直面する脅威への対応に関する一考察
(財)DRC研究専門委員
はじめに
1. 新しい脅威
(1)跋扈する自殺テロの恐怖
9・11同時多発テロは、確信的かつ計画的な自殺テロである。自殺テロは、1994年頃から目立ち始めパレスチナのイスラエルに対する自殺テロは現在も続いており2002年だけで33件を数える。自殺テロは世界中に広がり海上の船舶も対象となり、インドネシア、イラクでも件数は増え続けている。テロ組織の中でイスラム過激派グループは、ジハードと称して自殺テロリストは死後神に近い聖者となると教え、子供、女性までもテロリストに仕立て上げる。テロ組織は弱い国に入りこむか、十数カ国あるテロ支援国家の支援を得て拠点を確保し国際的なネットワークを形成している。テロリズム、ゲリラ戦争は古くから存在するが、国際テロ集団のネットワーク化に加えて中世から生き残った狂信的な原理主義は無差別殺人及び自殺テロを日常化した。そこには話し合い、説得など妥協の余地のない厳しい環境が生まれ、この暴力を制するには治安を維持し脅威を除去する軍事力以外に有効な手段がまだ見つからない。
米国国務省は、2002年10月現在で海外36団体をテロ集団と指定している。主要なテロ組織はアルカイーダ、ハマス、ヒズボラ、イスラミック・ジハード、アンサーム・イスラム、アブサヤフ、ジェマ・イスラミア(JI)等である。
テロ事件は、2000年には426件、2001年には346件発生している。テロの目標として従来は軍事施設・大使館等を狙っていたが警備が厳しくなりホテル、レストランなどもターゲットにする無差別になりつつある。
防御手段がほとんどない弾道ミサイルが拡散し無差別大量殺人を企図し実行するテロリストグループに大量破壊兵器を運搬する手段として渡れば、国際社会への最大の脅威となる。自殺テロリズムに大量破壊兵器が結びつけば世界を破滅させかねない恐るべき脅威に変身する。
米国は2001年イラク、北朝鮮、イランを悪漢国家と呼びその大量破壊兵器及び弾道ミサイルの取得拡散及びテロリスト支援を懸念している。イラク戦争によりイラクからその懸念は去ったが、北朝鮮とイランには依然としてその疑惑は残っている。
2.国際社会の対応
同時多発テロ以降、米国主導のテロリズム対抗策には中露までが加わり、先進国首脳会議、国連安全保障理事会等で声明や宣言が行われ、テロ対策国際条約制定に拍車がかかるとともに対テロ作戦が行われている。大量破壊兵器及び弾道ミサイルの拡散防止にも努力が継続されている。イスラエルとパレスチナ暫定政権との間に和平交渉が継続されているが自殺テロは後を絶たない。
2003年8月現在、国連決議に基づき米国主導の対テロ作戦Enduring Freedom等が遂行中であり、米国以外21カ国が陸上部隊(特殊部隊等を含む)を派遣中である。米、英、仏、独、伊、カナダ、ギリシャ、スペイン及び日本は艦艇を派遣している。国際社会はアフガニスタンの再建に協力して欧州諸国が中心となった32ヶ国約5千5百人の国際治安支援部隊(ISAF)がNATO指揮下で治安維持に当たっている。イラク戦争は、国連安保決議及び査察の継続、戦争の開始等を巡り米英と仏独の意見が対立し、主として英米の多国籍軍によるイラク攻撃が行われ、主要な戦闘は4週間で終わりフセイン政権は崩壊しイラクは多国籍軍により占領されたが、フセイン大統領の逮捕及び大量破壊兵器の発見ができず、治安の回復も遅れ国連によるイラク社会のインフラ機能回復も足踏み状態である。
1970年10月の国連総会宣言で、いかなる国も他国においてテロリストを組織し、扇動し、支援し、参加すること、また自国においてテロ行為に直結するような行動を黙認することがあってはならないとの原則を決め、以後、これを再確認や補完する国連安保理決議が数多く出されている。テロ行為を国際的な犯罪として認定し、テロリストが世界中何処にいても逮捕され、引き渡され、あるいは訴追されるような法制度が構築されている。
国際刑事警察機構は、テロ対策班を設け手配テロリスト等の記録、写真、諮問、犯行手口などを世界中に配布するなどして各国のテロ対策に協力している。
1970年以降ハイジャック防止、爆弾テロ防止、核物質防護、航空機を危険に陥らせる行為、人質防止、テロ資金供与防止に対処等のテロ関連の国際条約が制定されている。
先進国首脳会議におけるテロ関連の宣言は、1978年のボン・サミット(第4回先進国首脳会議)宣言で航空機のハイジャックに関する共同声明、1980年ベネチア・サミット(第6回先進国首脳会議)でテロリズムに関する声明が出され以降毎回のサミットでテロリズムに関する宣言が実施されている。
3.米国等の対応
米国は、2002年6月「国土安全保障に関する国家戦略(National Strategy for Homeland Security)」を発表した。この中にはテロ等に対し先制攻撃の可能性も述べている。ブッシュ大統領は、多様な脅威に対応するため本土防衛を重視し国内関係機関を統括する国土安全保障省(Department of Homeland Security) の創設を発表し、初代の長官は元ペンシルバニア州知事のトム・リッジ氏が2003年1月24日に就任した。国土安全保障省は、これまで20以上の連邦政府機関に分散している国土安全保障に係わる機能を一つの省に統合し、人員は約16万9千人である。同省の主要な任務は、@国境及び輸送の安全、Aテロ攻撃を受けた場合の対処、B大量破壊兵器を検知し国民の安全を確保する技術の開発、C国土に迫る脅威に関する情報の一元的な処理などである。
米国は、軍の近代化を推進し中でもミサイル防衛の実現に努力を傾注している。米軍は再編成され国土防衛を担当する北方軍(North Command :NORTHCOM)を設け、北米地域の防衛、国土安全保障省の関係機関や、州・地方自治政府に対する支援、CBRNE兵器使用事態対処をその任務としている。
欧州各国は、情報収集能力の強化、テロ作戦部隊の強化整備、テロ対応法令の制定整備等国内のテロ対策を実行している。軍と警察との連携は、日本よりも緊密である。
4.日本への脅威
アジアでは、経済大国である日本がテロ等の恰好の標的になり易い。日本は、四面海に囲まれかつては世界一といわれた警察の存在の故か危機や安全に関する観念が希薄である。最近は外国人犯罪や凶悪犯罪の急増、検挙率の大幅な低下、拉致問題などにより安全に関する日本の態勢が予想以上に脆弱であることがわかってきた。非対称脅威には平時も有事もなく、前線と後方の別なく、誰もが被害を受ける立場にあるといえる。
北朝鮮は、1993年に初めてノドン・弾道ミサイル(射程1,300km、現在、配備数約200基と推定される)を発射し、日本に届く弾道ミサイルを保有していることを示した。また1998年8月に日本列島を越えて飛ばしたテポドン・弾道ミサイル(1型:射程2,500km、2型:射程6,700km)は、米国にも達するといわれる。
特に北朝鮮は、昨年10月ウラン濃縮による核兵器開発中を認め、今年は核拡散防止条約から脱退し、非公式ながら核兵器保有をほのめかした。北朝鮮は、1970年よど号ハイジャック犯人である日本赤軍の保護、1987年大韓航空機の空中爆破事件、1983年ラングーンでの韓国閣僚18人爆死事件、日本人等の拉致誘拐など過去に多くのテロを行っている。弾道ミサイルをイラン、パキスタンを始め中東諸国に輸出していることは2002年12月スペインの軍艦の北朝鮮貨物船に対する臨検により隠されたイエーメン向けのスカッド15発が発見されたことで証明された。麻薬については、日本への工作船、豪州における北朝鮮貨物船からの多量の押収が挙げられる。国交のない北朝鮮船舶の日本への入港数は毎年増加し、平成9年に782隻であったのが平成14年には1,344隻と倍増している。これらの船舶は、覚醒剤や偽札の日本への密輸、北朝鮮への不正送金、大量破壊兵器製造機器及び弾道ミサイルに使用される部品の密輸に関わっている疑いがある。1994年のKEDO協定に違反した核兵器開発を継続している。1972年南北非核宣言等の国際条約や国際的な約束は守らない。国家ぐるみで偽ドルを印刷して海外で北朝鮮外交官が所持使用するケースも発覚している。
(2)自殺テロ攻撃等
アルカイーダをはじめ国際テロ集団は、世界中にネットワークを張り巡らしている。自殺テロ攻撃の可能性は世界中に拡大している。アジアでもジェマイヤ・イスラミアやアブサヤフ等アルカイーダ関連テロ集団が存在し、インドネシアでは重大な自殺テロ爆破事件2件を起こし、フィリッピンでは激しいテロ攻撃活動が見られ、タイ、シンガポール、マレーシアでの関連テロリストの逮捕が報じられている。日本も予想外の手段による自殺テロ攻撃を受ける可能性はある。
中国の核弾頭付き弾道ミサイル(CSS-2,CSS-5)は、日本を射程内に入れており攻撃能力は十分あるが、現状では脅威に発展する可能性は低い。
5.日本の対応
今後、日本は自殺テロ及び弾道ミサイル等の非対称脅威に対応する態勢を作り上げなければならない。グローバルなテロリズムに対しては、自らの努力も必要であると同時に海外在留邦人や財産保護のためにも国際協力への参加は必至である。
日本の対応で重要なのは、北朝鮮の武力を背景にした恫喝やテロリストの恐怖に屈しない体制を作り上げることである。そのためには、安全保障に関する国内の改革が必要になろう。国際社会共通の敵であるテロや国際犯罪への対応、そして悪漢国家の手にある大量破壊兵器の除去は、国際社会の共同作業である。国対国ではなく、今や国際社会対テロリズム等の図式であり、時代は変わったとの認識が必要である。
筆者は2001年
ミサイル防衛は、多層システムで弾道ミサイルの飛翔の段階を上昇、中間、終末の3段階に分け地上、海上、航空機、宇宙から迎撃するプラットフォームを開発中で、一部は既に実用の段階に達している。終末段階では地上配備型のペトリオットPAC−3が実用の段階にあり、中間段階では地上配備中間段階防衛システム(従来のGBI)、海上配備中間段階防衛システム(従来のNTWD)は2004年に、上昇段階では航空機搭載レーザーが(ABL)が2009年に配備予定となっている。2003年9月、在日米海軍司令官はミサイル防衛能力を持つ最初のイージス艦が日本に配備されるであろうと述べている。日本は、これらのミサイル防衛システムを当面は北朝鮮のノドン・ミサイルへの対処として、長い眼では中国の弾道ミサイルに対抗できる能力を目指し、速やかに導入するべきである。当然、衛星・航空機によるミサイル発射探知システムは、米軍が地球規模で展開するので米軍との共同なしには運用できない。弾道ミサイルを無能化するミサイル防衛は、核弾頭付き弾道ミサイルの持つ圧倒的な政治的軍事的な価値を下げ、弾道ミサイル及び大量破壊兵器保有を望む国の意欲を殺ぎ、結果として軍備拡張を抑制することが期待できる。
自衛隊にも平時任務を与える領域警備法、海上からのテロを阻止も含むテロ組織を壊滅させる反テロ法、対サイバーテロ法、国際テロ条約に応じる法等を整備する。
国際協力がなければミサイル防衛もテロ対策も極めて限定されたものになる。テロ等非対称脅威に対しては、国際協力が国家の務めである。テロ等排除のための国際協同作戦に積極的に参加協力する。
イージス艦が持つ広域をカバーできるミサイル防衛能力を利用したミサイル防衛の傘(網)の形成を2001年
テロリズムは、国際社会共通の敵である。国際社会共通の目的のためには、ボーダーレスの共同対処が必要である。韓国は、イージス艦を取得しブルーウオーター海軍を編成する計画であり、金大中前大統領は2001年の韓国海軍兵学校での訓示で将来、シーレーン防衛の国際艦隊への参加構想を述べたと報道された。海上テロ・海賊等の国際社会への敵に対して世界一の米海軍を核として日韓のみならず、中国・ロシア・台湾も加わった合同任務部隊による対応が将来可能になるかもしれない。防衛研究所が提案しているオーシャンPKOとも共通するものである。日本のみならず国際社会が直面するテロ等の共通の脅威に対する共同対処は今後、当たり前とする仕組みや規則が打ち立てられるべきである。
日本はその特徴を生かしていわゆる「文明の衝突」を避ける役割の一翼を期待されるかもしれない。その理由として日本は国内に民族問題を抱えていないこと、アラブとイスラエルの対立ではどちらにも加担しない政治的中立を保っていること、宗教的にも1神教との対立はないこと等から宗教、民族問題に関連した対立の緩和・除去に動きやすく世界における非対称脅威低減に影響を与え同盟国米国及び国際社会に貢献できる可能性はある。
(4)日米安保はやはり一番大事
今までの検討を通じて新しい脅威に対応する場合、同盟国である米国との関係は常にでてくる。それほど日米安保が重要な役割を果たしていることを意味する。日本自身が先制攻撃能力を持つべきかどうかは論議されるところである。能力を持つことと行使することは別問題であるのでトマホーク等ACM(Advanced Conventional Munitions)の保有計画も検討する必要はある。これらの兵器は持つにしても米軍からの提供になるので、先制攻撃が必要な時は日米同盟に基づく槍の立場である米軍に依頼するのが無理なく合理的であると考えられえる。
論議のある日本の核武装についても現状では賢い選択とはいえない。できるならば、しない方が良い。戦略環境が悪化し日本が核攻撃をされる最悪の事態になれば、やむを得ない選択もあるかもしれないが、米軍の核の傘に期待しその信頼を増す努力の方が先である。米軍も平時から同盟国友好国との連合訓練の必要性を述べている。特に大量破壊兵器及び弾道ミサイル対処には米軍の協力は必要不可欠である。