防衛産業政策をどう進めるか

 

()DRC研究専門委員 

庄 野  凱 夫

 

はじめに

世界のいずれの国においても独立と平和を守り、国家・社会体制の維持繁栄を追求する国家安全保障の中核となるものは国防力であり、これを一定の背景にして国際協調と世界平和の推進を図る外交・経済等他の安全保障活動が有効な成果をあげるものであろう。

近代化以降の日本は、第1次世界大戦以前は英国と、192030年代には枢軸国と、第2次世界大戦以後は米国と、時代ごとに手を結ぶ相手を替えてきており、常に世界の有力な大国の威を借りその庇護を得て、その時々における生存発展を進めてきた強者追従型(バンドワゴニング)国家であるという(1)

それは、勿論それぞれの折の国家指導者つまりは国民の選択であり、ハンチントンの言う孤立した文明国日本の生存法であったのであろうが、今後少なくとも21世紀の「国際社会において名誉ある地位を占める国家」として、繁栄しつつ生き延びるために必要な前提条件を満たした上での手法でありうるだろうか。

世界に通用する近代国家としての日本がその国防力を国家存立の基本的能力のひとつとして確立するためには、国防力の基礎を支える重要な要素としての防衛装備品の開発製造を担う防衛産業をどう維持育成したらよいのか。安逸な時代の流れと諸外国には通用しない独自の社会制度の中で次第に体力を失いつつあるように見受けられる防衛産業を、現状から回復させ自由化と競争の世界に通用するものに変革してゆくにはどうしたらよいのかを考えてみたい。

 

1.統合防衛構想を策定して装備構想を確立する

冷戦構造崩壊後の世界は、大規模紛争の危険が遠のいたことから、世界の国々には国防予算の減少や国軍の縮小再編成という形でのいわゆる平和の配当が求められてきた。一方近年は、多発する地域紛争や大量破壊兵器の拡散、2001.9.11の対米同時多発テロにみられるような新しい国際テロリズムなどの非対称脅威の増加、あるいは北朝鮮による他国民の拉致誘拐・麻薬密輸などという凶悪な国家犯罪が行われるなど世界の安全保障環境が急速に変化しており、その多様性・不透明性によって対応の方向を定めることの困難さが各国指導者を悩ませ続けている。

それと共に、軍事の分野では欧米先進諸国を中心とする急速な科学技術の進歩発展に支えられたIT化を初めとするRMAが、軍事力の質の転換をもたらしつつあり、軍の装備品に対する近代化・高度化の努力が従来以上に求められている。このため、いずれの先進諸国においてもこのような環境の変転とニーズの変化に対応して、国家経済の縮減に伴って限定された国防予算で最大の効果を実現するため、防衛装備品取得・調達の組織制度の改革と国防産業の維持育成が進められている。

これらの国家における取得・調達改革の進め方をみてみると、いずれも国家安全保障の基本となる防衛構想・国防計画を見直すことから始められ、これに直結した効率的な装備構想の確立と総合的な国防産業政策を推進するという合理的な手順で進められている。こうした欧米の改革は、わが国のように概念的な防衛構想をそのままにして、毎年度限定的に定められる防衛予算の枠内に陸海空3自衛隊の要求事業を平均的に押し込み、取得・調達の予算執行額を既定枠内に止めるために、官民間の慣行や契約制度などを改善せず、企業間の競争を強化促進することだけで装備品の価格を引き下げるという手法を改革の中心に据えているものとは大いに異なる。

すなわち、防衛産業政策の基本となる装備構想は、防衛構想に直接的に係わっているのであって、わが国においてもまず防衛構想自体を見直し、「防衛計画大綱」よりもさらに具体的な統合防衛力の構築を策定することが必要である。

外国の例をみるならば、イギリスにおいては、「国防という陸海空3軍共通の戦争目的を達成するためのニーズ」に応える抽象概念を国軍が保有すべき「Capability」として確立し、これをカスタマーとしてその実現を図るというアプローチが確立されている。Capabilityサプライヤーとしての国軍は、3軍統合のプライオリティの下で装備構想を策定し、装備品取得・調達段階においては陸海空3軍の壁を取り払い最も効率的な取得・調達を行うこととしている(2)

フランス及びドイツにおいても国軍が保有すべき統合機能である「Capability」を目標として装備品研究開発(R&TR&D)が進められているのである。

いずれの国においても、軍隊が保有すべき機能いわゆる軍隊の能力は、安全保障確保のための目標値として検討され設定されるものであろう。

わが国においても各自衛隊はそれぞれの脅威設定に対応する防衛構想として、戦闘区分ごとに保有すべき機能を設定している。たとえば海上自衛隊における各種戦区分としての、防空戦・対潜戦・対水上戦・機雷戦などにおける戦闘能力である。そこでは海上自衛隊の水上部隊・潜水艦部隊・航空部隊が、単独あるいは共同で一定の戦域における一定の脅威に対抗して攻撃・防御機能を発揮して所要の成果を得るべき能力が想定されている。しかしこのような機能は各自衛隊が自ら定めた戦域における自らの戦闘シナリオに対応して設定している各自衛隊ごとの「Capability」であって、わが国に対するありうべき脅威に国を挙げて対抗し、全自衛隊が統合して対応する機能つまり国家としての「Capability」に相当するものではない。

現状では各自衛隊は、それぞれ独自の防衛構想に従った装備構想を実現するために、それぞれが独自に装備品の取得・調達計画を策定して装備予算を要求している。そしてほぼ平均的に毎年度大差なく分配される防衛予算の中では、陸海空3自衛隊の予算配分枠が大きく変更されるようなことは決してない。

防衛庁として防衛予算全体を取りまとめる役割を持っている防衛局は、具体的な国家としての「Capability」を策定していないから、国家の将来有事において3自衛隊が発揮すべき戦闘機能の区分とそのレベルを確定できない。したがって3自衛隊ごとの装備構想に基づく事業別の装備予算要求について総合的なプライオリティを合理的に決めることができないでいると言えよう。

2001年以来防衛庁では中谷前長官及び石破現長官の指示により、防衛力の在り方についての検討が進められた結果、陸海空3自衛隊の部隊における統合運用態勢を構築する方向が示され、統合幕僚組織を設置して統合幕僚長(仮称)が、自衛隊の運用に関し、各自衛隊を代表して一元的に長官を補佐することが考えられている(3)

これは有事における自衛隊の効果的な任務達成のために必要なことであり、現状改善の有意義な方向を示すものであるが、このような統合運用態勢を実あるものとするには、まず統合防衛構想の策定から始めることが前提となる。しかし、現時点では「運用を除く隊務については、従来どおり各幕僚長が長官を補佐する」こととなるようであり、「各自衛隊の防衛力の整備や維持については、現行どおり各幕僚長が責任を負う」としている。すなわち、検討されている統合は、部隊運用という戦術的な範囲のみに限定した3自衛隊統合構想であり、防衛力整備計画が従来どおり3自衛隊・3幕僚監部のそれぞれにまかされているので、その基本方針である「防衛力の合理化・効率化・コンパクト化の推進」にはなりえない。

統合防衛構想なしでは、各自衛隊が保有すべき防衛力を有事の態様と脅威のレベルごとに見積もり、全部隊を最も効率的に運用するための装備と運用能力を整備していくように設定することができないために、各自衛隊における個々の防衛力の整備や維持の計画に全体としてのプライオリティが与えられないからである。

3自衛隊の運用統合の以前に、あるいは少なくとも同時に、防衛力の整備・維持の統合がなければ意味がないのである。すなわち、3自衛隊統合の「Capability」が策定され、これを実現するための各自衛隊ごとの防衛力整備計画が総合的な観点に立ったプライオリティの設定にしたがって調整され、防衛力の合理化・効率化・コンパクト化のために必要な機能統合として、たとえばドイツで行われたような統合ロジスティックコマンドの設立のような3自衛隊の部分的な部隊・機関の統合が行われたうえで、3自衛隊の統合運用が行われるべきであろう。これは必ずしも自衛隊全体の統合化を前提とするものではないのであって、最も合理的・効率的な防衛力の整備手順を示しているに過ぎないのである。

以上述べたとおり、わが国においても、先進諸国の「Capability」に相当するような機能型の統合防衛構想を策定し、3幕僚監部個別要求ではない統合プライオリティ設定による防衛力整備戦略・装備構想を確立する必要がある。そうなって初めて効果的な有事対応の兵力運用が可能になり、これに備えた原材料備蓄と装備品の生産基盤・技術基盤の維持育成、急速調達態勢、3自衛隊統合体制等の合理的・効率的・コンパクトな防衛力の整備が可能となるのである。

 

2.必要な防衛予算を確保する

統合防衛構想において、陸海空3自衛隊を統合したわが国防衛力全体の「Capability」を確定し、その実現に向けて個々の装備品取得・調達の方向を定めるとしても、将来の危機或いは有事において、十分な質 (quality)を持った所要の兵力をかなり長期間にわたって所定の戦域に展開できる能力を持つということだけをとっても、現状を大幅に転換するような決心と実行力が求められることになる。

たとえば、弾道ミサイル防衛ひとつをとっても、現構想において槍先とされているイージス艦搭載の海上配備型ミッドコース防衛システムと陸上装備のペトリオットPAC3、多目的情報収集衛星あるいは高性能偵察衛星を含むセンサー及び情報収集システム、収集情報の整理・分析・評価・配布・蓄積等の情報処理システム、脅威評価と目標指示・攻撃・成果評価等の戦闘管理システムなど、整備すべき装備品の性能はきわめて高度で、所要の数量も多く、総合経費は莫大なものになると予測される。

これらの装備品取得・調達経費と組織人員のための防衛予算をどう確保するのか。防衛問題のプライオリティをどう向上させるのか。

そのきっかけとしては、防衛予算のGNP1%枠と武器輸出3原則という政策の転換が求められるであろう。わが国の防衛費の対GDP(4) 1%は、アメリカの3.2%、フランスの2.6%、イギリスの2.5%、ドイツの1.5%、イタリアの2.0%には及ばぬまでも、世界の正規軍保有数上位40カ国のうち、0.9%のインドネシア及びエジプトに次ぐ下から3番目(5) の1%の枠を解消して所要の防衛予算を確保する政策が必要であろう。

もちろんGNP1%枠は、政策としては現存しない。この政策は1976年三木内閣において防衛費増加の歯止め措置として「防衛費は対国民総生産の1%を目処とする」という閣議決定によって始まったが、19871月中曽根内閣においてこの方針が撤廃され、中期防衛力整備計画における所要経費の範囲内で防衛予算を決めていくという方針に変更する閣議決定が行われた。しかし、中曽根内閣以来今日に至るまでの約16年間1度も1%を超えることはなかったのであり、現実の問題として政府、関係機関及びマスコミ等の間に防衛予算のGNP/GDP1%枠は厳然として存在していると言わざるを得ないのである。それは、政治家における防衛問題意識の希薄さ、財務省(大蔵省)による国家予算の平均配分という基準の固執、そして防衛庁自身の予算要求姿勢の萎縮に起因する結果であろう。

さらに財務省(大蔵省)は、予算単年度制を理由に中期防計画自体を承認していないのであって、5年を限度とする継続費や国庫債務負担行為以外の一般経費全体に係る予算制度自体を事業ベースの複数年度制に転換する以外に明確な解決方法はないのではないか。

大規模な防衛装備品の場合は、開発装備化に長期間を要し、高額の装備経費を平準化するために逐年で整備を進めることが多いが、全体の所要数量を算定していたとしても後年度装備あるいは将来装備を含む長期装備計画を実行しようとする場合、事業計画として全体が確定し後年度執行分を含んで長期予算が確定していれば、単年度ごとに小刻みに予算要求して取得・調達するよりも、長期一括契約として取得・調達することが可能となることによって、全体計画が安定すると共に全体経費も安価になることは自明であろう。現在の予算制度・会計法ではこれができないのである。

国家安全保障体制確立のために必要な防衛予算を確保するには、国家基本政策としての安全保障政策の優先度が政治レベルで高められ、政治主導での防衛費優先が諸外国並みに考慮されることが不可欠である。

 

3.武器輸出3原則を見直す

武器輸出3原則は、1967年4月佐藤内閣が、@共産国、A国連決議で禁止されている国、及びB国際紛争の当事国やその恐れのある国に対しては武器の輸出を認めないと表明し、次いで1976月三木内閣がさらに枠を拡大し、C3原則対象地域以外の地域に対しても武器輸出を慎むこととし、D武器製造関連施設も武器に準じて輸出しないという方針を表明した政府統一見解による。

ここにいう武器は、「軍隊が使用するものであって直接戦闘の用に供されるもの」とされており、自衛隊法上の「火器、火薬類、刀剣類その他直接人を殺傷し、又は、武力闘争の手段として物を破壊するもの及びそれらを運搬するもの(ビークル)」という武器の範囲を超えたいわゆる兵器全般を示しており、輸出貿易管理令の別表に細部にわたって示されている。

これらの政府統一方針は以後歴代の政府によって継承され、世界のあらゆる国々に対して武器・弾薬・車両・艦艇・航空機などの装備品及びこれらの製造設備など一切を輸出しないこととしてきた。(ただし、1983年1月から米国にだけはこの武器輸出3原則によらず武器技術を供与することとされ日米共同技術研究が行われてきている)

 武器輸出3原則は、世界平和を維持し国際紛争を助長しないという世界に例のないわが国独自の平和主義に徹した政策のひとつであるが、諸外国の考え方は次のとおりまったく異なっている。すなわち、優れた兵器を持っている国が同盟国や友好国からの要請に応じて兵器を輸出してその国を軍事的に支援したり、防衛装備品の共同研究・共同開発・共同生産を行ったりすることは、良好な国際関係を保つために必要な援助であり、同盟国や友好国としての義務であり、対象国だけではなく周辺諸国に対しても軍事的・外交的に自国の影響力を維持拡大する手段であると共に、周辺領域の安全保障環境の意図的な維持あるいは変更を行うことであり、さらに重要な貿易手段として国家経済に寄与するものと考えられ戦略的に実行されているのである。

武器輸出国4)は、2国を合わせれば世界の全武器輸出額の約59%を占めるロシアとアメリカ、更にフランス、イギリス、ドイツ以下35カ国以上にのぼっているが、その輸出総額162億3,100万ドル(1兆9,480億円)(2001年データ)の武器がわが国を含む85カ国に輸出されているのである。このように、世界の多くの国家が国家安全保障の手段として武器輸出を政策として実施すると共に、防衛産業維持育成政策の一方の柱としているのは極めて重要なことである。

武器輸出3原則は、防衛装備品の研究開発R&TR&Dをアメリカを除く諸外国と共同実施する道も閉ざしている。これまでも、欧米諸国や東南アジア諸国などから、防衛装備品の輸出や共同研究・共同開発の要請が何度もあったが、わが国はこれらに一切応えてきていない。

一方欧米においては、装備品のR&TR&Dの多くが数カ国の共同研究・共同開発によって行われている。これは各国とも国防予算の縮減に対応して、装備品研究開発等における重複投資を避け、技術の共有化と兵器生産のスケールメリットによる予算の効率化を図るとともに、インターオペラビリティの確保等安全保障上の関係強化にも貢献するためであり、欧米各国が国家安全保障確保の手段として推進しているのである。

わが国においても武器輸出禁止政策を見直し、同盟国アメリカだけでなく先ずは欧州先進諸国など友好国相互間の共同研究開発に参画することによって、装備品研究開発期間を短縮すると共に取得・調達コストを低減し、性能機能の向上と与国とのインターオペラビィティを確保することが必要である。

研究開発に続く共同生産については、優秀な製造技術を有するわが国防衛産業の特質を十分に生かすことが可能ではないかと考えられるが、生産規模が拡大してゆけば第3国への輸出すなわちオフセット制度を設定することが重要になってくるであろう。わが国は、長い間アメリカなどからの武器輸入としてのライセンス生産において、諸外国が行ってきたようなオフセット制度を一度も契約権限として設定したことがなかった。武器輸出3原則の見直しによって、相互主義の原則が実現され、少なくとも輸入に見あう輸出が可能になれば防衛産業の経営内容の改善に寄与することになろう。

輸出される武器については、当然のこととして必要なセキュリティの措置がとられなければならないことから、諸外国並みの秘密保護法など必要な諸法令の整備が必要となろう。また輸出される防衛技術や武器の性能は、安全保障上の配慮によってしかるべきレベルに設定される必要があることも当然である。

また、武器輸出については、国家としての承認と同時に考慮されるべき保証あるいは事業の推進施策として、諸外国が行っているような官側の支援が必要となる。すなわち国策としての武器輸出においては、企業だけではなく官民の共同推進態勢が求められることとなり、在外公館の支援など国家事業として関係省庁全体の活動が必要になってくるであろう。

輸出先における当該武器の運用支援・教育・整備・修理・改善などの後方支援は、輸出企業だけでなくわが国内の部隊・機関による支援も求められることになろう。

以上を要するに、現在武器輸出を行っている諸外国が普通に実施していることと同様なことを普通に行うことである。それがわが国防衛産業を強化するだけでなく、国家安全保障態勢を強化し、輸出先諸国の信頼感を増大し、防衛力・外交力・経済力を増進することにつながることとなる。

わが国も国力の充実拡大と共に国際的な相互依存関係がますます深まっており、安全保障環境も大きな変化を続けている。激動する国際社会の中で生存発展し、普通の国として世界の国々に取り残されないためにも、武器輸出3原則を見直すことが必要である。

 

4.防衛産業維持育成政策を策定し実行する

国家安全保障を支える防衛装備品を開発生産する防衛産業の発展あるいは衰退は、そのまま国力の盛衰に反映されることともなるため、防衛産業は国家発展の基本的要素の一つと位置付けられるものである。

EUにおいては「防衛産業は戦略的産業であり、その製品は国防に直結する極めて重要な位置を占めるものであり、政治的あるいは安全保障の観点からその活動を統制し、産業基盤・技術基盤の維持・育成に努めることが重要である。そして、その役割は各国の政府にある。」と認識されている。

わが国においてもこのような認識を官民すべての関係者が確信し、具体的な政策の下で実現していくことが必要である。

公共資源は「より早く、より安く、より良く」取得・調達することを第一とし、防衛装備品の取得・調達においては、納税者のための「金額に見合う最高の価値(best value for money)」を増加させるよう導くことが基本的な防衛産業維持育成政策である。

また、防衛産業政策の検討にあたっては、軍事的側面のみで検討するのではなく広く国家安全保障の視点から検討することが重要である。軍事的脅威のみならず非対称脅威があらゆる国にとって大きな問題となっている現状では、防衛産業以外の企業の持つ関連技術についてもこれを明らかにし、将来にわたってこれらを維持・発展させるための諸施策も必要である。このため内閣府を中心に文部科学省、経済産業省、防衛庁等の関係省庁が一体となる体制を確立し、一元的な検討を推進しなければならない。

わが国では、今や企業防衛部門の採算性の低迷に伴って合理化・リストラ・民生部門への人員配置転換などによって、専門技術者の離散を招き将来装備品の性能低下に跳ね返ってくるおそれが生じている。企業経営者の世代交代が進み、利益追求の経営原理が優先されてくれば、防衛産業から撤退する企業が増加する可能性が増えると考えられるのである。したがってまず実施すべきことは、有事における増産・急速調達・緊急整備等の対応を含め、部隊・運用者の立場に立って防衛装備品の国産/輸入を区分する原則を確立明示し、維持育成しなければならない国内産業基盤・技術基盤の対象となる装備品あるいは特定技術と、その範囲、規模を具体的に確定した上で、これに対する重点的投資と継続的研究開発を政策的に推進することが必要である。

また、円滑で確実な装備品取得・調達の実施にとって最も大切なことは、関係者間の良好な信頼関係の構築である。業務としての取得・調達は甲乙間の契約によって規制されるが、その実行においては両者の間に誠実で相互の信頼がなければ良い成果を得ることは難しい。そのうえで契約行為における疑義のない透明性と公開性を求めることができるのである。

更に官民の意識の改善も求められる。即ち、取得・調達の最終カスタマーは国民であること、健全な防衛産業関係企業の存在なしに装備品の取得・調達は不可能なこと、経済的・効率的な国家予算の執行は官における第1の任務であるが、民側には利益の追求という企業経営原則があることを認めなければならないことである。防衛力整備のためには企業の生産・技術基盤の維持向上が不可欠であることなどの自覚が官民の上下意識の解消につながるであろう。

このことが取得・調達制度及び契約方式における官民の平等・公平化を導くのであって、現在の官における「民にはなるべく利益を与えない、官はリスクをとらない」という姿勢が解消されて初めて真の官民協調が成立するのである。

契約方式については、欧米諸国にみられるような多種類のリスク・インセンティブ契約方式やコスト補償契約方式などの多様で柔軟な契約方式を設定する必要がある。

これらの態勢改善には、まず官民が互いの立場を理解してこれを認め、互いが国家安全保障達成のための良い「イコールパートナー」であることを自覚して対話と協調を進めることが必要であろう。

このような良好な相互関係があって初めて、企業或いは企業団体が政府の防衛産業政策について積極的に意見を述べ、政府側にあってもこれらを他意なく受け止め、具体的で有効な政策を策定実行できるのである。

 

おわりに

わが国周辺諸国の軍事力強化や大量破壊兵器の拡散、非対称脅威の増大など最近のわが国を取り巻く安全保障環境の変化には著しいものがあるが、防衛装備品の取得・調達改革にともなう競争原理の推進によって、業種によっては企業の体力が衰退しつつある。

国家安全保障体制を強化するには、陸海空3自衛隊の統合防衛構想を策定して総合的な装備構想を確立すること、残像として現存するGNP/GDP1%枠を解消し予算制度を改革して必要な防衛予算を確保すること、武器輸出3原則を見直すことによって国際関係の安定化と防衛力・外交力・経済力の強化を図ることなどの施策によって、適切な防衛産業政策を進める必要があることを示した。これらの施策が官民の協力によって早い時期に実現することがわが国の真の国際化と発展に不可欠であると考えられる。

 

参考文献

(1)サミュエル・ハンチントン、鈴木主税訳、文明の衝突と21世紀の日本、集英社、2001.10.24p157158

(2)庄野凱夫、「防衛装備品整備の基本問題」、DRC年報()ディフェンス リサーチ センター、20029月、P133

(3)防衛庁、『平成15年版防衛白書』

(4)()ディフェンス リサーチ センター、『安全保障に関する国際比較、2003年版』、20036

(5) ()ディフェンス リサーチ センター、軍事データで読む日本と世界の安全保障』、草思社、2002.8.6

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