、並行実施
B 研究開発過程と運用、ライフサイクル管理の一体化、一元化
C 研究開発管理者の地位、調整・統制能力の向上