わが国の装備品取得に係る諸問題

 

()DRC研究専門委員

庄 野 凱 夫

 

はじめに

冷戦終結後の世界は、東西対立が解消されると共に主要国間における大規模戦争生起の可能性が無くなったことから、世界の軍事的環境に著しい変化がもたらされ、各国とも国防予算の縮減、国防軍の縮小、運用の合理化などの対応を進め、陸海空3軍種の個別運用から統合運用へ、更には統合軍の編成へと進みつつある。このような状況の変化から軍の装備体系には大きな変化が求められ、欧米諸国では国防予算の縮減に対応しつつも、研究開発の促進、装備品の取得・調達の効率化、新しい取得・調達手法の開発など総合的な取得改革が鋭意進められている。

一方これら装備品の開発生産を担当する防衛産業側では、マーケットの縮小や装備品の質・量の変化を余儀なくされることから、国内外での競争の激化に見舞われ、業種ごとの寡占化、利益追及の強化、経営の合理化とその方策としての国境を越えたM&Aの推進、DUT(両用技術)やCOTSの利用、新しい取得・調達手法への適応などが広範囲に進められている。また競合する企業に対しては技術力による差別化が必要となることから、技術開発力の強化が図られている。このような世界の軍事に係る情勢の激変に対して、わが国では国家防衛構想の徹底的な見直しや、3自衛隊の統合化、インターオペラビリティ強化のための装備品の共通化、統合プライオリティーによる取得・調達計画など新しい装備構想の策定は不十分であり、人・金・物・技術・時間の効率化・合理化のための欧米諸国との共同研究開発も行なわれていない。

近年の装備品取得改革に係る欧米諸国の真摯な努力を見聞するにつれ、わが国における防衛・取得・調達に係る官民関係者の不作為が彼我の間に取り返しのつかない大きな格差を生じつつあるのではないかとの危惧を抱かざるを得ない。

ここ数年にわたってこれらの問題点を研究(13)してきたが、ここでは諸外国の視点から見たわが国の取得改革に必要と考えられる現状の諸問題を整理しておきたい。

 

1.防衛装備構想が明示されていない

欧米諸国では、冷戦後の安全保障環境の変化に対応して国家安全保障の基本となる国防計画、防衛構想を見直し、軍の保有すべき機能としてのCapabilityが規定され、これに直結した効率的な装備構想の確立と総合的な国防産業政策を推進することによって取得・調達改革が進められている。

たとえば、イギリスにおいては、「国防という陸海空3軍共通の戦争目的を達成するためのニーズ」に応える抽象概念を保有すべき「Capability」として、国軍は3軍統合のプライオリティーの下で装備構想を策定し、装備品取得・調達段階においては陸海空3軍の壁を取り払い最も効率的な取得・調達を行うこととしている。

フランス及びドイツにおいても国軍が保有すべき統合機能である「Capability」を目標として装備品の研究開発が行なわれ、取得・調達が進められているのである。

一方わが国では、陸海空3幕僚監部が防衛力整備計画としてそれぞれ独自の防衛構想に基づいて、性能の近代化と老朽更新を中心とした年々の防衛予算を要求し、防衛庁内局によるほぼ固定的な陸海空予算枠の調整を受けて装備品整備を進める方式が続いてきており、統幕や内局防衛局が総合的な防衛構想によって各幕僚監部要求を統合してプライオリティーを決定し、陸海空3自衛隊一体としての装備構想に基づいて装備を推進するような体制にはなっていない。

即ち、これまで戦略環境の変化に対応しつつ一貫した思想の下で機能型の統合防衛構想が策定され、統合防衛力整備戦略・長期装備構想が策定されて広く国民に明示されることは無かったのである。これがあってはじめて将来に備えた原材料備蓄と装備品の生産基盤・技術基盤の維持育成、有事における急速調達態勢、3自衛隊統合運用体制構築のための合理的、効率的でコンパクトな防衛力の整備が可能となり、防衛産業側もそれに対応した研究開発・技術維持・生産の体制整備を進めることが可能になるのである。

 

2.防衛産業政策・防衛産業維持育成施策がない

国防を支える防衛装備の充実は政府の重要な任務であり、新装備品を研究開発し、防衛生産・装備・整備を担当する防衛産業を、将来にわたって健全で競争力のあるものに維持育成して国防の基盤を確立するための産業政策は、国家安全保障政策の中核として推進されなければならない。

例えば米英では、納税者のためにBest Value for MoneyVFM金額に見あう最高の価値)を追求することが、最終カスタマーである国民から最終サプライヤーである企業に至るすべての関係者の共通の目標でなければならないとし、防衛装備品を「より安く、より良く、より早く」(Cost, Performance, Time: CPT取得・調達することが必要であると考えられている。そして、カスタマーが経済原則を重視して競争原理を優先しようとする一方でサプライヤーは企業経営の利益追求原理を推進しようとすることに対し、両者の整合を図る具体的な規定が防衛産業政策であり、生産・技術基盤の維持・育成施策であるとしている。

このためイギリス国防省は2002年防衛産業政策要綱(4)として、VFMCPTの意義、世界的な競争力の必要性、取得施策の透明化、リスク回避のための官民協力、武器輸出の奨励、研究開発の重要性、官民対話の維持などを示している。また国防力の維持強化のためには防衛装備品の生産基盤・技術基盤の維持向上が不可欠であることから、特殊技術を有する中小企業対してはTaxの特典を与える維持育成施策がある。

またフランスにおいては、国鉄の民営化を進めたように国有企業を自由化する方向にあるが、装備庁DGAとしては国防固有の企業については自由化しないとしている。例えば衛星打ち上げシステムなどは国家として重要で有意義な企業なので国有のままとしており、これらの国有企業に対しては研究開発事業などで別扱いをして特定のインセンティブを与えている。欧州の軍事企業は一般に多国籍企業であって一カ国の国有企業とは異なるが、国防のためのactivityの機能を保護する必要から国際企業も保護している。また国家による企業への直接的関与というものはないが、特殊技術を有する小企業やハイテク企業の保護政策として2年前に特定企業へのFund付与を定めている。

近年の防衛装備品は極めて高度の先端技術によって高性能化されつつあるが、湾岸戦争から今次イラク戦争に至る実戦を通じてヨーロッパ諸国はこの分野でのアメリカの実力に対抗できないほどの格差を感じており、一カ国だけの対応では限界があることから国境を越えた共同研究開発を進め、資金・技術者・資器材・技術分野などの重複を避け、研究開発期間の短縮を図って効率的な装備品取得を進め、共同生産による量産効果とインターオペラビリティの確保を図ろうとする取得、産業政策が進められている。

一方わが国では、1996年以来の取得・調達改革が国家財政の逼迫と近代化装備品の調達価格の高騰及び調本不祥事をきっかけとして始められたことから、その目標も手段もなるべく効率的に安い買い物をするという「財政優先」と「企業の是正」に集中することとなり、競争原理を追求することが優先されて、防衛装備システムの性能を維持向上させつつこれらを安定的に確保していくための官民の態勢を構築するよう防衛産業を維持育成するという政策は策定されなかった。

以来今日まで防衛装備品の企業における研究開発や生産体制の近代化は企業努力のみに依存するものとなっており、国際的な共同研究開発への参加も対米武器技術供与にかかる部分を除いて一切行われていないのである。

1項に示したとおり国家安全保障の観点からの装備品取得・調達戦略が確立されていないため、政策としての平時における優秀な装備品の研究開発やそのための技術者の育成・確保、安定した調達・維持整備、消耗性装備品や重要素材・資材の備蓄などは十分でなく、まして有事における装備品の緊急調達機構や所要原材料の確保・配分制度、技術者を中心とした人員、生産資材・機材・施設の確保と防護などの政策・施策は見当たらないのである。

 

3.官民にイコールパートナーという基本的認識がない

軍の行動のすべてを支える装備品を開発生産し整備維持してゆくには官民の協力が不可欠であるという認識は欧米諸国に共通しているところである。そして両者の関係は基本的にイコールパートナーであり、互いに協力し合って優秀な防衛装備品を開発整備してゆくという基本的な認識が存在する。即ち、契約における甲乙両者がそれぞれの要求を平等に追及できるイコールパートナーであることで、甲が納税者の利益のために最良のCPTを要求するならば、乙は企業経営の原理である利益を追求する。そこには誠実な相互信頼感と協調性に支えられた平等な立場がなければならない。甲が一方的に仕事を与えるという権力を強調することも、乙が技術力生産力の独自性を梃子に競争を排除した有利な契約を押し付けることもあってはならないとされている。

例えば、イギリスにあっては、装備品取得・調達における要求性能の実現・充実及び確実な決心のためには官民の意思疎通を図る官民協議の実行が最も重要とされており、将来発展のために企業側による国防省・軍への接近が進む方向にあり、国防省側も官民対話を促進している。特に取得上流における官民協力のため、プロジェクトマネジメント制度におけるIPTを早期に発足させ、これに企業側技術者も参加することとなっている。また。取得・調達に当たって発生するリスクについては、当初契約の規定に従って官民がこれをシェアすることとなっており、企業がリスクを回避して予定された以上の利益を上げた場合はこれを官民で分配し、妥当な事由によって損失を生じた場合はこれを官民で分担することとなるのである。

一方わが国においては、政府における倫理規定の厳密な適用を受けて、官民協調は契約における不透明性と不正の温床になりかねないという解釈から厳しく制限されており、取得・調達計画内容の説明は勿論のこと仕様細部や適用技術に関する公式の協議はほとんど行なわれず、部分的に行なわれたとしても企業提案の作成は無償であり、企業側に多くの負担を強いる形になっている。

官側は国民の税金を使用して所要の装備品を取得・調達するのであるから、なるべく低価格で契約を行うことが至上の命題であり、規定された仕様書によって契約が成立したらその価格と納期は固定され変更は認められない。即ち企業に損失が生じてもそれを官側が負担することは無く、納期を遵守できなかった場合はペナルティが課されるのである。また超過利益返納の条件が付帯されている場合は、企業がリスクを回避して一定以上の利益を上げた場合は原則としてそのすべてを官側に納入することとなっている。(一部の契約において、企業のコスト低減へのインセンティブ向上施策として減価分の50%を提案技術料として支払う制度がある)

即ち、官民が平等な立場に立って装備品の開発生産装備化を進めるという認識はなく、上位にある官側は決してリスクを負担せず、民側はこれを常に受け入れるという上下関係が存在し一方的に官側が有利な制度となっている。これはわが国封建時代の士農工商制度が尾を引いた歴史的な階級社会感覚の残像というものかもしれないが現代の世界に通用するものとは言えないであろう。

 

4.取得・調達が国際的に開放されていず、制度も限定的である

欧米諸国においては政府調達への参入は原則自由であり、防衛装備品の取得・調達契約のサプライヤーは海外へも解放されている。フランスでは国防関係国有企業の存在からやや限定的であるが、米英独では全く自由である。いずれの国でも特定の装備品では自国企業優先とするが、一般に多国籍企業即ち外国資本であっても参入は自由とされている。

アメリカの契約方式は最も多様で柔軟性がある。国防省調達で用いられている各種の契約方式の基本的な特徴は、調達プロセスの公開性、公平性、合理性であって、手続き・根拠は規定されており、すべての作業は文書化され意思決定過程が記録されること、契約方式には固定価格契約、各種のインセンティブ契約、かかった経費を補償するコストリインバースメント契約、緊急調達のためのレター契約、納入時期・数量未定のIDIQ契約など多様な方式があり詳細な手続き規定があること、近年はSETALSIPFIなどの新しい方式や進化型取得方式(Evolutionary Acquisition /Development)やスパイラル開発方式(Spiral Development)などがあること、いずれも取得・調達における各種の条件や官民の都合を考慮して協議によって最も適切な方式を選定できること、経済性追求のために複数年度契約方式も採用されている。防衛調達は要求性能の達成が基本であり、正当な理由で経費の所要があれば契約履行中でも追加費用を認める契約方式や前項で述べたような官民のリスクシェア方式があること、調達決定基準は総合評価方式であり、応札価格だけではなくBest Value(技術提案要素、性能、管理体制、提案価格、過去の実績、納入までの期間など)によるとされている。

また、各国とも政府国防省においては固定資産を持つことによって生ずる取得・調達・維持運用・整備修理改善改修から廃棄に至るトータルライフサイクル経費を節約するため、施設、設備、器材のリース・レンタル、サービスやソフトウェアのアウトソーシングを積極的に実施している。

一方わが国では、資格審査に基づく登録業者を契約の相手とすることから海外に広く門戸を開く結果にはなっていない(国内法人資格を有する外国企業は契約対象者となりうるが指名対象となることは困難)。研究開発を伴わない装備品調達としては、FMS契約によりアメリカ政府経由で調達したり、海外企業が提案する装備品を登録商社を経由して調達するルートは存在する。またこれらの導入装備品の維持整備を容易にするため国内企業によるライセンス生産を認めているが、武器輸出3原則の制約から諸外国がおこなっているようなオフセット制度は存在しない。

更に、1996年以来の取得・調達改革の狙いとして調達の基本を経済性の追求としたことから、競争原理を高め、調達コストを低減し、公正性・透明性を確保することとしており、調達プロセスの公開性、公平性、合理性や官民の平等性については十分とはいえない現状にある。契約方式は、金額的に大半を占める随意契約、指名競争契約、一般競争契約の3種であり、競争入札による確定契約についても監査の対象とするなど合理的でない部分もある。またライフサイクルサポートシステムはなく、民間能力を活用するアウトソーシング契約も少ない。

 

5.総合安全保障政策としての武器輸出政策がない

諸外国では国家安全保障の重要な政策として武器輸出を実施し、防衛産業維持育成政策の一方の柱としているが、このことはわが国以外では至極当然のこととされている。

すなわち、同盟国や友好国からの要請に応じて兵器やその技術を輸出して当該国の国防力を支援強化することは、同盟友好関係を維持促進し良好な国際関係を確保するために必要な義務であり、対象国だけではなく周辺諸国に対しても軍事的・外交的に自国の影響力を維持拡大する手段であると共に、周辺領域の安全保障環境の意図的な維持あるいは変更を行うことであり、さらに重要な貿易手段として国家経済に寄与するものと考えられており、国家戦略として実行されている。

特に欧米においては、冷戦後の国防予算の縮減に対応する政策として装備品のR&TR&Dの多くが数カ国の共同実施となり共同生産に発展していることと、そのメリットは前2項に述べたとおりである。

一方わが国だけは、国際平和維持の名の下に1967(昭和42)年佐藤内閣の武器輸出3原則表明以来(76年三木内閣で強化、83年アメリカに対してのみ武器技術の輸出可)武器及び武器製造関連施設の輸出を禁止している。この間外国から多くの共同研究開発の提案や輸出の要請がおこなわれたが一切対応していない。現在弾道ミサイル防衛の対米共同研究の進展に伴って、技術だけでなくハードウェア自体の輸出の必要性が高まったことから3原則見直しが検討されているが、あくまでも国益追求に基づく国家戦略的見地からの発想ではなく、部分的例外規定とされる可能性が高い。

現在の武器システムには中核となる最先端技術を除けば、多くの部分にDUTが採用されており、民需品或はその部品・ユニットの輸出によって、武器に組み込まれる可能性の高い優れたDUTが安価であらゆる国へ自由に流出している現状からすれば、武器輸出3原則の堅持によってかえって重要技術輸出が管制不能となる問題を招いているのではないかと危惧される。

 

6.具体的で実効性のある総合的取得・調達改革が一向に進まない

欧米先進諸国を中心とする急速な科学技術の進歩発展に支えられたIT化を初めとするRMAが、軍事力の質の大転換をもたらしつつあり、軍の装備品に対する近代化・高度化の努力が従来以上に求められている。このため、いずれの先進諸国においてもこのような環境の変転とニーズの変化に対応して、国家経済の縮減に伴って限定された国防予算で最大の効果を実現するため、防衛装備品取得・調達の組織制度の改革と国防産業の維持育成が鋭意進められている。

即ち、アメリカにおける1990年代の各種の取得改革とその集大成としての2003年5月の新国防調達規則の制定(改版:新5000シリーズ制定)、並びに最近のTransformationに関連する新取得手法採用の動き、イギリスにおけるCapability概念に基づく重点分野志向の調達と、ニーズの変化に対応する方向で取得するSmart Acquisition (1997年のSPI: Smart Procurement Initiative200010月に変更)の採用、及び民間活力の利用に指向した効率化政策、フランスにおける1997年以来の調達改革と組織改編、ドイツにおける防衛装備取得手順の基本的変更となるCPM (Customer Product Management)の制定とこれに伴う2000年4月の大規模な調達組織の改編、などである。

一方わが国では、改革の掛け声は大きかったが、取得・調達制度や組織の徹底的な不具合摘出や見直しがほとんど行なわれず、1996年以来の取得・調達改革でも具体的で実効性のある施策は策定実施されていない。

これは、諸外国の事例研究が十分でなくわが国の不具合を十分に認識できなかったり、わが国独自の諸制度や慣習を根本から改編する勇気が不足していたり、責任の所在が明確でなかったり、といった理由はさまざまであろうが、最大の原因は、諸外国でもそうであったといわれる「関係者の責任感の欠如と意識改革の不徹底」にあるのではないかと考えられる。

 

おわりに

一向に進展しないわが国の装備品取得・調達改革の問題点を諸外国の視点から整理してみたが、そのほとんどの点において、不具合の深さや広さは極めて大きく、このまま推移すれば近い将来わが国の国防力が空洞化することもありうるほど問題は大きいといわざるを得ない。ここでは問題点の指摘のみにとどめたが、関係者諸氏の十分な検討と思考及び決断が不可欠であると確信する。

 

参考文献

(1)庄野凱夫「装備品取得・調達改革の疑問点」DRC年報 20019

(2)庄野凱夫「防衛装備品整備の基本問題」DRC年報 20029

(3)庄野凱夫「防衛産業政策をどう進めるか」DRC年報 20039

(4)Ministry of Defence, Defence Industrial Policy, October 2002