有事法制の有効性を問う

― 軍事的即応性から見たいくつかの懸念 ―

 

(財)DRC研究専門委員

吉 田  曉 路

 

はじめに

2003.6に成立した有事法制は、武力攻撃事態等への対処について理念等の基本となる事項を定め、我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に資することを目的(第一条)としている。すなわち、本法は、政府が強調しているように理念を定めたいわば準備促進法といえるものであり、具体的なことはこれから2年以内に整備される。しかし、全文を通読してもその「理念」なるものが残念ながら見え難く、どちらかといえば、第3条4に記述されているように国民の自由と権利の制限は「必要最小限」とし、かつ「適正な手続き」を求めているように、その理念(国家として達成すべき目的)は「国民の自由と権利の尊重」にあるかのようである。

将来想定される我が国への武力攻撃事態は、「先制奇襲」的に行われる軍事力による侵略行為であり、防衛力による迅速な対応 ―以下小稿では、一般的用語として「軍事的即応性」を用いる― が当然優先されるべきであり、我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全は、その結果として確保されるものと認識することが必要であろう。

 

1.軍事的即応性とは何か

 

(1)軍事的即応性の意義

武力攻撃事態は、相当以前に相手国の意図や若干の兆候が見られる場合もあるが、多くは突発的に生起し、対応を遅疑逡巡している間に事態は瞬く間に拡大していく。その様相をイメージしたのが図1であるが、軍事的即応性とは「緊急展開」、「抑止または拡大阻止」及び「事態の完全な排除」の3段階を全うできる態勢を造成、維持継続できる軍事能力をいう。即ち、広義には@戦力構造(編成、規模など)、A近代化努力(装備等の技術的洗練化)、B即応性(任務を直ちに遂行できる能力)及びC持続性(継続して効果的に任務を遂行できる能力)であり、狭義では@部隊、装備システムを迅速に展開し、運用する能力、A計画に従い任務を確実に達成する能力、であるといわれる。

図1 即応性と事態推移

意図の判明や兆候段階において抑止できれば最善だが、多くの場合事態は奇襲的に生起する。武力攻撃事態法(第3条2)において、「武力攻撃の発生が回避されるようにしなければならない」とあるが、このような消極受動の対応では効果を望めず、軍事的抑止という能動的対応こそが世界共通の理念であることを強調したい。

   緊急展開段階で必要な要件は、人員の確保と教育訓練、装備品と当面必要な弾薬、燃料の確保、また陸、海、空による輸送力の整備などである。

抑止または拡大阻止の段階では、指揮統制の一元化、国際的に適法な武力行使、統合及び米軍との相互運用性など効率的な戦力発揮を可能にすることである。事態の完全な排除のためには、軍事行動を妨害する係累の除去、兵站補給、衛生など持続的に戦力発揮を維持できる体制が必要となる。

(2)米軍等における即応性への努力

  米軍の即応性

   米陸軍は、統合ヴィジョン2020を目標に、即応展開機敏、多用途、殺傷性、生き残り、持続性を強化するために改革中である。陸軍は重装備部隊と軽装備部隊に区分されるが、軽装備化の狙いは迅速な緊急展開を企図したもので、これにより陸軍の即応性は、20102020頃を目標に96時間以内に1コ旅団(B)、120時間以内に1コ師団(D)30日以内に5コ師団を世界の何れの地域にも派遣できる能力となる。

陸軍は、部隊としての任務遂行期間は連続120日を最大とし、個人は最大30日事後在宅30日を経てその後再訓練を行う。海軍には3つの基準があり、@最大展開月数6ケ月(port to port)、A展開日数と母港(home port)滞在日数との比は最小限1:2とする、B母港滞在基準は5年間で最小限50%、と定めている。空軍は、個人の基準として家庭から離れている日数を最大120/年としている(以上、米国国防報告2000から)。なお、兵站、補給、輸送能力の状況として、装備の老朽化と部品及び弾薬不足に懸念を抱き、事前集積(POMCUSと海上備蓄)と緊急輸送能力の整備に今後一層の注力を行うとしている。

 米軍の7つのアラート・コンディション  

  米国政府は、一般的な軍事危機事態に即応できるように軍隊に対し次の5つの即応体制を指令する。

  DEFCON5:平時体制

DEFCON4:情報と安全保障手段の強化 

DEFCON3:強化体制

DEFCON2:更なる強化体制

DEFCON1:最高の部隊即応性

   更に、ICBM攻撃への対応として次の2つの体制があり、一般部隊は自動的にDEFCON1の体制となる。

  EMERGCON1:海外に所在する米軍または同盟軍に対する攻撃への対応

  EMERGCON2:米本土及びカナダでの防空緊急体制

 要するに、危機事態のレベルに応じて軍隊の即応体制を明確にすることが定められている。一方、軍隊は常に即応レベルを報告する義務を負っており、陸軍の場合その内容は次の5つのレベルである。

C-1:全ての戦時任務を遂行できる「完全即応」の状態

C-2:大部分の戦時任務に対し「十分即応」出来る状態

C-3:戦時任務のある主要な部分を遂行できる「部分即応」の状態

C-4:戦時任務を遂行するには、装備の補充、人員の教育訓練を必要とするが、現有装備によりある程度の部分的対応が可能な「非即応」の状態

C-5:部隊が、たとえば多くの主要装備が非稼働の状態にあり、戦時任務を遂行する準備が出来ていない「完全非即応」の状態   

 欧州における緊急展開部隊の創設

  NATOでは、2004.10を目標に5日以内に事態に対応し、1〜2ヶ月間自力で作戦可能な21,000名規模の緊急展開部隊NRFを創設する。

また、NRFとは別にEU15ヵ国はPKOやその他の非常事態に対応するため60,000人規模の緊急展開部隊の創設を計画している。この部隊は、現在の能力のうち次の分野の強化を目指している。それらは、ヘリコプター、NBC防護、敵防空網の制圧、空中給油、捜索救難、精密誘導兵器、無人機(UAV)、そして戦略空輸能力などである。

 

2.即応性から見た有事法制の3つの疑念

 

(1)基本方針と指揮統制

  対処の基本方針として即応レベルの速やかな指定

 法制は、武力攻撃事態等に至ったときは、武力攻撃事態等への「対処基本方針」を定める(第9条)ものとし、@武力攻撃事態等の認定と当該認定の前提となった事実、A武力攻撃事態等への対処に関する全般的な方針、及びB対処措置に関する重要事項をその内容としている。具体的内容はこれから検討されるのであろうが、自衛隊にとって最も重要なことは、いかなる「即応体制」を整えるのか(前章参照)、ということである。現在の法制では、概ねの順序として予備自衛官に対する防衛招集命令、防衛出動待機命令、防衛施設の構築措置に関する命令そして防衛出動命令が下令されることになるが、国家特に自衛隊が採るべき態勢はいつ、どのように下令されるのであろうか。

   前章で述べたように、軍隊は常に即応体制にはなく、平時においては機能的にまた量的に多くの不足を抱えている。したがって、政府(防衛庁)が陸、海、空各自衛隊の即応レベルを常時把握すること、予め緊急展開できる部隊を指定しておくこと、更に事態の切迫あるいは発生に伴い直ちに一般部隊に対していかなる任務に対応できる体制を何時までに整えるのかを指令し、その体制整備に国家として万全を期すことが基本方針のポイントでなければならない。

 何をどこで決定するのか―指揮統制の一元化を―

   民主党は、法案審議の際「有事に対処するための権限継承順位についての規定がなく、また対策本部、安全保障会議、専門委員会の権限行使のあり方、各省庁、地方公共機関等の関係が曖昧である」と、指揮統制の仕組みが現実に機能するのかと疑問を呈した。また、ある有力な防衛専門家は、「国家緊急事態等への対応全般について、平常時〜危機時〜有事を通じて危機管理あるいは抑止の概念が欠如しており、情勢の推移に適時適切に対応する連続的かつ一貫した措置を講ずることが困難である」との懸念を表明している。

   武力攻撃事態における政府の基本方針等の意思決定は、法制の各条文から概ね図2のように行われると理解できる。


図2 武力攻撃事態等での指揮統制組織

この内閣を中心とした重大緊急事態における国家意思決定機構は、急展開する状況に即応できるのか(適時性)、そして妥当かつ実行可能な基本方針等が決定されるのか(適切性)という2点から見た場合において少なからず問題を含んでいる。

適時性については、@内閣に構成される3つの組織、すなわち何れも内閣総理大臣が長となる閣議、安全保障会議及び対策本部(臨時)がどのように役割を分担し、意思決定を行うのかが不透明である。首相が自ら諮問し、自ら作業、答申を行い、閣議決定を求め(以上、第9条)、対策本部を設置して対処措置を行う(第10条)といったいかにも屋上奥を重ねた組織ではないのか。また、A閣議決定した基本方針は、直ちに国会の承認を求めることになっているが、重大緊急事態への対応に時間的余裕が得られるとは考えられない。更に、B対策本部の総合調整には法的強制力がないので、関係機関が従わない場合は、首相が代執行権限をもって実施を指示できる(第14条)とあるが、いかにも煩瑣な業務処理が想像される。「省庁が権限と責任を分担するのは、平時はいいが有事の際は障害になる。有事の際は閣議を開いている時間はない。有事では首相が必要な指示を行える権限を認めなければならない」(石原前官房副長官、読売2003.6.7)のである。

適切性については、現時点で具体的に言及することは困難だが、図2の指揮統制組織を眺めて懸念されることは、@各組織は各種の情報をどこから収集し、どのように処理をするのか、が見えない。特に、内閣情報調査室や2003.4.16に運用開始された防災を主任務とした危機管理センターが埒外にあり、その高性能な情報システムが有効に活用されるのであろうか。また、A安全保障会議に官房長官を長とし外務、防衛、警察など関係省庁の局長級などをメンバーとする事態対処専門委員会が平時から設置(安保会議設置法第8条)されるが、少なくとも相当数の陸、海、空の制服自衛官が参画しなければタイムリーに中身のある内容を会議に進言できるとは思えない。

(2)予測事態での緊急通行(輸送)、陣地構築

  十分な時間的余裕を得られるのか

軍事行動は、攻防を問わず時期、場所、戦法などを秘匿し、奇襲的に行動できた場合に成功の公算は大きい。このため、攻者は防者の意表をつくようにその侵攻時期と地域を選定し、防者は攻者の侵攻場所を的確に判断して企図を秘匿しながら準備に万全を尽くすこと―軍事的即応性を確実にすること―が戦いの鉄則となる。今回改正された自衛隊法は、この鉄則から見て果たして妥当といえるだろうか。

自衛隊法は、防衛出動時の緊急通行は「通行に支障がある場所をう回するため必要があるときは、一般交通の用に供しない通路または公共の用に供しない空地もしくは水面を通行することができる」(92条2)と改正された。この表現は、素直に読めば「防衛出動時に緊急通行する自衛隊は、混雑した道路等は迂回して、状態が悪いため使用に耐えない通路、空地、水面を利用すること」となる。

ここに2つの問題が見え隠れしている。その1は、防衛出動が下令されるまで自衛隊員は駐屯地に所在する。したがって森林、道路法などの特例措置は、防衛出動時のみに適用されることである。作戦基本部隊である1コ師団は、平時には数コの駐屯地に所在し、多くの駐屯地は展開地域(通常、海岸または沿岸地域)まで数百km程度離隔している。したがって、特例措置が認められない予測段階では、各地から数百両の車両が混雑した道路を利用して日夜往復することになり、展開地域における作業が予定通りに進捗するなど到底見込めないことになる。少なくとも、時間帯を設けての道路優先使用の設定、上下線の規制措置、輸送・通信等各種公共手段あるいは輸送役務、指定した港湾・空港等の使用あるいは国民の避難・誘導に対する具体的措置が必要となる。その2は、その1の結果として構築した陣地には人員が不在であり、以下に述べるように「待ち受けの利」を活用できないことである。

「待ち受けの利」の最大追求

隊法77条2(改正)は、「事態が緊迫し、(中略)自衛隊の部隊を展開させることが見込まれ、かつ、防備をあらかじめ強化しておく必要があると認める地域(展開予定地域)があるときは、内閣総理大臣の承認を得た上、その範囲を定めて、自衛隊の部隊等に当該展開予定地域内において陣地その他の防御のための施設構築する措置を命ずることができる」とされた。但し、「こうした陣地は、弾道ミサイルなどに対処するための地対空ミサイル・パトリオットの設置などが目的(防衛庁幹部)とされるが、予測事態の段階ではパトリオットの配備はできず、自衛隊は陣地を構築した後、いったん駐屯地などに戻らなければならない(読売2003.6.7、東京朝刊)」という。

この条文の解釈が、上記の新聞報道の通りとすれば少なくとも3つの問題が浮かび上がってくる。

その1は、本来防御とは地形を利用し、予め堅固な防御施設を構築して、劣勢の戦力を補うことに勝ち目―即ち、「待ち受けの利」―を求めるものであり、条文にあるように「予め強化しておく必要があると認める地域」といった選択肢のない戦術行動である。ましてや、対空ミサイルのようにある特定の兵器のみを対象にした準備などはあり得ない。

その2は、条文には「陣地その他の防御施設」とあるが、どの程度のものを想定しているのか判然としていない。たとえば陸上自衛隊1コ師団の防御準備は、情報収集組織の確立、人員及び各種火器の築城施設の構築、各種の人工障害の設置、有線通信網の構成、予備陣地の構築、弾薬・燃料・糧食などの集積配置等極めて多岐であり、その地域は正面10km、縦深20kmと広範囲にわたる。

その3は、こうして準備した陣地に人員と火器の配置を防衛出動下令以降にしか認めていないことである。奇襲と情報戦が常態となる将来戦において、「空っぽの陣地」は抑止効果を望めないばかりか、かえって侵攻の動機付けになりかねない。また、国内に潜在する敵性分子あるいは不穏分子による陣地施設の破壊、配置等重要情報の流布など利敵行為を放任する危険もある。

(3)武力行使

  国際的基準ではない武力行使等の権限

隊法第88条2は、「防衛出動時の武力行使に際しては、国際の法規及び慣例によるべき場合にあつてはこれを遵守し、かつ、事態に応じ合理的に必要と判断される限度をこえてはならないものとする」とあるが、本法(第3条3)では「武力攻撃が発生した場合においてこれを排除するに当たっては、武力の行使は、事態に応じ合理的に必要と判断される限度においてなされなければならない」と、国際の法規及び慣例の遵守が削除されている。国家の安全保障にとって最も重要な武力行使の理念が、主要な2つの法律において整合されていないことに法的問題はないのだろうか。国際法と国際慣習による武力行使とは、戦時法規の基本理念である「交戦者平等の原則」などの諸権利の行使であり、認めないということは敵兵を殺害すれば殺人罪となり、施設等を破壊すれば器物損壊やその他法令に違反することになる。このことは、長年にわたって論争が繰り返され、未だ解決していない「国家としての交戦権」に対する政府内の認識の相違が奇しくも露呈したのかもしれないが、早急な解決を図るべきである。

図3は、自衛隊が各種の行動において認められている武器使用及び武力行使の権限内容であるが、上記の外に2つの基本的問題を含んでいる。

武器の使用は、若干の例外(治安出動時の警職法による武器の使用)はあるが、総じて自衛官個人の権限として認められているに過ぎない。各種の行動に出動を命じられるのは部隊であるが、行動間の権限行使は個人単位ということになる。「自衛隊法」という組織集団の行動を律する法律に、「警察官職務執行法」という警察官個人を対象とする法律を準用したことに基本的誤りがあるといわざるを得ない。武器使用の権限は、組織集団を指揮統率する各級指揮官に付与されるべきであり、直ちに関連法を含め一括して改正すべきである。

その2は、今回追加された「展開予定地域内における武器の使用」についての認識である。その権限内容は、治安出動下令前の情報収集、自衛隊施設の警護、武器等の防護と同一であり、当然刑法36,37条に該当する以外は人に危害を加えてはならない、とある。しかし、警察官職務執行法第7条 の規定は、「死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁固にあたる兇悪な罪を現に犯し、若しくは既に犯したと疑うに足りる充分な理由のある」という条件付でしか適用できない。未然防止あるいは抑止といった観点からの武器の使用は認められていない。しかし、予測される武力攻撃に対処するため予め陣地を構築しているという状況は、そのように悠長なものではなく、不測事態が数限りなく生起することが予想される。たとえば、陣地構築を妨害する事前砲爆撃、特殊部隊の潜入攻撃、敵性分子の非公然活動、などである。こうしたケースを考えた場合、自衛官個人のみに極めて限定された武器使用権限を認めても、効果は先ず期待できない。

図3 武器使用及び武力行使の権限内容

部隊行動基準の早期設定を

「予測事態」では防衛出動待機命令が下令され、予備自衛官が招集され、かつ基地外で防御施設の構築が可能となり、また「おそれの事態」、「発生した事態」では防衛出動が下令され、種々の特例措置や法律の適用除外が認められることになった。ただし、実際に武力行使ができるのは「武力攻撃の発生(武力攻撃の着手を含む)」ということであり、千変万化する状況に的確に行動できるとは思えない。このことは、国家の主権を守り、部隊等の安全を確保するため、事態及び情勢の推移に応じた部隊等の行動規準(防衛庁用語、一般的には交戦規定(Rules of Engagement: ROE)という)が必要といわれる所以である。部隊の行動を政府方針に合致させる一方で指揮官の負担を軽減し、部隊の暴走や紛争拡大を防ぎ、シビリアンコントロールを担保する意味合いもある。交戦規定が存在しない軍隊は世界には殆ど無く、国連にも交戦・武器使用規定があり、威嚇射撃はもとより相手の攻撃前でも先制使用を認めている。その基本は、「国際法規・慣例」に準拠することに尽きている。サッチャー元英国首相は、「交戦規定とは、その範囲でなら軍が自らの裁量で作戦上の決定を下してよいという枠組みを、政治家が承認する手段である。それは、特定の軍事作戦の遂行目的を達成させるものでなければならない」と解説している。

米国では、交戦規定は「国家指揮機構(National Command AuthoritiesNCA)や統合参謀本部が、統合軍や特定軍の指揮官に発する規則で部隊が遭遇した状況に応じて、交戦の限界を詳述するもの」としている。NATO諸国も、軍隊の活動を適切に律する基準として既に保有している。わが国でもこうした基準の必要性はかねてから指摘されてきたが、「ROEが一般に交戦規定と訳されるため、軍事色が強い分野だとして、政府や国会でもその必要性を認めながら策定に及び腰になっている」、というマスコミの指摘もあるようになかなか進捗しないのは残念である。

 

おわりに

四半世紀振りに日の目を見た「有事法制」、しかもこれから数年をかけて内容の充実を図る基本的法制であるということから「軍事的即応性」という実務的な観点からいくつかの懸念について述べた。

旧唐書・李靖伝に「兵は神速を貴ぶ、機を失すべからず」とあり、また孫子は「兵に常勢無し(兵を用いるには、敵情を察し、機に臨み変に応ずべきもので、予め一定の情勢を定めてかかるべきではない)」という。要するに、国家の危機事態においては「軍事的即応性」の確保が肝要であり、巧緻よりも拙速を重んじ、またある思惑に基づいて徒に制約を設けることを戒めている。

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