米国の先制攻撃に対する我が国の対応
(財)
はじめに
7.20日付けのニューヨークタイムスによれば、北朝鮮(NK)は兵器転用が可能なプルトニュームを抽出できる2つ目の核燃料再処理施設を建設した可能性があり、米当局は、航空機等のセンサーでプルトニューム抽出を裏付ける放射ガス、クリプトン85を検出することで、再処理作業の状況を調べている。今回のガスの発生源は、寧辺(ヨンビョン)の放射化学研究所ではなく、北朝鮮の山間部に建設された別の施設である可能性が浮上している。また7.15日付けのニューヨークタイムスは、NKと米国がニューヨークで8日に非公式協議を行なった際、NKは8,000本の使用済み核燃料棒の再処理完了を通告しただけでなく、それによって原爆6個分のプルトニュームを抽出し、速やかに核兵器製造に着手すると述べたと伝えている。米政府は、これの真偽については確認できないとしているが、米国メデイアのNKに対する関心は急激に高まっている。日頃から冷静な意見を開陳しているペリー元国防長官は、ワシントンポストのインタビューで、現在の米国は、北朝鮮の核の問題に対して状況をコントロールする能力を失いつつあると指摘するとともに、米国と北朝鮮の間に戦争の危険が高まっており、早ければ年内にも衝突の可能性があるとの見方を示している。
一方、8.1日にNKは、中国から提案のあった米中朝日韓露の6カ国協議に正式に同意し、現在8月末にこの協議を北京で開催することで調整が進んでいる。しかしながら、NKが核開発を完全に不可逆的に検証可能な形で放棄することを前提とすることに同意し、交渉が円滑に進展するか予断を許さない状況にあり、たとえ協議が首尾良く始まったとしても、その妥結までには相当の紆余曲折があるものと思われる。さらにうがった見方をすれば、NKの真意は協議の成功ではなく、より有利な交渉条件を確立する為の核兵器開発の時間稼ぎにあることも考えられる。本稿では、米国がNKの核開発を防止するために、先制攻撃を含む軍事行動をとる場合の米国の政治目標、戦闘様相及び我が国のとるべき対応措置等について検討するものである。
1.米国政府の対応
国家戦略の目標には、制限的(limited)なものと非制限的なもの(unlimited)がある。制限的目標とは、対象国の政治的指導体制の打倒を企図せず、あくまでも現体制の存続を前提にして政治的目標の達成を図るものである。これに対して、非制限的目標とは、対象国の現政冶体制は排除を企図し、その上で政治的目標を達成しようとするものである。これを達成するための軍事力の行使即ち軍事戦略には、相手の軍事力の全面的壊滅、即ち敵の抵抗能力を排除し、敵が我の意志の重圧に抵抗する見込みが立たない状態にすることを所望結果とする撃滅戦略(annihilation strategy)と、我の軍事目標は限定されたものとし、敵をして戦いを継続するよりも、我の望む形で戦争を終結させるほうが望ましいと思わせるまで敵の支払う代償をつりあげて行くことを追求する戦意阻喪戦略(Erosion Strategy)の2つがある。政治目標が非制限的な場合の軍事戦略は撃滅戦略でなければならない。政治目標が制限的な場合は、戦意阻喪の戦略を要求する場合と撃滅戦略を要求する場合がある。対NK戦略に関する米国と韓国の政治目標は、北朝鮮に核開発計画を完全に放棄させることにある。日本は、この核開発の破棄と拉致問題の解決をその政治目標としている。これに対する米国の国家戦略目標は、金正日政権の継続を前提とする制限的なものか、あるいはそれの打倒を前提にする非制限的なものにするのか、今まで曖昧にしてきた。今回、6カ国協議の開催を米国が受け入れたことは、少なくともNKの現政権の維持を前提とする制限的戦略目標を採択した事を示す。協議が成功せず、打ち切りか、或いはNKがなかなか妥協せず、協議のそれ以上の継続がNKの核兵器開発に利するだけと判断されるに至った場合、米国が制限的か、非制限的政治目標のどちらを選択するか予測は困難である。
2.米中朝日韓露6カ国協議と米国の行動
NKは、これまで米国に不可侵条約等の金政権体制の保証を執拗に求めてきたが、ここにきて必ずしも文書化したものでなくても、公式声明のような口頭での意志表示でも受容できる態度を示したものと推察される。しかし、米国が金正日政権の存続保障の意思表示を声明のかたちで表わしたとしても、NKが核開発を完全に不可逆的に検証可能な形で破棄することを前提とする6カ国協議がすんなりと進展することは考えにくい。7.23のロイター通信によると、NKに近い在京外交筋の話としてNKの建国記念日に当たる9.9までにNKの提案に米国が前向きの回答を寄せなければ、「NKは核兵器保有を宣言する」とし、NKが核を保有すれば強い立場から交渉に臨めると考えている。このような状態で協議が進展せず、協議期間中もNKが核開発を続行した場合、この協議に応じたNKの真の狙いは核開発を進展させるための時間稼ぎとも米国は受け取ることになるであろう。6カ国協議等が不調に終わり、NKが核保有を宣言した場合、あるいはNKの真意が協議の妥結ではなくて核兵器開発、保有のための口実、時間稼ぎであると判明した場合の米国の対応は次のようなものになろう。
@
海上封鎖、貿易阻止、状況により海外資産凍結
A
開発施設等への先制攻撃(金正日政権の打倒までは望まない)
B
開発施設およびNK軍及び重要施設全般に対する攻撃(金正日政権打倒を作戦目標)
C
特別な行動をとらない。
3.米国の対応及び各事態の様相
Cを選択する場合の米国の考えは、次のようなものとなろう。NKはイラクのように石油が埋蔵されているわけでもないし、米国との貿易額も全体として見た場合取るに足らない額である。したがって、NKは米国にとり、重要な国とはいい難い。また、たとえNKが核兵器を保有したとしても、かっての冷戦時代のソ連との核対峙に比較すれば、その影響は問題にならない。テポドン、ノドンが発射されたとしても、PAC3は戦力化しており、2隻の実験イージス艦のSMD(Sea Based Midcourse
Defense)システムはある程度機能する。2004年には相当程度の能力を持つSMDシステムを緊急配備することが可能と見積もられる。またNKがテポドンに搭載可能な小型核弾頭を実戦配備するころには、きわめて高度な機能を持つMDシステムを配備し、これを撃破することが可能となる。ひとたびNKが米国に向けてテポドンミサイルを発射したならば、米国は核により報復し、NKを瞬く間に抹殺する。また、日本、韓国は同盟国であり、米軍及びその家族も駐留している。したがって、これらの国への攻撃は、米国への攻撃とみなしてNKに報復攻撃を即時実施することを明言し、NKを恫喝する。これを、米国が選択する蓋然性は、まったく否定し得ない。しかしながら、NKが旧ソ連と異なり、冷静な判断を欠き、相互確証破壊を認識しない恐れのある国の存在を将来にわたり認めることは危険であり、しかも、その危険の度合いが年々大きくなる状態を先送りにするだけで、根本的解決にならないことは明らかである。イラク、パレスチナ問題がある程度解決するまでの間、時間的調整をすることはあっても、ブッシュ政権のとる選択肢とはならないであろう。
(2)核開発関連施設等に対する先制攻撃(金正日政権の打倒までは望まない)
Aを採用する核開発施設に対する限定攻撃は、たとえ米国がNKとの全面対決を望まず、限定攻撃にとどめたいと望んでも、一旦核開発、核貯蔵施設等の核関連施設を米軍が攻撃したならば、それをNKがそのまま容認し、なんの軍事行動をとらないことは、金正日の権威を著しく弱め、体制の崩壊に繋がる。したがって、NKはDMZ近辺に前方配備している500基に及ぶ170ミリ自走砲、200基の多連装ロケットによるソウル市街及びDMZ 周辺に展開している米、韓軍に猛烈な攻撃を開始し、満を持して待機していたNK軍70万(全NK軍の2/3)の地上部隊は、これに合い呼応して戦車3、500両と共に南進するであろう。又韓国内の各地に前もって潜伏していた工作員が韓国各地で一斉に蜂起し、地下トンネル及び海上から侵入する特殊部隊と呼応して後方破壊活動を実施する。500から600程度保有しているスカッドによる韓国全土また100発近いノドンミサイルによる日本に対する攻撃も実施するであろう。このことは、核開発関連施設に限定した限定攻撃は成り立たないことを示している。即ち核開発関連施設の限定攻撃の前に、少なくともDMZ周辺のNKの火力を相当程度減殺し、かつスカッド及びノドンミサイルの発射機および発射基地を粉砕しておく必要がある。即ち、米軍はDMZ付近のNK軍の粉砕を第1優先とし、航空機からのMOAB爆弾の投下によるNK火砲、ミサイル、ロケット発射基の破壊、地上兵力の掃討、JDAM、トマホークのような精密誘導兵器による重要施設、C4I施設の破壊に火力を集中するであろう。また、海、空軍の戦術航空機は、MIG29戦闘機、SA-2及びSA-5対空ミサイル並びにノドンミサイル発射機の無力化作戦を実施するであろう。このような作戦は、イラク戦争でも行なわれたように強固かつ広範に構築されたネットワークによる情報の共有化による迅速な状況認識、任務に向けての戦力の自己集約、作戦速度の向上、決断の迅速化、正確な情報に基づくEffect Based Op.の実施等によりNK軍を圧倒する。NKの兵力の分散と頑健な防御施設により、作戦はかなりの困難性を強いられ、作戦目的を達成するにはかなりの日数と多くの死傷者を出すであろう(米軍の見積もりでは、数日間でベトナム戦争の総戦死者の5万人を上回る)。この場合、金政権は全面的な戦いを米軍が開始したとして、全面的な戦いを継続するであろう。すなわち、米国がその政治目標を金政権の維持に置いた制限的な目標としたくても、軍事的事態は非制限的なものとなり、NKの軍事力の粉砕を目的とする撃滅戦略(Annihilation Strategy)に移行する可能性が高い。しかしながら、戦闘がDMZ付近で膠着し、核関連施設が完全に破壊され、IAEAの査察をNKが受け入れ、NKの核関連施設が再度稼動する可能性がない状態が明白となり、かつ米国が金体制の倒壊を望まなければ、米韓軍の進攻はDMZ付近までとし、金正日体制が存続した状態で休戦が成立する可能性もある。
(3)核開発施設、NK軍及び重要施設等金政権打倒を政治的目標とする攻撃
Bを採用する場合、米軍の先制攻撃により戦闘が始まるのはAと同じであるが、Aと大きく異なる点は、その作戦目標が核関連施設の破壊に留まらず、米、韓軍がNKに侵攻してNK軍を粉砕し、金正日政権を崩壊させ、親米韓政権を樹立するか、韓国主導による統一朝鮮を実現することを政治的目標とすることである。この場合の戦闘様相は、初期においては(2)とほぼ同じであろうが、NKヘの侵攻作戦はNKの頑健な抵抗が予測され、長期化し、軍民の多大の犠牲者が発生するであろう。最初の90日間だけでも30万から50万の米韓軍の死傷者が発生し、さらに数十万人の市民の死傷者も発生するというある米国シンクタンクの予測もある。
(4)海上封鎖、貿易阻止、状況により海外資産凍結
@の場合、経済的締め付けが海上封鎖に留まらず、貿易停止、送金停止、在米、在韓及び在日のNK系資産の凍結等徹底したものであれば、相当の成果があるであろうが、これはNKをして戦闘行動を開始したものと考えせしめ、NKの戦闘行動を誘発する恐れがある。単なる核関連物品及びWMD拡散防止のための所謂MIO(Military Interdiction
Operation)による手段は、核兵器の拡散防止にはある程度の効果がある。前述したように、総合的な海上封鎖は、NKの戦闘行動を招く畏れがあるが、それを覚悟で封鎖の度合いを状況により高めてNKを経済的に締め付けるのは、その効果が現れるのに若干の時間がかかるもののそれなりに有効である。しかしながら、平時に公海上でこの行為を実施することは、国際法上問題があるとの見解がなされている。2003年7月17日、カンボヂアのプノンペンで行なわれたASEAN会議でパウエル国務長官は、NKによる麻薬や禁制品の売買は抑制されるべきとのマドリッド宣言の構想を示した。これは、直接にはWMDの拡散防止に言及していないが、この宣言の狙いがNKによるWMDの拡散防止にあることを窺わせるものである。また最近、米国政府は、米国防省が麻薬対策にあたる政府機関や軍関係者が実施する麻薬対策を支援することを許可した。しかしこれらが、国際法上正当化された行為か否か必ずしも明確でない。NKは麻薬を生産、輸送することを禁ずる如何なる条約にも締結、加盟していない。さらに、このような海上封鎖がなされたとしても、中国及びロシアが中朝、中露国境での戦略物資の流入及び交易を制限しなかったり、制限したとしても厳しく監視しないようであれば、効果はそれほど期待できない。したがって、このような海上阻止行動や封鎖は、実行そのものが困難であり、たとえ実施したとしても、それだけでNKの核開発の阻止、及び核兵器の破棄に繋がるとは考えにくい。
4.我が国に対する攻撃態様
(1)ミサイル攻撃
我が国の政経中枢、米軍基地を標的とする約100基のノドンミサイルによるミサイル攻撃が考えられる。ミサイル弾頭は通常弾頭、生物化学弾頭が考えられる。核弾頭については、地下核実験の実施についての情報がないことから、今のところ保有していないものと見積もられるが、NKはミサイルに搭載可能な小型核弾頭の開発に全力を挙げており、これの保有は時間の問題と考えられる。
(2)テロ攻撃
日本には今のところ、約千人程度のNK工作員が潜伏しているものと推定される。これの支援者、同調者は数千人に及ぶといわれている。日本には約70万人の韓国系、NK系朝鮮人が居住しており、これらの中に紛れ込んでいる工作員、及びその同調者を特定することは極めて難しい。これらの工作員等が睡眠状態から目覚め、要人の殺害、重要インフラ、原発、変電所、送電線等の爆破、新幹線等の交通インフラ破壊、本四架橋や青函トンネル爆破、証券取引所、主要銀行オンラインシステムの改ざん等のサイバーテロ攻撃により日本を無統制状態にするとともに、日本国民に厭戦気分を醸成させ、日米離反を図り、米国の後方支援基地としての日本の機能低下を図ることは大いにあり得る。これらの兆候は、既に数年前から顕在化しつつある。数年前、四国や千葉県内で送電線のアンテナのボルトが抜かれ、送電線が倒れ、修復までにかなりの日数を要した事件が発生した。このようなボルトは堅く固定されており、通常の方法では、抜き取ることは極めて難しい。短時間にこのようなことを実施するには、かなりの技術が必要である。NK工作員による事前の調査か訓練であった可能性があると言われている。また、潜水艇や工作船による浸入形態も巧妙化しており、情勢緊迫化が進みつつある現状況下、気付かないところで海上からの在日工作員の増強が図られている可能性が高い。
(3)大量難民
NKが米国等と戦いを継続中に大量難民がボートピープルとなって、日本海にさまようことの可能性は少ないものと考えられる。長期間に亘り、金日成、金正日政権によってマインドコントロールされた北朝鮮人民にとって、米国、韓国との戦いは大祖国戦争であり、NK軍と共同して米、韓軍に抵抗するであろう。大量難民が発生するとすれば、金正日政権が内部の反乱により、崩壊し、国家として統制が取れず、極端な食糧不足となり、生存が到底不可能な状態になったときであろう。
5.わが国の対応
米軍の核関連施設に限定した先制攻撃は、瞬時に本格的戦闘になる。同時に、我が国に対するミサイル攻撃や大規模なテロ攻撃が生起する。これは日本有事であり、即ち我が国は局外者でありえず、当事者であり、これの対応は周辺事態安全確保法の世界ではなく、有事法制の世界の話である。何をしでかすか予測のつかないNKの核兵器保有を容認した後の我が国の安全保障は、極めて不安定なものとなる。もしNKの核兵器保有が既成事実化した場合、朝鮮総連を巻き込んだ各種違法事案さらには拉致事件等が再び生起しても、拱手傍観してNKの不当な行動を認めざるを得ない状態になるばかりでなく、最終的には我が国の存在そのものに重大な影響を与えることになる。したがって、わが国も韓半島有事即日本有事と考え、これに対処する体制・態勢を急ぎ整備するとともに、生起した場合または生起が予測される場合は、可能な限り早期に防衛出動を下令し、武力の行使についてはROEによってその時々の状況に適切に対応する有事の即応態勢を早期に確立することが肝要である。
(1)弾道ミサイル防衛体制の整備
現時点において、実戦配備された弾道ミサイル防衛システムは、米軍のPAC3とイスラエルのアローシステムである。PAC2システムは、既に空自が運用していることもあり、米軍との相互運用性を考えればPAC3を可及的速やかに導入する必要がある。しかしながら、PAC3は最終段階のミサイルを迎撃するもので、その迎撃範囲は極めて限定されたものであり、かつレーダー波が照射されると通常の建築物は火災を起こしたり、人体は火傷で黒焦げになる畏れがある。したがって、中間段階での大気圏外で弾道ミサイルを迎撃するイーヂス弾道ミサイル防衛システムと組み合わせる必要がある。日本政府は来年度の予算にPAC3とイーヂスシステムの導入予算を計上するとの報道がなされていることは、まさしく朗報である。しかしながら、米海軍でもイーヂス弾道ミサイル防衛システムの初度配備は、2004年以降になる見込みである。これを我が国へ導入するのは、早くても2005年以降になろう。その間の対策であるが、米海軍はイーヂス弾道ミサイルを開発するための実験艦を2隻保有している。この実験艦は、弾道ミサイルを迎撃できるが、その他の飛行機や通常のミサイルは迎撃できない。我が国に弾道ミサイル防衛システムが導入される以前に、NKと米国の紛争が生起する公算が高まった時点で、これの護衛は海自のイーヂス艦等が実施することとし、米国が日本海にこれらの実験艦を応急的に配備し、NKのわが国に対するノドンミサイル攻撃に対処するよう急ぎ米国に働きかけるべきである。この際SM3ミサイルについては、完成品を配備することは無理としても、現時点での試験ミサイル弾を急ぎ調達、配備する。また、弾道ミサイル防衛は、時間との戦いである。したがって、発射後の探知、追尾、識別、迎撃までの所要時間の短縮が緊要である。このためには、できるだけ指揮系統を単純化し、指揮命令及び情報の流れを迅速化しなければならない。さらにNKのミサイル発射時の探知情報は、米軍の国家情報デバイス(National Sensor)に依存せざるを得ないとすれば、米軍との緊密な連携が必要不可欠である。したがって、陸、海、空自衛隊が縦割りで作戦するのではなく、統合運用構想を速やかに実運用して、弾道ミサイル防衛統合任務部隊を編成し、作戦の効率的を図る必要がある。また、米軍との共同については、日米の情報に関するインターオペラビリテイを早期に確立し、弾道ミサイル防衛に関して共通の情報画面(Common Operational Picture)を見ながら共通の認識、思想(Situation Awareness)で共同対処する必要がある。このためには、日米の指揮官がSide by Sideに座り、常にFace to Faceで瞬時に必要な調整がなされることが肝要である。これを可能とする情報インフラとそれを適時、的確に適所へ配布しうるネットワークの構築と、さらには日米弾道ミサイル防衛指揮所の設置等の所謂BMC4I(Battle Management C4I)の整備が必要不可欠である。このネットワークの整備は、米軍と比較すると極めて遅れており、陸、海、空自衛隊相互のネットワークによる情報、伝達は確立されていない。この原因は、統合部隊が実在せず、統合運用のコンセプト及びそのニーズが確立していなかったこと、及びC4I関連予算科目が通信維持費という極めて限定された後方予算科目であるため、正面予算科目のような大規模な予算要求ができないことにある。およそネットワークを構築するためには、各部が一斉に必要な器材を装備する必要があるが、予算獲得ができず、逐年装備となり、ネットワーク ワーフェアーを構築するインフラの整備が遅遅として進まない状況にある。弾道ミサイル防衛は、ミサイルそのものだけではなんの役にも立たず、BMC4Iがあってはじめて機能することを銘記し、これの整備についてもミサイルそのものの整備、調達と同様に真剣に取り組む必要がある。
(2)テロ対策
日米離反を主要目的とする日本ヘの非対称攻撃、及び在日米軍基地を標的とするテロ攻撃は深刻なものがあり、厳に警戒を要する。情勢が次第に緊迫化する以前、即ち現時点においても、日本ヘの工作員の増強は加速されていると見ておく必要がある。このためには、領域・領海警備を自衛隊の任務にしなければならない。平時の領海警備のうち警察業務は海保が担当するとしても、その行動が巧妙化し、その装備も小型戦闘艦艇並のものを搭載し、かつ領海侵犯、工作員の隠密潜搬入、日本人の拉致等日本の主権に係わる非対称攻撃を企図する工作船や潜水艇の対処は戦闘集団である海自が担当すべきである。我が国の海岸線は9、000キロと長く、警備する海域も広大である。これを海保の巡視船で警戒、監視するのは、あまりにも兵力不足である。したがって、航空機、艦艇による、立体的な監視を海面のみならず、海中にも実施し、海上からの工作員の潜入を今すぐにでも防止しなければならない。また、原発などの重要施設の警備は、現在、警察の任務となっているが、これだけ治安が悪化し、警察の増員が叫ばれている状況下、警察力をこのような本来自衛隊がなすべき任務に充当すべきではない。日本有事以前の状況下では、自衛隊の武力の行使はできないとする政府の見解により自衛隊の任務からはずされているが、NKの非対称攻撃の様相を考えると警察力での対処は難しい。原発攻撃を企図する工作員は、特殊部隊に属するコマンド隊員である可能性が高く、警察官での対処には無理である。過去において、NKの工作船の暗躍については、海自も監視活動等でかなり把握してきたが、海保と警察の所掌事項であるがゆえに細部まで立ち入ることはできなかった。いまの状況では、今後も拉致事件を防止することは容易ではない。自衛権の行使を平時でも行使し得るよう憲法を変えるか、自衛権の行使を広義に解釈するマイナー自衛権の考え方を採択するかにより、自衛隊による領域・領海警備を実施し、工作員の潜入を阻止し、かつ原発等の重要防護施設の防備を日頃から演練し、NKの非対称攻撃を阻止することが肝要である。さらに、韓半島で米国が先制攻撃を実施して紛争が勃発した場合、あるいはそれ以前において、前述したように日本に潜伏していた工作員が蜂起し、日本全土にわたって要人殺害、新幹線転覆、サイバーテロ、日銀及び銀行、証券取引所爆破、原発破壊、送電線切断等ありとあらゆる非対称攻撃をしかける可能性が高い。したがって、前述したように韓半島で紛争が勃発したならば、周辺事態対処ではなく我が国有事と考え、直ちに武力攻撃事態対処法に基づく処置を発動する。自衛隊は防衛出動待機か、状況によっては防衛出動を下令する。残念ながら、これらの大規模テロ、無差別ゲリラ、サイバーテロ等の非対称攻撃に対抗する為の対策、法制は整備されていないし、マニュアルも準備されておらず、訓練もできていない。肝腎な有事における国民の避難、誘導、地方自治体の権限、原発防護、及び放射線、生物、毒性物質による汚染除去、放送事業者への対応を定める国民保護法案については年内に作成し、来年の通常国会に提出されることとなっている。必要な法制の早期の制定が望まれると同時に、工作員を特定し、日頃から監視する地道な努力が必要である。前述したように、原発警備等の物理的行動は自衛隊の任務とし、警察はこれらの工作員、その支援者の割り出し、監視に全力を挙げるべきである。また、有事の際の、NKの資産の凍結、朝鮮総連幹部の行動の制限、及び工作員とその支援者の拘束についても法的措置を講じる必要がある。
(3)大量難民
米軍先制攻撃後、大規模な大量難民は生起しないと見積もられる。情報を長期に亘って、遮断され、金日成及び金正日政権によりかなりのNK人民はマインドコントロールされていると思われる。したがって、NK軍を支援して共に戦うことになるであろう。ましてや、米軍が核関連施設の破壊で戦争目標は達成したものとして、NK領内に進攻せず、DMZ付近で進攻を停止した場合は大量難民は生起しないであろう。米軍が進攻した場合、戦火を逃れて海上へ脱出する者も少数いるであろうが、大半は大祖国戦争に殉じるものと思われる。しかしながら、米軍の先制攻撃ではなく、経済的な理由によるNKの突然の崩壊もありえないことではないと思われるので、これに対処する準備はしておく必要がある。基本的には、一旦洋上の大型船舶か島に収容し、工作員等が混入していないか入念に調査する。相手の希望を聞いて、しかるべき国へ出国させる。そのためには、難民に対する政策を明確にしておく必要がある。 先ず、政治亡命は、世界の趨勢からして受け入れる。経済難民は、原則受け入れない。これを受け入れると中国からの大量経済難民を受け入れざるを得ない。中国の知人が、「日本を倒すのに、刃物は要らない、難民を100万でも送れば、簡単に日本は崩壊する」と冗談を飛ばしていたが、冗談ではなく、現実味のある話である。しかし、NKが自壊した場合の経済難民は、かってインドシナ難民を受け入れたように、特例としてある程度引き受けざるを得ないものと思われる。
おわりに
北朝鮮が多国間協議である6ケ国協議の開催を受け入れ、8月にその協議を開始することで、交渉がされているようである。この協議が成功裏に終わり、NKが核開発を完全に不可逆的に検証可能な形で破棄することに同意した場合は、NKの現体制は維持され、必要な経済支援も実施されることになろう。しかしながら、この交渉が不調に終わり、この協議がNKの核開発のための時間稼ぎであって、NKが核の開発を継続し核弾頭開発のための核実験をしたり、核兵器保有宣言をした場合、米国のNKヘの先制攻撃は十分に考えられる。その場合は、NKの核開発地域に紛争を限定することはできず、韓国のみならず、わが国も巻き込んだ大規模な紛争になるものと思われる。しかしながら、たとえ、それがわが国をも巻き込んだものとなっても、わが国の安全を脅かし、しかもわが国が国是として持たないこととしている大量の核兵器を保有し、しかもその行動がわが国の生存に多大の支障を及ぼす可能性がある国が韓半島に隣国として存在することは、わが国安全保障の観点から許容しがたい。したがって、わが国も米国とともに、これの排除のため行動を一にする必要がある。国民保護法案を早期に制定するとともに、ミサイル防衛、非対称攻撃に対する備えを万全にしておかなければならない。
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