米・独軍の変革から学ぶもの
(財)DRC研究参事
遠 山 久 人
はじめに
2001(平成13)年に米国で起きた「9・11テロ」事件は、21世紀における戦争様相の複雑な一面を浮き彫りにしたが、それ以降、このような新しい形のいわゆる「非対称脅威」等に対応するために、国家及び国際社会にとって、多国間の協力を含む防衛体制の改善が急務とされている。
このような状況において、わが国では、政府・防衛庁を中心に、21世紀に相応しいわが国の防衛力のあり方について組織的な研究がなされているが、これまでに公表された検討成果を見れば、まだまだ解決すべき課題が多く残されているように見受けられる。
この件に関して主要諸国の対応を見てみると、特に米国及びドイツにおける取り組みぶりが際立っており、両国では、新たな時代に適応するための軍事組織及び態勢の抜本的な改革がハイテンポで進められている。
自衛隊と米軍及びドイツ軍とでは、その規模、編成及び運用の地域的広がり等にそれぞれ違いがあるが、現在米・独両国において進められている軍の変革について、基本的な考え方を整理し、把握しておくことは、わが国が抱える諸課題の解決に資するためにも有意義なことであろう。
1.米国における軍の変革
ブッシュ大統領は、2004年8月16日オハイオ州で開かれた退役軍人の集会で演説し、米軍の大規模再編(Military Restructuring)の構想を明らかにしたが、クリントン政権時代にスタートしたとも言われる米軍の“Transformation”(変革)は、現政権の下で急速に進展し、逐次具体化する方向にある。
この大統領の再編構想には、軍の近代化のみならずグローバルな軍事態勢の見直しも含まれているが、公表された政策関連の資料を基に、「米軍の変革」についてその基本的な考えを要約すれば、以下のように整理することができる。
(1)環境及び軍変革の必要性の認識
米国のラムズフェルド国防長官は、2004年8月17日の上院軍事委員会における証言で、「冷戦が終わった今、もはやソ連の戦車がドイツの北部に進行する事態などは予想できない」と述べているが、従来型の戦争が生起する危険は遠のいたというのが米国においても一般的な見方となっている。
一方、「9・11テロ」を機に大規模テロや大量破壊兵器(WMD)の拡散などの脅威が現実のものとしてとらえられるようになり、それは、その後のアフガニスタン及びイラクにおける戦争へとつながっていった。そしてこれらの戦いの間に、米軍の部隊運用に際して数々の不具合事項が表面化し、多くの教訓が得られたが、冷戦終結後に描かれた米軍の戦略目標と再編プログラムの再見直しが急務とされた。
とりわけイラクにおける作戦では、空軍と陸軍の間で戦術レベルの情報シェアリングがうまくいかず、保有情報への相互アクセスが不十分であったと言われているが、この戦争を通して、統合化された情報活動と統合チームとしての計画立案及び戦闘遂行の重要性が認識された。また、イラクでは、紛争後の安定化及び再建のための作戦“Post-conflict Operations”(紛争後作戦)の難しさが浮き彫りにされた。
そしてこのような教訓に基づいて、米軍は、軍の質を維持し、統合戦遂行能力を強化し、21世紀の挑戦に適切に対応できるよう軍の変革をハイテンポで進めている。
(2)変革の理念及び重視事項
2003年の国防報告では、米軍に必要な挑戦として、@当面の対テロ戦争に勝利し、A概ね2010年までに直面すると見られる脅威に備え、B2010年ごろ以降に直面する脅威に備えて、軍の変革を継続することが挙げられている。
そして、対テロ戦に勝利するために、米軍は、突然の変化に素早く対応できなければならないとして、迅速性、柔軟性及び軽量性が重要なことを強調している。即ち、中東のテロリストなど「新たな敵」を念頭に、機動力重視のスリムなシステムに切り替える必要性が指摘されている。
同報告の中ではまた、「“Effect”(効果)志向的な考え方は、国防省が軍の規模と形態を決める伝統的な方法を変える第一歩である」と述べられているが、軍近代化の焦点は、「数」ではなく「能力」に当てられ、換言すれば「量」から「質」への転換にあると言うことができよう。
(3)変革後の編組及び能力
現在実施中の変革が計画通り進めば、米国は、より敏捷で、より柔軟性のある軍隊を運用することができ、米軍部隊は本土に駐屯し、そこから遠く離れた運用地域に展開して、脅威に応じて各種の作戦を遂行することができると期待されている。
2004年の国家軍事戦略には、戦略的原則として@Agility(敏捷性)、ADecisiveness(断固たる対応力)、BIntegration(統合)が挙げられているが、変革の実現によって、任務の全スペクトラムにおける優越(Full Spectrum Dominance/FSD)を獲得することができると考えられている。また、敏捷性のある部隊は、例えば支援作戦から戦闘行動へ、或いは逆の方向へと様々なタイプの作戦の間でシームレスかつ迅速に転換し、柔軟に任務を遂行することが期待されている。
陸軍の場合、「将来戦闘システム」(Future Combat Systems/FCS)では、ネットワークを形成するそれぞれのコンポーネントが高い殺傷性、生存性、反応力と継戦能力を備えることが求められている。そして、このようなFCS装備の陸軍部隊は、現在の重戦力部隊に匹敵する戦闘能力を持つことになると期待されている。
陸軍部隊のFCS化の第1ステージでは、2020年までに概ね現役部隊の1/3が改編されるよう計画されている。
2.ドイツにおける軍の変革
ドイツ政府は、2000年6月14日連邦軍の改編構想を閣議決定し、「21世紀に確実に適応し得る連邦軍」への変革に着手した。その後、2002年に国防白書に準ずる「連邦軍−2002」が、次いで2003年には「国防政策指針」が国防省から発表され、連邦軍の向かう具体的方向が逐次明らかにされた。更に、2004年1月実施された国防大臣の年頭記者会見において、連邦軍の戦力構成を抜本的に改革する新たな考えが公表された。
これらの公刊資料に基づいてドイツ連邦軍の変革を概観すれば、以下のようなことが特筆事項として挙げられる。
(1)環境及び軍変革の必要性の認識
冷戦の終結に伴うワルシャワ条約機構の解体によって、ドイツを取り巻く国際的安全保障環境は著しく改善され、現在のドイツは、歴史上初めて、周囲を敵対国によって直接囲まれていない状態を経験している。特に近年、EUやNATOの東方拡大並びにNATO・ロシア間の協力関係の強化に伴って、現在の欧州において大規模で全欧州を巻き込むような戦争が生ずる危険性は少ないと判断している。
しかし、ロシアの一部の共和国や中・東欧諸国に存在する未解決の政治・社会的、人種的、宗教的紛争などは、国際テロリズム、国境を越えて活動する組織的犯罪活動及び増大する移民の動きと結びついて、ドイツ及びヨーロッパの安全保障に直接的に影響を与えている。また、将来万一これらの諸国で政治的・社会的不安定が深刻化し、内戦状態に陥ったような場合には、当該地域に住むドイツ系住民に危害が及び、その結果大量の避難民がドイツ領内に流入する事態が懸念されている。
一方、「9・11テロ」以降大規模テロ攻撃などの非対称的な危険が高まっており、ドイツでもこのような危険な事態が起こることが懸念されている。そして、このような国際テロに対する予防及び対処のためには、国際的に協調しながら、時に連邦軍を使用して断固たる対応措置を講ずることが必要と考えている。
このように、ドイツの安全保障に係る挑戦は、多様で複雑かつ予測困難なものになっており、軍事力をもって対処すべき事態も多岐にわたるものととらえている。そして、このような環境の中で、軍の運用はもはや地理的に制限されず、国家と国民の安全が危険にさらされるところならばどこででも行われ得るし、従って、連邦軍の国際的活動の一環としての運用スペクトラムは拡大し、作戦の烈度、規模及び期間もいろいろなケースがあり得ると考えられている。
ドイツ政府は、限りある国家資源の有効活用に努めながらこれらの多様な要求に適切に応えていくためには、軍の変革が不可欠であると考えている。
(2)変革の理念及び重視事項
ドイツの国防政策の2つの柱を形成するものは、「同盟による防衛」と「総合防衛」であるが、ますます拡大する運用地域において、他国の軍隊と共同して迅速かつ効果的に行動するため、連邦軍には改善された戦略的展開(機動)能力、グローバルな偵察能力、有効かつ相互運用可能な指揮システム及び手段が求められている。
このような状況の下で現在行われている連邦軍の変革の本質的な特徴のひとつは、国際的に拡大された連邦軍の運用任務に適合した国家的な指揮組織を作り出すことにあり、防衛任務以外での国外における連邦軍の運用を指揮するために、2001年7月“Einsatzfuehrungs-kommando der Bundeswehr”(連邦軍運用指揮司令部)が新たに創設された。
また、連邦軍の整備及び運用に当たっては、従来から、枠にとらわれない統合的思考と措置が重視されており、それぞれの軍種内の能力ではなく全体としての能力をまず優先すべきものと考えられている。新たな軍の改編構想では、中央で処理すべきような支援任務から各軍種を解放し、より機動的で柔軟に部隊を運用することを追求しており、そのために新しく“Streitkraeftebasis”(統合支援軍)を編成した。
新しい安全保障政策上のリスク及び機会は、連邦軍に新たな能力を求めており、また、国際テロリズム等のより蓋然性の高い危険に即応しうる態勢を求めているが、軍隊の兵力そのものに関して、新しい構想では、集団的防衛の要求及びその他の同盟の任務に応え得る範囲で、できる限り低い水準に設定するよう考えられている。
(3)変革後の編組及び能力
このたびの変革をもって連邦軍は、変化した安全保障政策的環境、拡大した任務スペクトラム、並びに削減の方向にある人員及び予算等の政治パラメーターに構造的に適合する能力を持つようになると期待されている。改編後の連邦軍は、実際の運用状況に適合するように編成され、より短い準備時間をもって、より良く教育されたプロフェッショナルな部隊として運用されるようになるであろう。
2004年の年頭に発表された新しい構想の下で、連邦軍は、陸・海・空の3軍種と新たに設立された統合支援軍という基本的な編成を維持しながらも、全体の戦力構成を軍種横断的に@Eingreifkraefte(介入戦力)、AStabilisierungskraefte(安定化戦力)及びBUnterstuetzungskraefte(支援戦力)の3つのカテゴリーに区分して整備し、運用する方向にある。そして、これに合わせて各軍種内の作戦・機動に任ずる部隊の改編が行われている。
第1の「介入戦力」は、強烈度で比較的短い期間の多国籍的かつ統合のネットワーク・セントリックな作戦のために優先的に使用される。即ち、主として軍事的に組織された敵に対する平和強制的措置を遂行するための戦力で、約35,000人から成る。
第2の「安定化戦力」は、平和安定化措置の広いスペクトラムにおいて、低烈度及び中烈度かつ比較的長期間の統合の軍事作戦を遂行する。即ち、部分的に軍事組織化された敵及び非対称的に戦う相手との戦闘を遂行する戦力で、約70,000人から成る。
第3の「支援戦力」は、全烈度スペクトラムにおける包括的、統合的かつ持続性のある運用支援並びに連邦軍の基盤的な運営に当たる戦力で、約137,000人から成る。
このような戦力構成の枠組みの中で、ドイツは、NATO及びEU或いは国連等が実施する多国籍の平和支援行動等に参画するために、緊急の要求に応えて派遣・運用し得る要員及び部隊を準備している。
新たに編成された統合支援軍は、@国家的指揮の実行、A医療・衛生業務を含む基地後方支援、B一般軍事情報活動及びC中央軍事教育等を主たる所掌業務とし、作戦・機動に任ずる各軍種の部隊を支援する能力を有する。
3.課題解決上の参考事項
わが国の防衛の在り方について検討する過程で浮き彫りにされた諸課題の解決に資するために、米・独軍の変革の基本的な考え方の中から、何らかの参考に供しうるものをピックアップすれば以下のようなものが挙げられる。
(1) 統合戦闘能力の強化
2004年の米国国家軍事戦略では、統合戦闘能力の強化に関して、将来の挑戦に対応できるシームレスな「トータルフォース」の創造と、統合的な情報活動とりわけ情報責任分担能力の改善の重要性が強調されている。またこの際、統合的戦争遂行能力を改善するために、技術的解決を図るのみならず、ドクトリン、組織、訓練システム、物的調達の改善、並びにリーダーシップの準備、人事計画及び施設面の標準化・共同使用化の必要性が述べられている。一方、2003年の国防報告は、「統合作戦遂行の指針となる作戦コンセプトの立案は変革に向けての最優先事項である」と示されている。
これらの文書では、「将来の作戦において適応性を有する部隊は、よりモジュール(柔軟な組み換えが可能)であり、特定の任務のために統合的能力を迅速に再形成し得るものでなければならないが、この際のモジュールな軍隊は、各軍種コンポーネントの確固とした核心的能力の上に築かれる」ということが強調されている。
冷戦時代のドイツでは、連邦軍がほぼ完全にNATOの軍事組織に組み込まれていて、その運用に関して「同盟」が「統合」に先行していた。この間においても、ドイツ人の合理的なものの考え方を反映して、当時の連邦軍においてあらゆる可能な分野で統合の強化が図られてきたが、今日では更にハイテンポで統合化が進められている。彼らの考えでは、統合は、制度的、組織的、精神的及び技術的な結合を前提としている。
現在のドイツ軍では、統合化の推進によって不要・不経済な重複が排除され、各軍種がそれぞれ作戦任務に集中することが可能になると考えられているが、指揮、情報及び後方支援分野の統合化と共に教育における統合の強化が重視されている。今後の兵士の教育は、基本教育の段階から軍種共同で統一され、現実に最も起こり得る事態での運用に適合するように実施される。それは将校の教育において特に重視され、幹部候補生の教育から上級の指揮官・幕僚の教育まで広範に適用される。
(2) 将来の脅威への備え
2004年の米国国家軍事戦略には、永続的で出現しうる挑戦(Challenges)として、@正規かつ進歩した軍事的能力及び明確な軍隊を使用して国家が仕掛ける伝統的な(Traditional)挑戦、A非国家及び国家的行為者によって採用・使用される非在来型手段による不正規の(Irregular)挑戦、Bテロリスト及びならず者国家がWMDを手に入れて使用するか、或いはWMDに似たような効果を持つ手段を作り出すことで生み出す災害的な(Catastrophic)挑戦、C敵性勢力が技術的能力をブレイクスルーし、特定の作戦領域での優位性において取って代わり、混乱に導くような(Disruptive)挑戦を挙げ、まず第1に伝統的な挑戦に対する備えの重要性を指摘している。
一方、米陸軍のトランスフォーメーションについてチェックした「戦略・予算評価センター」の報告書には、「これらの挑戦に対応するために、米陸軍は次の4つのタイプのバランスの取れた戦力を必要とする」と記されている。
@第1義的に本土防衛に携わる領域陸軍(Territorial Army)
A主たる作戦終了後の安定化作戦に携わる治安陸軍(Constabulary Army)
B世界大戦間に最も有力であった遠征陸軍(Expeditionary Army)
C冷戦間に最も有力であった前方展開陸軍のような開拓者陸軍(Frontier Army)
2004年の年頭にドイツ国防大臣が発表した連邦軍整備の新たな構想では、将来の脅威に対する取り組みについて、「すべての戦力は、政治情勢の明らかな悪化のケースにおいて、必要な軍の再建のための核としての役割を果たさねばならない。そのようにして、我々は蓋然性の低くなった古典的な国家防衛上の必要性のためにも準備し続けることになる」と強調している。
(3)即応性と経済・効率性との調和
2003年の米国国防報告には、「新防衛戦略の要は即応能力であり、侵略の抑止或いは迅速な撃退に向けて最初の条件を整えることである。このような考えでは、もはや、時間をかけて圧倒的な兵力をゆっくりと増強していくということはしない。ゆっくりしたアプローチは、戦略的柔軟性を制限し、脆弱性を高めかねない」として、即応態勢維持の重要性が強調されている。
しかしそこには「資源の浪費」という落し穴があるので、変革によって、米国は、常に「即応性の維持」と「戦闘への過大な準備」の間の正しいバランスを見出し、将来のためにそれを維持するよう努めている。
ドイツ政府は、時勢に適合した形での一般兵役義務の制度を、連邦軍の即応性、適正な任務遂行能力及び経済性の確保のために不可欠なものと認識している。それはまた、近年拡大している国際的な運用の枠組みの中でも不可欠なものであり、引き続き維持されるべきものと考えている。
おわりに
米国では、軍事組織の絶えざる変革は、変化する世界でのサバイバルと競争における優位性保持のために必須のことであると認識されている。そして、変革のためには技術にだけ焦点を当てていてはだめで、重要なのは、人間の姿勢・態度、信条及び価値観を変えること、即ちカルチャーの変革であると考えている。この際、変革努力の焦点をカギとなる能力の分野に当てることが必要なのは言うまでもない。
変革は、限りある国家の資源を有効に活用し、或いは保存して、将来十分に役に立つ軍の建設・整備のためのポテンシャルを高めるものであり、その意味で、健全な軍事産業基盤の育成は、軍の変革にとって本質的な要素である。
防衛力の整備及び運用において数多くの制約事項を抱えるわが国としては、米国及びドイツにおける軍変革の考え方及び進め方を参考にしながら、将来に向けて防衛力の絶えざる変革に努めることが必要であろう。
参考文献
1.米国の「2003年国防報告」及び「2004年国家軍事戦略」
2.White House Statement
on Military Restructuring (2004.8.20)
3.Bundeswehr 2002---Sachstand und Perspektiven(「連邦軍-2002」) (2002.4.8)
4.Verteidigungspolitische Richtlinien(「国防政策指針」)
(2003.5.21)
5.Konzeption und Weiterentwicklung der Bundeswehr(「連邦軍の構想と更なる発展」/国防相の年頭記者会見資料) (2004.1.13)