国難への対処を考え直すとき  2011/6/1

理事長 上田 愛彦

3月11日突如発生した未曾有の巨大地震とこれに続く大津波により、被災された数多くの方々には心からお見舞い申し上げます。

しかし同時に同じ原因で被災し、今尚先行きが見えない福島第1原子力発電所の事故では、現在報道されている事柄だけ見ても明らかに最悪の事態を甘く見続けてきた人災部分が多いのではないか。 東京電力だけをせめる前に国家としてこの重大なる国難を平素から認識する方法、組織、そして発生後いち早く決断し、必要なことを超法律的にでも実行してゆく態勢にはないことが問題ではないのか。 つまり日本人の国難への対処が今、世界の注目する中で厳しくも問われ、場合によっては単に経済的餌食となってしまう危機的状況にある。それが3ヶ月経っても会議ばかり開いて明確な方向が出ないこと自体、最大の国難ととらえるべきではなからろうか。

今、国家としてこの災害、この原発事故を非常事態として考えていないとしたら一体国家とは何なのか、自衛隊を10万人出せば事がすむのか、地方にだけまかせてすべて克服できると考えているのか。これを契機に次に来る国難にどう対処するのか、教訓はいくらでもある。

①原発事故に限らず平素から国家レベルでの最悪事態をとことん考えておくことは非常事態対処の基本である。 しかし、これをどういうメンバーで考えるかが問題であり、内容が分らないからとて現にその事業を行っている者、あるいはその利害関係にある者を集めて審議しても本質的な最悪事態が出てくる筈がない。理論として考えるだけでは不十分であり、また現存の法律面からだけでは最悪の事態を予測することは到底不可能である。 すなはち原発なら原発と利害関係のない第3者(複数)に原発の最悪事態を創造的に討議させて導くべきであるが、第3者は往々にして原発に関する知識、現場経験もなく、独自に考え出すことができないので関係者を1/3程度メンバーに入れる必要がある。 こうしたメンバーの構成には単に法律面での管理者のみならず科学技術的素養をもち、しかも奇想天外とも言える発想力に富んだ人物の存在が重要となるが、通常こうしたうるさい人間はメンバーから排除されているのが世の常であり、御用メンバーで当たりさわりのない結論を出すくらいならやらない方がよい。 これをチェックできる第4者が必要となることもあろう。

②非常事態が発生してから速やかにやるべきことを決断し、少しくらいはずれて法律的に定めがなくとも必要なことは実行し、修正してゆく度量をもつリーダーの存在が重要である。 これらが人気取りや政争の具とされるに至っては国民を愚弄するにも程がある。 そもそも政治家、閣僚はすべて国民に対し、選ばれた公僕であることを認識し、常に国家を代表し、国家のために全力を傾注すべきことは当然であり、国難にあたってはこれらが際立って本質的に国民に理解されるべき機会でもある。 総選挙とは正にこの点がポイントである。 米国の連邦危機管理庁(FEMA)では大災害に際し、当該地区にどういう段階区分で連邦政府からの財政を含む支援を行うかを大統領が15分以内に決定し、州政府に通知すると聞く。 日本ではそうした制度はないが今回の災害に際し多くのボランティアが自発的に被災地を訪れ自主的支援が行なわれた。 一例として、やる気になれば政府として1万人位の緊急支援隊を全国から集め、救援活動をもっと迅速、有効に行うことができたのではないか。 そういうところに頭が廻らないということは、そもそも普段から何も考えていないということではないか。

東京電力福島第1原子力発電所事故の教訓  2011/6/1

研究委員 大島 紘二

東京電力福島第1原子力発電所事故は、未だどのようにして終息するか先が見えないが、原子炉の技術的な側面は専門家に任せるとして、5月末日までに明らかになった危機管理的な側面からの教訓は、大きく分けて4項目ある。

その第一は、原子力関係者に「我が国の原子炉は軽水炉であり、チェルノブイリ原子炉のような事故は起こりえない」という誤算があったことである。 臨界連鎖反応が起きていないことは確かであるが、スリーマイル島原子力発電所事故の事故以上のメルトダウン状態となり、環境へ膨大な放射性物質を放出している。 これまでに多数の原子力関係者に会ったが、彼ら全員が言うことは、多数の事故防止手段を並列に準備しているので安全であるとのことであった。 しかし、その並列になった多数の事故防止手段は、すべてが電源と直列につながっていたことに誤算がある。 防災基本計画の原子力災害対策編では、その前文で「たとえ不測の事態が発生した場合であっても対処し得るよう柔軟な体制を整備するものとする」となっており、人間がつくった機械である以上必ず事故が発生するとの考え方をすべきものと思う。

第二は、汚染情報に客観性がなかったことである。 私達は汚染情報に客観性を持たせるために、地方自治体にも独自の汚染情報システムを持つべきだと考え、ガンマ線測定器と無線LANとを使った汚染情報システムを考えたことがある。 スリーマイル島原子力発電所のあるペンシルバニア州にはペンシルバニア危機管理機関(PEMA)に独自の汚染情報システムを持っており、汚染を常時監視している。 こうしたシステムがあれば、地方自治体に情報が来ないというイライラが解決される。 100億円もかけたSPEEDIシステム情報が、肝心の時期には隠匿されたことは非常に残念である。 客観的な情報がなければ、避難を呼びかけても住民の強力が得られないのは当然である。

第三は、原子力発電所立地に関する危機管理の不備が露呈したことである。 我が国の原子力発電所はすべて沿岸に立地しており、しかも特定地域に集中している。 これには非常に大きなリスクがある。沿岸は海からのゲリラ攻撃に非常に脆く、原子炉本体は強固にできているとしても、周辺設備はそれほど強固でない。 さらに、特定地域に集中していると、格好の攻撃目標となる。

第四に、原子力発電所は電子的に制御されていて、サイバー攻撃に対して脆い。 SPEEDIシステムは、全国的なネットワークを構成している。これは裏返せば、サイバー攻撃の侵入点が多いことを意味する。

今後、教訓事項が次第に明らかとなるだろうが、急に原子力発電を中止することはできないから、原子力発電が続く限りにおいて、こうした教訓を活用して欲しいものである。

我が国周辺の対中軍事環境の劇的変化  2010/12/1

研究委員 五味睦佳

周知のとおり、最近の中国の経済力、軍事力の増強は目を見張るものがある。経済力については、米国国家情報会議(NIC)によれば、中国は2025年までに世界第2の経済大国になると予想し、日本の内閣府でも2030年には米国を抜き、世界のGDPの23%(米国は17%)を占めると予想している。 軍事力についても、公表国防費の規模は過去5年間で5倍以上、過去20年間で約18倍と驚異的な増強で、7月28日米国議会調査局は、中国は2015年から5年間で6万トンから7万トンの空母を6隻建造すると報告している。 空母のみならず、対衛星兵器、電子戦、サイバー戦、統合防空システム、弾道、巡航ミサイル、高性能戦闘爆撃機、UAV,潜水艦、機雷戦等の総合的分野での増強は西太平洋の軍事バランスを中国優位にしつつある。

    他方リーマンブラザーの破綻、イラク、アフガンの戦費の増大等による米国の経済力・軍事力の低下は著しい。 米海軍も建艦計画に苦しんでおり、質的に落として数を確保したとしても2025年ごろには現在の280から230程度に減少するのではないかと懸念されている。 更に劇的な変化は米国が戦後60年間絶対的な軍事的優位の根幹としてきた空母からの陸上への戦力投射作戦が、中国の空母攻撃用中距離弾道弾ミサイルDF-21Dが早晩実戦配備されることにより著しく制約されることである。 すなわちこのミサイルが存在する限り、空母は作戦海域に近づくことは極めて困難となり、緒戦において対中国作戦の主役からはずされ、脇役となることになる。 周知のように米国はロシアとの中距離核兵器制限条約により、射程500kmから5500kmの弾道ミサイルは保有できない。 空母が中国の沿岸に近接し、これらの中距離ミサイルを無力化することが出来た時期は、それほどの脅威ではなかった。 しかし緒戦において空母の機動打撃力が期待できない状況では、中国の陸上攻撃用を含むこれら中距離弾道ミサイルは、嘉手納、岩国、横須賀さらにはグアム等に前方展開している米軍基地への重大な脅威となる。 このような深刻な状況に鑑み、ゲーツ長官は今年5月3日海軍協会で空母を中心とする海軍戦略を見直すとともに、空軍と海軍が協力し、革新的な統合作戦[Joint Air-Sea Battle Concept]を策定することの必要性を説いた。

これを受けて、海軍作戦部長及び空軍参謀長は現在これの作業を実施している。先般著名なシンクタンクCSBAはこれのたたき台として[AirSea Battle]を発刊した。 これは対中国の作戦計画ではなくて、緒戦における空母の有用性が減少し、戦略バランスが著しく中国優位に傾くのを、空軍と海軍が密接に協力することにより、いかに相殺(Off Set)し、バランスを保ち、中国との紛争を抑止することにあるとしている。 抑止に失敗した場合、これが有効に機能するためには、緒戦において、前方展開の米軍は中国の中距離弾道ミサイルの攻撃に耐えてこれを凌ぎ、反撃に転じるが、そのためには、基地の分散・抗堪化等日本の同盟国としての協力支援が必要不可欠としている。 前方展開の米軍の先制攻撃に対する脆弱性は劇的に増加しつつある。

日本が今のような腰の定まらないいい加減な対応をしているならば、西太平洋の軍事バランスは中国優位に展開し、やがて米国は西太平洋から、撤退することになり、日米同盟の解消、日本の中国の属国化という悪夢が現実のものとなる。 今回の尖閣諸島問題を契機に、我が国の安全保障論議を更に実のあるものにしなければならない。

米国海軍 ジョージ・ワシントン

中国海軍 空母

増大するサイバー脅威に備えよ  2010/12/1

研究参与 伊東 寛

最近、原因不明のシステム故障が多発している。鉄道の突然のダイヤの乱れや、航空管制システムのシステム故障、そのほかにもあまり公表はされてはいないが、産業界において各種のシステムトラブルが発生している。

もちろん、社会でコンピューターやネットワークを使用する機会が加速度的に増えているのだからこれらの障害は予期されていたと言うことも可能である。が、果たしてすべてがそうなのであろうか。

かつて、冷戦時代に「東京急行」というものがあった。ソビエト連邦の航空機が定期的に南下してきて東京付近でUターンして帰っていく事象であるが、この行動の目的は、わが国の防空体制の調査、特に対空監視レーダー等の技術諸元の収集であったと考えられる。こうして平時の間に収集されたデータはやがて有事の際に日本のレーダーに対するジャミングをかけるための基礎資料として使われる予定であったと考えられる。

こうして考えると、現在、日本の各地で発生しているシステム故障・障害のいくつかは某国(特にロシアをさしているわけではない)が行っているサイバー上の東京急行の可能性があるのではないかと危惧するところである。

現在、これらのシステム故障に関して、その実態は十分に公表されていない。まず、現場レベルでウイルスに感染したということを上に報告すると怒られるのではないかという人間的な事情があり、次に、その報告がトップまでいったとしても、会社のシステムがハッカーに侵入されていたと公表することは会社の信用度を落とし株価に影響を与えるかもしれないと、トップがそれを伏せようとする体質もあるかもしれない。

こうして、貴重な被害情報が広く共有されないために、社会に危機感が醸成されることもなく、積極的な対策も採られていないというのが現状であったとしたら、それは寒心すべきことと言わねばならない。

従って、今後の政府が取るべき具体的な方策のひとつとして、これらのサイバー事故・障害をしかるべきところに届け出る仕組みが必要であると考える。つまり、これらの事故や障害等をサイバー上の法定伝染病に指定するということである。あわせて、サイバー関連の法律をさらに整備していく必要もあろう。たとえて言えば、それらはサイバー建築基準法であり、サイバー道路交通法と呼ぶようなものになるはずである。

今後、国民すべてが広く危機感を共有し、一日も早く必要な法律整備がなされることを願ってやまない。