欧州連合の防衛産業戦略・政策から見た

わが国の防衛産業政策への示唆について

(財)DRC研究委員

                                重 村  勝 弘

1.はじめに

2.欧州連合(EU)の成り立ちと安全保障政策

3.欧州連合(EU)における防衛産業戦略

4.欧州連合(EU)における防衛産業政策

5.わが国防衛産業政策のへの示唆

6.おわりに

1.はじめに

冷戦の終結とともに各国は防衛力の再編に着手し、部隊の規模を縮小するとともに防衛予算の削減に乗り出した。いわゆる冷戦後の平和の配当である。しかしながら1990年代から2000年代初頭において、冷戦という東西対立の抑圧から解放された伝統的な対立要因である民族、宗教、領土、資源等の紛争が世界各地において噴出した。

一方、軍事技術の面においては情報技術の急速な進歩により、軍の近代化が急速に進展しようとしている。特に米国は湾岸戦争、コソボ紛争、アフガン戦争、イラク戦争において情報技術の優越により圧倒的な勝利を収めていった。これらの軍の近代化を支えているのが防衛産業基盤・技術基盤であり、米国は1993年のペリー構想により、いち早く防衛産業の統合・合併を進め、強力な競争力を持つ5つの企業グループに再編成していった。

欧州においても1990年代後半から2000年代初めにかけて国を跨る統合・合併を推進し、米国に対抗しうる競争力のある防衛産業グループを編成している。

わが国においては、冷戦後の部隊の縮小、装備品調達予算の削減にもかかわらず、防衛産業の体制は冷戦時代とほとんど変わらず、各企業は調達改革の名のもとに過当な競争を強いられ、長引く不況と相俟って、新たに研究開発投資する余力もなく、低い利益率に甘んじて現状を維持するのに汲々としている。こうしたことから、悪化する現状を打破し防衛産業の健全性を維持するための方策が防衛産業の中で模索され始めている。

小稿は、DRCが実施した平成14年度の受託研究「先進諸国における防衛産業政策の動向に関する調査研究」のうち、欧州連合(EU)の防衛産業政策の部分を要約して紹介し、わが国の防衛産業政策のあり方を考察したものである。

 

2.欧州連合(EU)の成り立ちと安全保障政策

 

(1)欧州連合の成り立ち

欧州全域を戦争の渦中に巻き込んだ第2次世界大戦は、未曾有の被害を各国にもたらした。このため欧州各国は戦争の再発防止と欧州の復興、そして東欧に広がってきた新たな脅威としての共産主義の台頭に対抗し、平和を維持する必要に迫られてきた。このためには、欧州大陸における指導的な立場にある独・仏両国による不戦の誓いと欧州復興への協調が必要とされた。

このような状況のもとに、1952年、独・仏が共同して欧州の復興に不可欠であり、また戦争に必須の資源である石炭と鉄鋼の共同管理を目的とする、欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)を発足させた。

このECSCの成功は、更に経済全般に亘る共同組織結成の動きの原動力となり、1958年、西ドイツ、フランスのほかイタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルグの4カ国を加えた6カ国により欧州経済共同体(ECC)が結成された。また、同年、原子力を共同で管理する欧州原子力共同体(EURATOM)も発足した。

1967年、これらの3共同体は統合されて、欧州共同体(EC)が発足した。その後、イギリス、アイルランド、デンマーク、次いでギリシャ、スペイン、ポルトガルが加盟し、欧州の主要国を網羅していった。

199311月、ECは欧州連合(EU)と改称され、経済の分野のみならず政治の分野についても協調体制が確立された。1995年にはスウェーデン、フィンランド、オーストリアが加盟し15カ国体制、人口37000万人の大連合体となった。そして20021月から欧州統一通貨「ユーロ」の採用が12カ国によって実施され、経済の統合が進展していった。また、2004年には中・東欧の10カ国が加盟を予定しており、ヨーロッパの復権を目指す「大欧州」に向けた動きが加速している。

EUは今後、欧州憲法の制定、欧州連邦の設立、欧州大統領の設置、外交の一元化、欧州議会の権限の強化等を具体化するため、「欧州将来像会議」が設置され、検討が進められている。

(2)EUの安全保障体制

欧州における安全保障体制としては、1949年に発足した北大西洋条約機構(NATO)があり、ワルシャワ条約機構と対峙しつつ、第2次世界大戦後の欧州における共産主義の浸透を阻止する防波堤の役割を果たしてきた。しかしながら、ソ連の崩壊とともにその役割も変質しており、特にコソボ紛争において欧州の安全保障体制が有効に機能しなかったことの反省から、NATOに頼らない欧州独自の防衛組織の必要性がEU内部で議論された。そして、従来からある西欧同盟(WEU)を吸収した新しい安全保障組織として「緊急対応部隊」を2003年中に創設することを決定した。

この緊急対応部隊は約6万人からなり、紛争地域に60日以内に展開し、最低1年間は平和維持活動や人道援助活動を継続する能力を有することとしている。このためEU各国は兵員7.5万人、航空機400機、艦船100隻の提供を表明しており、中・東欧のEU以外の15カ国も協力を明らかにしている。また、EU内に安全保障政策を担当する「政治安全保障委員会」、制服組が軍事技術面を担当する「軍事委員会」及びその下部機構として軍事計画の立案・遂行を担当する「幕僚部」が設置されている。

 

3.欧州連合(EU)における防衛産業戦略

 

(1)米国の防衛産業の統合・再編

冷戦の終結に伴い、米国においては軍事力の縮小と防衛予算の削減が行なわれ、防衛産業は厳しい状況に追い込まれた。1993年、当時のペリー国防長官は防衛産業のトップを夕食会に招き、その席上において将来の米軍の削減計画と防衛予算の削減の推移予測を示し、現状の防衛産業が供給過剰の状態にあり、将来の適正規模は現在の2分の1から3分の1で十分であることを航空機、ミサイル、艦船、戦闘車両、ミサイル防衛の分野毎に明示し、各企業の統合・合併或いは撤退を促した。これを契機に米国の防衛産業は大規模な統合・合併或いは防衛ビジネスから撤退し、50以上あった主要契約企業はボーイング、ロッキード・マーチン、ノースロップ・グラマン、レイセオン、ゼネラル・ダイナミクスの5社に統合されていった。

(2)欧州の防衛産業の動向

欧州の防衛産業も冷戦の終結に伴い大きな影響を受けていった。例えば1996年の防衛生産量は10年前に比べて半減しており、これに伴って労働者の数も160万人から100万人へと37%も減少した。また、米国に対する武器輸出入の比率は1985年に4対1であったものが、1990年には5対1、そして1995年には6対1へと下落して行き、欧州防衛産業の競争力は低下していった。

このような危機的状況下で欧州各国は防衛産業基盤・技術基盤の維持は欧州経済の発展のために重要であるとの認識のもと、安全保障の観点から防衛産業の衰退は看過できず、欧州としての防衛産業の維持・育成のための統合戦略の必要性が叫ばれた。

(3)欧州連合(EU)における防衛産業戦略

米国の防衛産業の統合・合併による産業力の強化が図られていく状況を見て、EUは防衛産業政策の分野における共通の戦略を確立することの必要性を痛感した。1995年夏、EUの閣僚理事会は欧州の武器政策に関する作業部会を設置し、欧州としての統一した武器政策の検討を開始し、12月には「革新に関する青書」において軍事技術の民間産業への積極的転用を促進する政策を打ち出した。

19961月、欧州委員会は欧州防衛産業の統合・合併を促進するため、防衛産業との対話を開始し、19976月には再編に関する決議が欧州議会において採択された。時を同じくして欧州武器政策を担当する閣僚理事会の作業部会においても、防衛産業基盤及び技術基盤の維持の重要性について意見を提出した。

19976月には閣僚理事会の中に共通の安全保障・外交政策を担当する事務局長が新設され、また西欧同盟(WEU)との合併を視野に関係強化を図り、かつ共通の武器政策を作成することに合意した。これを受けてWEUEUとの武器協力を行なうこと、欧州武器市場の合理化を図ること、将来EU内に「欧州武器局」を設置すること等が定められた。

一方、EU内において欧州の安全保障及び防衛の主体性を欧州自身が保持する必要性があるとの意見が提出され、このためには欧州の防衛産業基盤と技術基盤が健全であり、かつ競争力を持たなければ欧州の主体性は望めないとの認識がなされた。そして、欧州統合戦略を策定し共同歩調を取ることの必要性が各方面から要望された。特に米国に大きく遅れをとっている航空宇宙産業はもはや一国のみでは十分な業績と競争力を維持することは困難であり、欧州レベルで軍需・民需を含めた企業活動を整理統合するための公的な枠組み作りの必要性が強調された。

199711月、欧州委員会は閣僚理事会、欧州理事会、経済社会委員会、域内市場委員会に対し「防衛関連産業に対する欧州連合戦略の導入」と題する通知を発出している。この通知は欧州の防衛関連産業の現状を分析し、EUとしての戦略、欧州委員会の採るべき活動を明確にし、欧州武器政策を遂行するための共通の立場及び防衛関連産業の行動計画を明確にしており、爾後の欧州における企業の統合・合併及び競争力の確保等の指針となった。この結果、大規模な統合・合併が推進されていった。

(4)防衛産業の統合・合併

199712月、欧州各国の首脳は防衛産業のトップに対して企業の統合・合併を促し、EUもこの政策を推進していった。その結果、欧州においては国を超えての統合・合併が促進され、フランスのアエロスパシャル・マトラ及びダッソー・アヴィエーション、ドイツのダイムラー・クライスラー社の航空宇宙部門であるDASA、そしてスペインのCASA3カ国からなる宇宙航空防衛産業が統合されて、2000年にEADS(European Aeronautic Defence and Space Company)が誕生し、また、フランスのThomson-CFSを中核として通信電子関連企業が統合して設立されたThalesが、そして、英国を基盤として1999年に設立されたBAE Systems3社に集約されていった。特にEADSは、傘下にエアバス、ミリタリィ・トランスポート、エアロノーティクス及びスペース部門(アストリューム)、ディフェンスシステム部門を有し世界におけるシェアは民間航空機部門第2位、回転翼機部門第2位、衛星用ロケット部門第1位、ミサイル部門第2位、人工衛星部門第3位、軍用固定翼機部門第4位となり、2001年における売上高は民需・軍需あわせて308億ユーロであり、ボーイングに次いで世界第2位の防衛産業となった。同様にBAE Systemsは世界第4 Thalesは世界第8位の防衛産業となり、米国のビッグ5と対等に競争できる体制が整っていった。

 

4.欧州連合(EU)における防衛産業政策

 

(1)防衛産業に関する基本認識

EUは、防衛産業基盤及び技術基盤が欧州の安全保障、経済発展の面から重要であり、かつその基盤が健全で競争力を持たない限り、欧州の防衛政策の主体性は持ち得ないとの認識を有し、欧州を単一の武器市場とみなして共通の基準作りに努力している。そして、防衛産業、特に航空宇宙産業にとってはEU加盟の一国のみでは十分な競争力を維持することは困難との認識から、欧州全般として民需、軍需の一体的な維持・育成策をとるように努力している。

(2)防衛生産基盤・技術基盤の意義

欧州委員会の作成した「防衛関連産業の行動計画」に示された防衛産業基盤・技術基盤に対する認識は以下のとおりである。

@防衛産業基盤・技術基盤には技術ノウハウ、研究開発施設、熟練労働力、製造設備、マーケティング及び輸出能力が含まれ、これらは欧州にとって極めて重要な戦略資産であり、そのため強化・維持されなければならない。

A防衛産業基盤・技術基盤は欧州の安全保障・防衛の主体性を確立するための前提条件である。

B防衛産業基盤・技術基盤は軍需のみならず、民間産業基盤・技術基盤の維持・発展に不可欠なものである。

C防衛産業基盤・技術基盤は地域の雇用に取り重要な要素である。

そして、防衛産業基盤・技術基盤を維持・育成するための「行動計画」の目標は、次のことを実現するために必用な条件を整備することとしている。

@欧州防衛産業の競争力を強化する。

A防衛産業基盤・技術基盤を維持する。

B防衛産業基盤・技術基盤と民間産業基盤・技術基盤とを一体化して軍民両分野での活動の重複を避ける.

C欧州の安全保障・防衛の主体性確保のため、必要な前提条件を生み出す。

このため、欧州を単一市場として需給の調整を図るための努力を行なうとともに、企業の統合・合併により生産基盤・技術基盤の維持・強化を目指している。

(3)防衛産業と政府の役割

EUは防衛産業と政府の関係を以下のように認識している。

@防衛産業は戦略的な産業であり、その製品は国防に極めて重要である。

A防衛産業は経済的な原則よりも国防政策に左右される。

B武器の生産と取引は政府の権限の支配下にある。

C防衛産業は政府が唯一のカスタマーであり、政府のみが運用要求と技術仕様を決定し、単一のカスタマーとして需要を決定する。

D企業において長期的需要予測はできない。従って生産計画や設備投資も独自の判断ではできず、政府の方針、計画或いは脅威見積に左右される。

E防衛製品は品質と価格の関係のみで調達方針が決定されるわけではない。調達においては戦略的な政治・経済・安全保障等の考慮事項のほか、産業の協力態勢に対する保証も考慮されなければならない。

F防衛産業は国防を保証する供給源である。供給の確保に対する要求は通常の経済取引よりも格段に強い。

G防衛プログラムは20年から30年に及ぶ長期の技術の維持、生産設備・技術者の確保を要求する。

H国家機密に関わる軍事情報の秘密保持を要求し、通常の経済活動とは異なる制約を要求する。

以上の様に防衛産業と政府の関係を規定しており、政府は企業に対して厳しい要求や制約を課すとともに、その代償として適切な保護と保証を行なっている。このことはわが国の防衛産業政策を検討するうえでの参考になるものと思われる。

(4)共同研究開発・共同生産に対する認識

欧州委員会は研究開発について加盟国単位と欧州単位の間に補完的な研究プログラムを強化して研究開発及び生産活動における経費の無駄や重複を避ける様に提言している。そして、共同開発・共同生産の利点として次の項目を挙げている。

@同盟関係の強化と核となる技術の共有・維持。

A重複した努力の回避による能力の有効活用。

B共同調達による経費の有効活用。

C共同作戦における共通装備による標準化とインターオペラビリティの確保。

D世界市場における競争力を保持するための先進技術開発への集中。

以上の認識により、EU各国は共同開発・共同生産に積極的に取り組んでいる。この共同開発・共同生産には多国間方式と二国間方式がとられており、多国間方式としては西欧武器グループ(WEAG)、6カ国協定(LOI 6)、武器調達共同機構(OCCAR)などがあり、2国間方式については米、英、独、仏等を中心に多方面に亘って盛んに行なわれている。ドイツの場合、装備関連経費の50%(仏と29.4%、蘭と13.5%、英と8.3%、伊と8.9%)が共同開発あるいは共同調達の経費として計上されている。

(5)防衛装備品の取得・調達に関する基本的認識

取得・調達に関するEUの基本的な考え方は、「防衛装備品は品質と価格との関係のみで調達方針を決定すべきではなく、戦略的な政治・経済・安全保障に関する総合的な判断のもとに決定されるべきものである」としている。そして、防衛装備品の調達の方針は、競争力のある防衛生産基盤・技術基盤の構築に大きな影響を及ぼすとしている。

(6)防衛装備品の輸出管理・振興

EUは、武器の輸出は外交政策・安全保障政策の一環として捉えている。このため冷戦時代は防衛装備品及び軍事技術のソ連圏への流出を厳しく管理したが、冷戦後は欧州の自主性の回復機運とともに欧州内での装備の共通化を進め、また、防衛産業基盤・技術基盤の維持しつつ、外交政策・安全保障政策と連携した武器輸出政策を積極的に進めている。

 

5.わが国防衛産業政策への示唆

 

(1)防衛産業に対する認識の是正

欧州においては「防衛産業は戦略的産業であり、その製品は国防に直結する極めて重要な位置を占めるものであり、政治或いは安全保障の観点からその活動を統制し、防衛産業基盤・技術基盤の維持・育成に努めることが重要である。そして、その役割は各国の政府にある。」と認識している。そして、防衛製品は経済原理や競争原理等、単に価格と性能によって決まる市場メカニズムに馴染まない分野に属するものである。すなわち、顧客は政府のみであり、政府の都合により性能も生産量も決定される。このような制約を防衛産業に課しているため、政府は必用な保証を与えているのが現状である。

一方、わが国においては競争入札万能主義にとらわれて、あたかも家電製品を調達するような感覚で防衛製品を調達している傾向があり、防衛産業基盤・技術基盤の弱体化を招いている。防衛産業基盤・技術基盤は陸海空の部隊と同じく防衛力であり、防衛産業基盤・技術基盤の弱体化は防衛力の弱体化に直結することを認識して、国家として防衛産業基盤・技術基盤の維持・育成のための政策を推進する必要がある。

(2)政府による防衛産業の統合・合併支援

1990年代から2001年にかけて、米国、欧州において防衛産業の大規模な統合・合併が行なわれ圧倒的な競争力を有する巨大な防衛産業が誕生した。これらの企業は兵力の縮小と防衛予算の削減に対応して統合・合併により人員の削減、施設の統廃合及び技術基盤の統合等により合理化とスケールメリットを生かして再生し、統合前より業績を伸ばしている。

これに対してわが国の場合、企業の総売上高に対する防衛関連生産の比率がわずか10%から1%以下の多くの企業が、依然として少量多品種の装備品を生産しており、厳しい競争と低い生産性に苦しんでいる。政府はグローバル化時代における戦略産業である防衛産業が、国家安全保障の視点から欧米に伍していけるように、政府主導による統合・合併を推進し、防衛生産基盤・技術基盤の維持・育成と競争力の確保に努める必要がある。

(3)武器輸出禁止政策の見直しと外国との共同開発・共同生産の推進

欧米においては装備品の共同開発・共同生産が主流を占めつつある。これは研究開発等に重複投資を避け技術の共有化と、スケールメリットによる予算の効率化を図ると共に、インターオペラビリティの確保等安全保障上の関係強化にも貢献している。

わが国の場合は武器輸出禁止政策によって、武器等の海外への輸出が厳しく統制されており、外国との共同開発・共同生産に伴う部品レベルの輸出さえも禁止されている。現在米国との間に技術の提供のみ例外的に認可されている。一方では、米国始め仏、独、伊等欧州各国から武器の輸入を行なっており、これらの国から武器技術・武器そのものの一方的な日本への流出に懸念を示している国も多い。武器技術・武器の輸出入は戦略的な施策であり、相互に利益を共有することが原則である。一方的な利益の享受は許されない。このように日本はグローバル時代において防衛産業の分野では、鎖国状態にあると言ってよい。世界レベルの性能を有する優秀な装備品を国際価格で整備するため、また安全保障関係を強化する上においても、共同開発・共同生産はグローバル化時代の防衛産業戦略である。民間航空機の分野ですでに共同開発・共同生産が始まっている様に、防衛装備品についても共同開発・共同生産を積極的に推進する必要がある。今後、ミサイル防衛等の整備にあたっても共同開発・共同生産は避けて通れない関門である。政府は武器輸出禁止政策(内閣の統一見解及び国会決議)を見直し、国益を考慮して国家戦略としての武器政策を策定することが必要と考える。

(4)研究開発費の増額

防衛庁の研究開発予算はここ数年、毎年度1400億円程度であり防衛庁全予算の約4%である。これに対して、米国の研究開発予算は360億ドル前後で国防予算の13,7%に相当する。英国、フランスにおいても国防予算の10%を超えており、ドイツにおいても5.7%である。

日本においては、防衛技術は民間企業の有する汎用技術を防衛正面に転用し、或いは外国から導入した技術が多い。防衛産業基盤・技術基盤を確保するためにも、独自の防衛技術を国内開発し技術防衛力を維持し、或いは諸外国と共同開発を促進するためにも、欧米並の研究開発予算を確保する必要がある。

(5)官産学の共同態勢の確立

防衛装備品は最先端の高度な技術を結集したものである。このため、欧米諸国では国立の研究所や大学と連携し、或いは民間の会社や研究機関と密接に連携し防衛技術の開発に当たっている。また、高度技術であるためスピンオフ或いはスピンオンが盛んに行なわれ、防衛技術、汎用技術の活性化、流動化が進んでいる。

一方、わが国においては戦後の平和主義の残滓が色濃く残っており、いまだに大学や国立の研究所との交流は無く、防衛技術は閉ざされた社会の中で開発されている。効率的な研究開発と高度技術の官民交流による活性化を図り、わが国の技術力を向上させるためにも、官産学の共同態勢の枠組を作る必要がある。

 

6.おわりに

米国においては国防総省の中に防衛産業政策を所掌する部局があり、防衛産業全般のコントロールを行なっている。わが国において防衛産業政策を策定して実施している官庁はどこであろうか。

防衛庁には装備品の調達に関する組織はあるが、防衛産業政策全般を所掌する部局は見当たらない。産業経済省においてもGDP0.5%前後の防衛関連産業に対して重視した政策を行なっている様には見えない。

しかしながら、防衛産業は戦略的な産業であり国家がその技術基盤・産業基盤を維持育成しなければ、重要な防衛力である防衛技術力・防衛産業力は弱体化し、ひいては防衛力そのものの弱体化をきたすものと思われる。

以上の観点から国家としての防衛産業戦略を確立し、補助・育成を含めた防衛産業政策を強力に推進することが必要と考えられる。

参考文献

(1)()DRC受託研究「先進諸国における防衛産業政策の動向に関する調査研究」15

(2)Implementing European Union Strategy on Defence-Related Industries,

European Commission Com(97) 583 final, Brussels, 12 November 1997

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