東アジア情勢に関する一考察
―中長期的展望からの分析―
(財)DRC研究委員
はじめに
サダム・フセイン政権の排除を企図したイラク戦争は、米国の意図どおり、圧倒的な米国と同盟諸国軍隊の勝利をもって終結した。それは湾岸戦争以来、軍事革命(RMA)の成果を追求してトランスフォーメーションを実施しつつある米英軍事力と、伝統的な軍隊(Legacy Force)のまま地上戦、特に市街戦に活路を見出そうとしたイラク軍事力の衝突であり、結果として、まさしく今日言われているところの非対称戦の様相を明らさまにし、軍事革命を追求しない軍隊の非力を露呈するとともに、軍事革命の意義をいやが上にも世界に認識させた戦争でもあった。
日本が位置する北東アジアにおいても、テロリズムを国家として支援するあるいは実際に行うと判定されている、「悪の枢軸」メンバーの一つである北朝鮮が存在している。米国及び同盟国の次の標的は、紛れもなく、北朝鮮であると断言できよう。
さらに東アジアには、もう一つのホット・スポットである両岸問題が存在している。それはすなわち、2000年に見事に民主主義国家に脱皮を図った台湾と、共産党政権が相変わらず支配する中国との相克である。
これら2つのホット・スポットは、まさしく冷戦構造の残滓であり、将来の国際軍事情勢を左右する大きな要因でもある。本論文はこれら2つのホット・スポットに焦点を当て、中長期的な観点から当該地域の将来展望を予測・検討し、その結果として、最悪のシナリオを回避するために、現時点でどのような施策を採るべきかについての示唆を得ることを狙いとして、一考察を進めることとしたい。
1.朝鮮半島問題
9・11以降米国のユニラテラリズムは一時期低調になったが、米国及び英国がアフガニスタンにおける国際テロ掃討戦に圧倒的な勝利を収めるや、ブッシュ大統領などが「悪の枢軸」発言を行うとともに、ついにイラク戦争に突入する等、最近は再び米国のユニラテラリズム傾向が顕著になっている。その根底にはすなわち、軍事革命(RMA)の成果を具現しつつある唯一の国家である米国が、圧倒的な軍事力を量的にも質的にも保有している現実が存在する。米国がこの軍事面の圧倒的優位を背景に、今後長期にわたって国際政治を御して行く趨勢は、イラク戦争を契機としてさらに強まる傾向にあると言えよう。しかし反面、第2次世界大戦終了時圧倒的軍事優位を誇っていた米国が、国連の必要性を認めてその創立に尽力したことを想起したとき、米国の軍事1極体制であるからこそ国連の存在が特に必要となり、米国は改めて、軍事力だけが国際政治の力の源泉ではないという現実に直面することとなろう。例えばイラクの復興といった局面ひとつを取り上げても、アフガニスタンの例を引くまでもなく、国連を中心とした国際協調なくしてその実現は不可能である。
そのことよりも、今般イラク戦争に至った経緯を、もっと精密に検証する必要がある。そこに潜在する問題は、今後の国連を中心とする国際外交が機能するか否かを決するほど重要な課題である。すなわち、2002年11月27日、国連決議第1441号を受けて、国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)と国際原子力機関(IAEA)による査察が再開されたが、イラクの妨害もあって満足な査察が遂行できない状況下、2003年2月13日、ブッシュ大統領が「安保理は決断を。無能な検討クラブに成り下がってはならない」と警告を発した。その時イラク周辺には、米国・英国を中心とする約30万の兵力が終結していた。そのような状況の中で2月14日、ブリックス委員長の追加報告が実施され、再度、国連査察に対するイラクの対応が不十分であることが指摘された訳であるから、次に採られるべき国連中心の措置は、強制査察のシナリオであったのではなかろうか。例えば、米英軍がイラク周辺から圧力をかけている状況のもと、米国・英国を除いた残りの国連安全保障委員会常任理事国であるフランス・ロシア・中国が、それぞれ5万の軽武装からなる兵員をイラクに投入し、兵力を伴う強制査察を実施することになれば、それらの国が主張する査察の続行も、米英が主張する武装解除も追及することが出来たはずである。ところがアナン国連事務総長始め、誰も全くその様な提案をする素振りも見せず、フランス・ロシア・中国はいたずらに査察継続を主張するだけで、具体的行動に向けた反応を全く取らなかった。後に判明したことであるが、フランスはイラクに対する債権を確保したかったこと、ロシアはイラク戦争がベトナム戦争のように泥沼化すると見ていたこと、中国は胡錦濤政権が発足して間もなく、対応に成案がなかったことがその理由であったようである。さらに悪いことにこれら3カ国は、サダム・フセインから油田採掘権を譲渡されていたことが判明し、加えてフランスは米・英機密情報をイラクに流していたというような噂までが流れている。
国際連合の正統性(レジティマシー)は、国連参加各国の理性、なかんずく拒否権を保有する常任理事国の理性に強く依拠している。それにもかかわらず国連参加各国、とりわけ常任理事国が、自国の利益を優先して理性を排除するのであれば、今後の国連のレジティマシーは死に体同然の状態になる。また、アナン事務総長は、このような時こそ事務総長の職を賭してでも、勇気をもってフランス、ロシア、中国に、兵員を伴う強制査察の実施を喚起すべきであった。米国務省内では、兵員を伴う強制査察の実施というシナリオが検討されていた節がある。しかし、米国からはその様な提案をすることは出来ないとの結論に達したようである。今般のイラク戦争に至る経緯には、このような水面下の動きがあったことを指摘しておきたい。ブッシュ大統領の「安保理は決断を!」の発言の背景には、そのような阿吽のやり取りが存在していたのである。
国連に代表される国際世論の動向が米国の正統性よりも勝るのだということを、今後、米国に突きつけていくべきであるならば、拒否権という特権を有する国連安保理常任理事国のメンバーは、国益を超えた理性をさらに磨く必要があることを、この機会に再度強く指摘しておきたい。それなくして国連のレジティマシーの復活はあり得ない。グローバリゼーションの世界を迎えた21世紀にあって、冷戦時代にはほとんど機能停止をしていた国連が、ようやく国際調整機関としての役割を見出している矢先、自国の国益にのみ固執する常任理事国の態度は強く糾弾されるべきであろう。
(2)北朝鮮が引き起こす問題
北朝鮮の政策が引き起こしている朝鮮半島情勢の悪化は、全ての周辺諸国、米・日・韓国・台湾はもとより中・露にとっても好ましいことではなく、これらの国々が連携して北朝鮮の冒険を阻止すべきであり、また、北朝鮮に起因する北東アジア情勢の不安定化は、台湾の安全にも悪影響をもたらしかねないことを認識しておく必要があろう。特に朝鮮半島と両岸における二正面同時騒擾は、最悪のシナリオであるからである。
1950年に勃発した朝鮮戦争は、台湾にとって正しく“天佑神助”であったと言われている。朝鮮戦争が勃発したために、中国人民解放軍は、台湾に進駐している蒋介石軍を討伐することが出来ず、結果として台湾は、人民解放軍に占領されなかった。従ってこの文脈を敷衍すれば、朝鮮半島有事が再び現実となれば、今度は逆に中国が北朝鮮を見捨てて、台湾海峡有事を引き起すかもしれないという恐れがあるということも考慮しておく必要がある。特に中国には1979年、“懲罰”と称してベトナムに侵攻した実績があるからである。
また、今般のイラク戦争で米国は、如何なる正当な理由や主張が存在したとしても、国連決議不在の「先制攻撃」というオプションを実行に移した事実は否定できない。「先制攻撃」についてこれを肯定する意見によれば、国連憲章第51条の表現は、外務省が翻訳している「武力攻撃が発生した場合には・・」ではなく、「armed attack occurs」、すなわち、「武力攻撃が発生する場合には・・」という現在形の表現になっていること、また、大量破壊兵器の被害の甚大さを考慮すれば、大量破壊兵器を使用して攻撃しようとする平和破壊国家が圧倒的に有利になる現実から、“国連憲章は侵略国など平和破壊を企図する国家を有利にすることを目的としていない”ことに論拠を置き、このようなケースでは先制攻撃あるいは先制自衛といった概念が成立するとしている。これに対し反対意見の論理は、元来先制攻撃は自己保存権との絡みで容認されていたものであり、慣習法上の解釈からすれば、75年のイスラエルによるレバノン攻撃、81年のイスラエルによるイラクの原子炉攻撃でさえも多くの国連安保理理事国が非難したことから、当該事案のケースは慣習法上、容認されるとは言えないとしている。いずれにせよこのような議論はともかく、今般米国が「先制攻撃」を実施したことは、中国が台湾に対し「先制攻撃」を仕掛ける口実を与える結果となったことは否めないところである。
加えて、北朝鮮の核開発という冒険に対する米国と中国の対応に、微妙なずれが存在することにも注意を払う必要がある。北朝鮮が既に開発した核兵器を含め全てを廃棄することを求める米国に対し、既存の核爆弾の保有は認めつつ今後の開発を断念させようかという中国の意図との相違である。北朝鮮は、今後の核開発は放棄するものの、既に獲得した核兵器はそのまま保有するとの意志を決して捨ててはいない。我が国としては言葉のレトリックにだまされることなく、既存の核兵器を含めた全ての核兵器計画全ての放棄を求めていくべきであろう。
また最近では、韓国が中国に経済的に急速に接近しているなか盧武鉉政権が誕生するとともに、コリアン・ナショナリズムが統一問題やサッカー国際試合等を通じて大きなうねりとなって台頭していることから、仮定の話として、朝鮮半島に統一韓国が成立した場合、“在韓米軍が統一韓国に引き続き存在できるか否か”、“中国はこれまで通り在韓米軍の存在を容認するのか”ということが、今後の当該地域の情勢を占う重要なファクターとなることが認識できよう。今後20年を見据えたとき、中国と米国の国力の相対的接近は必至であり、アジア・太平洋地域の安全・安定が中国の政策に大きく影響を受けることとなろう。そのような情勢下、在日米軍と在韓米軍の存在は、まさしく米国の中国に対する国家戦略の橋頭堡となろう。従って米国及び日本は、東アジアの平和と安定を確保するための“共通の戦略”をしっかりと打ち立てた上で、民主主義と自由市場経済という共通の価値観を有する、韓国や台湾その他のASEAN諸国と、これまで以上に強固に連携していく必要がある。
特にまた、北朝鮮の核保有が固定化されて統一韓国にそのまま継承され、かつ、統一韓国が在韓米軍の継続駐留を拒否した場合、我が国は対抗上核武装すべきであるか否かが、好むと好まざるとにかかわらず論議の遡上にあがってくることは明白である。すなわち、中国よりの統一韓国が核を保有し、中国の戦略核が米国の戦略核とバランスを取るような事態が生起した場合、日本は地域的な核バランスを確立するために、対抗上、核武装すべきとの考えが出てきても不思議ではない。最近の報道によれば、早くも米保守派の一部に「日本の核武装」を擁護する意見が出始めているとのことであるが、これらが唱える論理は、ここに言う議論とは全く異なる発想から出ていることに注意を喚起したい。また、日本の政府関係者は、一様に「ブッシュ政権の考えとは明らかに違う」とか、「核武装は国際的な孤児になり失うものが多すぎる」として、日本の核武装論を否定している。しかし、インドとパキスタンの核武装が、結果的に国際間で容認されている現状を考慮すれば、統一韓国が核武装を維持し、在韓米軍が撤退することにでもなれば、日本核武装論を封殺することは難しい。従って米国は、日本国内および国際間に、「日本核武装論」といった意見も今後は出てくるであろうことも念頭に入れ、現在の朝鮮半島情勢を勘案していく必要がある。我が国は、米国の真の友人として、北朝鮮問題にはそのような背景が存在することを、米国に対して注意を喚起すべきであろう。
2.両岸問題
(1)中国の短・中距離弾道ミサイルの脅威
中国共産党は、2000年に民主化路線を実現した台湾に対して、いわゆる「威圧戦略」を駆使している。それは単に政治的な威圧だけではなく、軍事的にも極めて大きな威圧を台湾社会に対してかけ続けている。その最も顕著な実態は、台湾に近い本土に約400基にも上る中距離および短距離ミサイルを配備していることとなって顕在化している。さらに東京にも届く「東風―21」と称される固体燃料・移動型ミサイルを配備しているし、最近は技術の発達により、短距離弾道弾ミサイル「東風―15」が、沖縄をも射程圏内に納めるようになっている。中国の短距離・中距離ミサイルは、単に台湾のみならず我が国日本に対しても、極めて顕在化した脅威となっているのである。
かつて欧州正面に旧ソ連がSS-20中距離ミサイルを配備したとき、欧州各国は、弾頭が複数化されたこと、固体燃料となって発射までの準備時間が劇的に短くなり、脅威の程度が格段に高くなったこと、車載化されたためにその運用が極めて柔軟性を持ち、非脆弱性を高めたことなどを挙げて国際世論を喚起し、廃棄にまで持ち込んでいった。しかしこれに対して我が国の対応と言えば、「東風―21」の前身である液体燃料使用の「東風―5」が初めて出現した時も勿論のこと、これが固体化・車載化された 「東風―21」 に更新された時にも中国に対し抗議を行わず、その危機感を世界に訴えることもなく、ましてや軍事的な対応を考えることも全くなかった。そして最近になって、防衛白書でようやくわが国に対するその脅威を指摘するようになり、それゆえに、ミサイル防衛システムの研究を承認したような状況である。
国際連合安全保障理事会の常任理事国である中国は、他の常任理事国と相違して、射程5、000m以下の核弾頭搭載中距離核弾道ミサイルを、未だに装備している唯一の国である。加えてその後のミサイル技術管理レジーム(MTCR)にも従おうとしていない。このような国が、安全保障理事会の常任理事国として厳然として存在する矛盾を決して容認してはいけない。確かに中距離核弾道ミサイル(INF)の廃棄条約は、米・露間の取り決めであるが、欧州各国もこれに従い廃棄していることからすれば、国際世論は今、声を大にしてそのような中国の横暴を糾弾すべきではなかろうか。
(2)政治手段化した弾道弾ミサイル
元来、主たる経空脅威は、航空機およびミサイルによってもたらされる。これら航空戦力が果たす役割は、戦闘機対戦闘機で行われる防空戦闘あるいは敵防空網を制圧する航空戦(SEAD)、航空戦力独自で行われる地上目標に対する戦略爆撃及び航空阻止、そして陸軍および海軍の行う作戦を支援する陸海作戦直接支援の四つに大別される。しかし航空戦力が出現して以来長い間、陸海戦力に比較して航空機やミサイルは、速度が速いため命中精度が極端に悪かった。ところが湾岸戦争時にGPS(全地球的測位システム)が導入され、衛星によって目標に弾頭を誘導する技術が向上するとともに、最近はミサイル等をレーザーデジグネーターで目標に誘導するため命中率がさらに向上し、航空戦力の役割は大いに高まってきた。湾岸戦争の作戦計画を担当した米国のウォーデン大佐は航空戦力の能力を過大視し、当時、航空戦力のみでフセイン大統領を追い詰めることを試みて結果的には失敗してしまったものの、これ以降、航空戦力の目標に対する命中精度は陸・海軍に信用されることとなり、戦略爆撃及び航空阻止並びに陸海作戦直接支援任務は、実際的な意味を持つようになったのである。そしてまた、戦略爆撃、航空阻止並びに陸海作戦直接支援は、戦闘機戦闘によって獲得される時間的・空間的な航空優勢が獲得されて初めて可能となる作戦であることも常識となった。陸・海・空部隊が個別に実施する作戦、あるいはこれ等を統合する作戦は、空の自由を確保している側が圧倒的に有利になるということである。従って今日では、いずれの戦争においても作戦初頭は、航空優勢の獲得競争から開始されるのが一般原則となっている。
このうち戦略爆撃任務は、敵の政治経済中枢、作戦指導中枢、交通の要衝及び通信連絡中枢等に対して行われる任務と、国民の大多数である非戦闘員に被害を与えることにより、国家としての継戦意志を喪失させようとする任務に区分され、最近は前者の任務を戦略攻撃、後者を戦略爆撃と区分するようになったが、特に今日、非戦闘員や社会インフラに被害を与えて国民の経戦意志の屈服を狙う戦略爆撃はマスコミ受けせず、今や国際世論を敵に廻しかねない戦略・戦術であり、それ故に、このような戦略爆撃は極めて慎重に行われなければならない任務となっているところである。
また前述したように、弾道ミサイルが目標に対する命中精度が低いのは、飛翔するミサイルの終末段階の速度があまりにも速く、誘導技術がこれに追随しないからである。従って精密な攻撃ができない弾道ミサイルは、いまや軍事戦術的には次等視されている。しかし逆に、命中精度が悪いことを悪用して、弾道ミサイルによって非戦闘員や社会インフラに打撃を与え、敵国民に恐怖を与えようとする国家も存在する。弾道ミサイルに核弾頭が搭載されれば、その効果はさらに決定的となる。換言すれば、弾道ミサイルは今や、優れて相手に対する政治的・心理的威圧手段として活用されているのである。
このことからすれば、台湾を睨む中国本土東側沿岸に配備されている弾道ミサイルは、まさしく中国共産党の台湾に対する、「威圧戦略」を担っている最大の武器といえよう。弾道ミサイルは、一度発射されれば航空機のように任務を中止して呼び戻すことはできない。従って、弾道ミサイルを政治の手段とする場合、その指導者には断固たる信念が必要となるが、北朝鮮や中国などの非民主主義国家の独裁者にとっては、発射の決断にそれ程の遅疑逡巡があるとは思えず、それがかえって国際社会の頭痛の種となっている。加えて、北朝鮮のノドン・ミサイルのように、狙った目標から約2700mもの誤差が生じるといわれると、日本国民が恐怖心を抱くのも無理はない。
さて、台湾に対する中国本土からの脅威は、これまで述べてきた弾道ミサイル脅威だけではなく、ロシアからの最新鋭戦闘機・駆逐艦・潜水艦の購入や、防空ミサイルシステムの購入などによって著しく近代化され、また経済の発展に伴い、軍事力の造成も順調に進捗しているところから、最近著しく増大しているのが現状である。加えて米国の国防報告によれば、先に述べた航空優勢確保のための航空戦力が、2005年には中国本土側に有利に傾くと言われていることからすれば、台湾が危機感を募らせていることは想像に難くない。確かに現在の中国共産党にとっては、共産党理論よりも経済成長の持続が一義的に重要であり、経済成長を持続しけなければ、顕在化しつつある諸問題が噴出する状況にある。加えて2008年には北京オリンピック、2010年には上海万国博を開催することになっている。従って向後10年間程は、東アジア地域の安定は中国にとり必要不可欠であり、両岸問題を顕在化させたくないという意図は保持していよう。
それならば中国は、何故に短・中距離弾道ミサイルを廃棄すると、世界に向かって宣言しないのか。昨年10月の訪米の際、江沢民主席は、「米国が台湾への武器売却を減らせば、台湾海峡のミサイルを撤去してもよい。」旨ブッシュ大統領に対し述べたが、これはまさしく、弾道ミサイルが政治の手段であるとともに、弾道ミサイル配備が、米・台分断を図る手段であることを如実に示している。日本を始めとする米国及び西側諸国は、中国共産党が、INF廃棄条約に従わない、MTCRに従わない、唯一の国連常任理事国であると声をそろえて糾弾すべきである。もしそれをしないのなら、台湾が弾道ミサイルを保持することを容認するべきである。台湾の技術水準からすれば、弾道ミサイル技術はそれほど難しいものではない。弾道ミサイルは政治的手段であるが故に、台湾の政治的な対抗手段を強化することにもつながるのである。
他方、米国は台湾に対して、ミサイル防衛システム(MD)の導入を推奨している。しかしそれは、物理的・時間的縦深性に欠け、中国本土からの弾道ミサイルの脅威に対応することは難しい。また現時点において、MDシステムは極めて高価なシステムであり、費用対効果を勘案すれば一考を要する。むしろ、より安価な弾道ミサイルシステムの配備の方がはるかに現実的であるし、限りある予算はNetwork Centric Warfareの実現に当てた方がよい。加えて、台湾に弾道ミサイルが装備された場合、目標となる中国本土の東側沿岸部は、いまや経済発展を支える中心地帯であるし、それに伴って社会インフラも順調に整備されているから、台湾側からすれば、目標としての価値が以前に比較して格段に向上している。それ故弾道ミサイルの導入は、台湾が政治的発言力を高めるために、有効かつ強力な手段であることは明白である。西側諸国は、このような台湾の考え方を一致協力して支持すべきであろう。残念ながら日本の場合は、対抗手段としての弾道ミサイルシステムの導入という選択は、憲法の制約もあって現時点では議論する余地はない。それゆえに、高価であってもミサイル防衛システムを導入せざるを得ないのである。
台湾が弾道ミサイルを装備した場合、自由と民主主義の価値観を共有する国家群は、その戦略によって大いに裨益される。すなわち、台湾のみならず日本、韓国、フィリピン、シンガポール等、中国の短距離・中距離ミサイルの射程圏内に入る諸国は、中国の弾道ミサイルによってもたらされる実際の脅威を緩和できるとともに、中長期的には、東アジア・太平洋地域の不安定要因となっている、中国の短距離・中距離弾道ミサイルの廃棄を勝ち得るかもしれない。米国もまた、自国の領土であるグアムがその弾道ミサイルの射程圏内に入っていることを自覚し、これら脅威を実感しているアジア・太平洋諸国と協調して、中国の短距離・中距離ミサイルの廃棄を促していくべきであろう。
(4)米国のアジア・太平洋戦略と日本の対応
さて冷戦崩壊以降米国は、欧州からアジア方面に戦略重心を移しているが、これに関して特に今後は、共通の価値観を有する日本、韓国、台湾を含む東アジア地域をその戦略要衝として、台頭してくる中国と戦略調整を図る必要がある。しかし、日本、韓国、台湾その他のASEAN諸国は、米国の当該地域に対する影響力行使を支持しつつも、同時に、各国の主権や内政に対する干渉という、米国の大国主義に懸念を抱いているのも事実であり、アジア・太平洋諸国は、中国の地域覇権主義との狭間の中で自らの存在を調整せざるを得ない状況にある。特に台湾は、米国一辺倒になってしまうと米国の中国に対する包囲政策に荷担をせざるを得なくなって台湾の全体利益を損なうことになるし、台湾がアジア各国との関係を強化しようとすれば、台湾のみならずそれぞれの国々と中国との軋轢が激しくなり兼ねないとのジレンマに悩んでいる。「中国の民主化過程は、長期間を要するものであり、また激動を伴うものであろう。その様な流れの中で台湾は、対抗より対話、冷戦思考より協力、台湾特有の長所の発揮による中国への関与といった政策を採ることが肝要である。台湾は、反中共から反中国に、あるいは親米から媚米になるのも適切ではない」とする台湾の戦略的結論にも、米国は注意深く耳を傾ける必要がある。いずれにせよ米国は、21世紀の国家戦略として、日米安保体制を自国のアジア・太平洋戦略に寄与する橋頭堡としてこれを評価するとともに、韓国・台湾そしてASEAN諸国に対して特段の配慮を払いつつ、対中国戦略を考慮していかなければならない。そして我が国は、日米安保体制は、単にわが国防衛のための枠組みであるのみならず、自由民主主義という価値を共有する諸国のためのアジア・太平洋における橋頭堡でもあるということ、また、その意義を戴して米国の国家戦略に貢献しているということを、さらに積極的に自覚すべきであろう。
おわりに
東アジア情勢の平和と安定を勝ち得るために、敢えて中長期的視野から独断的にその展望を描いてみたが、結果として、@北朝鮮の核兵器保有問題は、日本の核武装化に繋がりかねない危険性を孕んでいること、従って、米国、中国を始め関係諸国は、北朝鮮の核兵器保有を絶対に容認しないと言う立場から北朝鮮との交渉を推し進めるべきであること、A東アジア情勢を不安定にする中国の短距離・中距離ミサイルの配備は、時間をかけてでもこれを放棄させるべきであること、B国連安全保障常任理事国が、自らの国家利益を超えた大局的理性を復活させることが、今後の国連の正統性の回復に繋がること、C日米安保体制は、日本の防衛のみならずアジア・太平洋地域の平和と安定に寄与していること、が明確になったと言えよう。
特に日本は、アジア・太平洋地域の平和と安定に努力を傾注しているにも拘わらず、あらゆる機会を通じて、その努力を関係諸国に対して説明していく姿勢に欠けている。例えば、「周辺事態安全確保法」の成立と、計画検討作業の結果として成立した、北東アジア有事の際に、我が国に展開する米軍に対する後方支援を行うための枠組みは、当該地域の平和と安定に充分寄与するものである。しかし中国政府に遠慮する余りか、日本政府は、アジア・太平洋地域諸国に対してその意義を充分に説明していない。
また、我が国政府が現在進めている有事法制整備についても、日本の軍国主義化の契機と見ている国々が存在する。しかし、自衛隊は「警察予備隊」(Police Reserve)から進化したもので、決して「軍隊予備隊」(Military Reserve)から進化した組織ではない。従って自衛隊の法体系は、外敵に対処する軍隊のそれとは相違して、警察機構が有する限界を抱えたままであり、例えば、自衛隊には、軍法、軍法廷、軍営倉は存在しない。その戦力発揮は、警察官に容認される範囲を超えることが出来ない。日本政府は、こうした欠陥を排除し、普通一般の軍隊としての戦力発揮が可能となる法体系に向け、再生を図る一環として有事法制整備が始まっていることを、これら諸国に対して明確に説明する責任がある。説明責任を充分に果たさない国家は、他国から誤解され取り残されても仕方がない。我が国政府は、その様な観点から、アジア・太平洋地域の諸国に対し、各般の機会を利用して、日本の安全保障政策・戦略を詳しく説明していくべきであろう。
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